頭文字を使う米国式の「略称文化」は、データ処理やプログラミングでの「コード化」にうまくなじみますが、日本の略称方式ではそうは行きません。例えば、「ロサンゼルス」「セクシャル・ハラスメント」を日本では「ロス」「セクハラ」と略します。米国での略称は、それぞれ「LA(なので、ロスでなく、エルエイと会話で言えるとカッコイイ)」「SH(あまり使いませんが)」で、米国式の方が、コンピュータ処理は圧倒的に簡単です。で、日本でも、米国式の略称を取り入れ、路線名や駅名を略称で表示しようとしていますが、苦労の跡がいろいろと見えます。
2020年の東京オリンピック・パラリンピックをはじめ、海外からの観光客にも、東京の地下鉄の路線や駅名を分かりやすくするため、路線名をローマ字1文字、駅名を数字で表しています。路線名の略称を見ると、プログラマーなら、「この略称を決めるのは、大変だったろうなぁ」と思うはずです。以下に略称を示します(開業の早い順)
これを見ると、不思議がたくさんありますね。特に、大江戸線の「E」、三田線の「I」、半蔵門線の「Z」、は、「お疲れさまでした」と言いたくなります。
まず、大江戸線(Oedo-Line)がなぜ頭文字の「O」でないのか気になります。日本の紙幣には1枚ずつ、違う番号が振ってあり、まず、「アルファベット1文字+6桁の数字+アルファベット1文字」、それを使い切ると、「アルファベット2文字+6桁の数字+アルファベット1文字」を使用し、アルファベットの「I(アイ)」と「O(オー)」は、数字の「1」と「0」と紛らわしいため使いません。紙幣方式に従い、「ゼロ」と「オー」が紛らわしいから、大江戸線を「E」にしたのなら、三田線はなぜ、「1」によく似た「I」にしたのでしょう?
三田線は、都内の地下鉄で6番目に早い開業とはいえ、“MITA”のうち、「M」は丸ノ内線に、Tは東西線に、Aは浅草線に取られてしまい、残りは「I」だけ。そこで、消去法により「I」になったと思います。また、「ゼロとオーは、“007”を”ダブル・オー・セブン”と読むなど、既に混同していて非常に紛らわしい。なので、使わない。一方、イチとアイは区別がつくので使える」と考えたのでしょうね。
情報処理系技術者は、ここで思考を止めてはなりません。もし、先に「池袋(Ikebukuro)線」という路線が開業していたとして、「I」の略称が「売り切れ状態」だったら、どうしたでしょうか?
「想像できることは、現実に起きる」と考えるのがIT系エンジニアの基本的な思想です。逆に言えば、「自分が想像できないバグは、目の前にぶら下がっていても見えない」ということです。デバッグ工程やテスト工程で、ソフトウェアの品質を上げるために、いろいろ意地悪なテストケースを考えますが、「想像力の限界が品質の限界」の場合が少なくないように思います。豊かな想像力や発想力は、優れた品質制御には不可欠です。また、ソフトウェア開発工程の70%を占める「保守」で、機能追加や機能変更をする場合、どうすれば、分かりやすく簡単になるか、将来の拡張性を確保できるかを常に考えねばなりません。その意味でも、「名称のコード化」は重要で、下手をすると、「西暦2000年問題」の二の舞になってしまいます。
自分が地下鉄の路線の略称を決めるとしたら、どうするか、以下の問題を考えてください。
銀座線(略称:G)、丸ノ内線(略称:M)、浅草線(略称:A)、日比谷線(略称:H)、東西線(略称:T)、池袋線(略称:I)が既に開通していて、次に、三田線(目黒駅〜西高島平駅)を開通させることになった。三田線の略称をどうするか、解決策を2つ以上考えよ。
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