トヨタ自動車は、歩行リハビリテーション支援ロボット「ウェルウォーク WW-1000」を発表した。2004年のコンセプト提案から始まった同社のパートナーロボット事業として、初めて有償で販売する製品となる。
トヨタ自動車は2017年4月12日、東京都内で会見を開き、歩行リハビリテーション支援ロボット「ウェルウォーク WW-1000」を発表した。2004年のコンセプト提案から始まった同社のパートナーロボット事業として、初めて有償で販売する製品となる。2017年5月に受注を、2017年9月に出荷を開始する。価格(税別)は、初期費用が100万円、月額が35万円で、レンタル販売となる。販売目標台数は発売から3年間で100台。
同社未来創生センター 常務役員の磯部利行氏は、トヨタ自動車がパートナーロボット開発に取り組む理由について、「少子高齢化が進む日本において、高齢者を支える現役世代の負担は加速度的に重くなっている。人と共生するパートナーロボットは、その現役世代の負担を減らすという意味で大きなニーズがある」と説明する。
同社はパートナーロボットの実用化について「シニアライフの支援」「医療の支援」「自立した生活の支援」「介護の支援」の4領域で取り組んでいる。ウェルウォーク WW-1000は「医療の支援」で開発してきたパートナーロボットになる。
脳卒中で倒れると、多くの場合で下肢にまひなどが発生して歩行が困難になる。再び歩行できるように下肢の機能を回復するには、理学療法士による歩行練習のリハビリテーション(以下、リハビリ)が不可欠だ。しかし、従来のリハビリは患者にとって極めてつらく、理学療法士の労働時間を占める割合が最も高い作業でもあった。
トヨタ自動車 パートナーロボット部 部長の玉置章文氏は「ウェルウォーク WW-1000を使えば、歩行練習のリハビリに対する患者のやる気を高めるとともに、理学療法士の負担を減らす効果が得られる」と胸を張る。
ウェルウォーク WW-1000は、歩行速度に合わせて動くトレッドミルやリハビリに使う大型モニター、理学療法士が全体の操作に使うタッチパネルなどを含めて本体と、まひした側の脚に装着て膝の曲げ伸ばしを補助するロボット脚から構成されている。ロボット脚は、体重を掛ける立脚時はモーターによるトルクでしっかりと支え、脚を振り出す遊脚時は荷重センサーの情報を基に振り出しの動きをアシストする。
また、患者の病態に合わせて「うまく補助し、補助しすぎない」(玉置氏)ようにアシストを調整することができる。さらに、従来のリハビリでは、倒れることへの恐れもあって歩行練習をうまくやれないという問題があったが、ウェルウォーク WW-1000はロボットがしっかりと体を支えるので倒れることがない。このため、患者がリハビリに積極的に取り組むようになるという効果があった。さらに、大型モニターや音を使ってリハビリの目標を明確に示したり、アシストの調整度合いを数字で示すことで回復度合いを実感させたりといった効果も得られたという。
2007年から開発に協力してきた藤田保健衛生大学 統括副部長 医学部リハビリテーション医学I講座 教授の才藤栄一氏は「リハビリ現場の新たな道具であり、リハビリ治療の定量化・標準化に大きく貢献する。理学療法士の手は2本しかないが、ウェルウォーク WW-1000は千手観音のようにリハビリを助けてくれる」と強調する。
2014年秋からの臨床研究では、全国23施設に導入し、300人を超える患者が使用した。その結果から、屋内で歩けるレベルまで歩行機能が回復する速度は、従来のリハビリと比べて1.6倍になったという。「脳卒中などのリハビリの期間は約3カ月に設定されているが、患者によっては3カ月で回復しきらないこともある。3カ月を過ぎると強制的に退院させられる事例もあり、その場合は退院後の患者は移動の自由を得られない。ウェルウォーク WW-1000を使えば、3カ月で回復できる可能性を大幅に高められるだろう」(才藤氏)という。
理学療法士にとってもウェルウォーク WW-1000で得られるメリットは大きい。一般的なリハビリは、1人の患者につき1日当たり60〜80分行われる。このうち歩行練習にかける時間が半分を占めている。ウェルウォーク WW-1000で歩行練習を効率化できれば、リハビリの他の業務や、より多くの患者のリハビリに時間を割けるようになる。
ウェルウォーク WW-1000は、トヨタ自動車のパートナーロボット事業として初の有償の製品となる。それでは、パートナーロボット事業が同社の主力事業となって収益を上げていくのはいつごろになるのだろうか。
磯部氏は「現在の当社の主力製品である自動車も自動運転車やモビリティサービスなどによって事業の形が大きく変わるかもしれない。パートナーロボット事業は現在では大きな収益を上げていないが、さまざまな社会ニーズに応えることを目標にしており、それが新たな主力事業になっていく可能性があると考えている。そのためにも、しっかりと育てていきたい」と述べている。
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