大原雄介のエレ・組み込みプレイバック
AMDによるXilinx買収、両社のメリットと思惑(2/3 ページ)
(2) 売り上げ分野の拡充
AMDはPCマーケットを主戦場に置き、昨今は(一時期はほとんどゼロに近い所まで落ち込んでいた)サーバおよび組み込みマーケットで再びシェアを伸ばしつつはあるものの、まだ弱い。一方のXilinxはもともとが組み込みマーケットを主戦場にしつつ、昨今はサーバマーケットをフォーカスエリアにおいてビジネスを行っており、結果として両社の製品ポートフォリオは重複がほぼ皆無で、しかも補完的な関係にある。例えばXilinxはデータセンター向けのAlveoというPCIeカードタイプの製品を投入しているが、これはあくまでPCIeカードなので別途ホストが必要である。従来はここにIntelのXeonが使われるケースが多かったが、アクセラレータという性質上CPUとFPGAの間の双方向通信が多く、ところがXeonは現時点でもまだPCIe Gen3相当でここがボトルネックになる。ところがAMDのEPYCは既にPCIe Gen4に対応、おまけにCCIXと呼ばれるキャッシュコヒーレンシなInterconnectを利用可能となっており、Xeonを利用した時よりも効率よく通信が行えるので、システム性能を引き上げられるといった具合だ。
特にAMDはこれまでPCビジネスをメインにしてきた(というか、PCにフォーカスするために、その他の事業分野をどんどん切り捨てていった)会社であり、その意味ではIntelの後追いをしているだけでしかなかった。Intelが携帯基地局向けとか製造業向けといった、特定分野向けに垂直統合型ソリューションを提供しているのと好対照である。ところがXilinxの買収でこれが大きく変わる事になる。Xilinxは、こちらも携帯基地局とか医療・製造・航空宇宙防衛・自動車など特定の産業分野に向けたソリューションを提供しており、しかもそうした個々の分野に長けたエコシステムパートナー(要するに顧客の開発のお手伝いをしてくれる事業者)を多数抱えている。買収の結果として、AMDはこうした特定事業者向けのソリューションを提供できる、それこそIntelにかなり近いポジションに進出することが可能になった。取りあえずはこうした特定分野向けに採用されていたIntelベースのサーバを、少しづつAMDベースに置き換えてゆくところから始まるのだろうが、取りあえずこれまではアクセス不能だったマーケットに手が届くようになった事の功績は非常に大きい。
(3) FPGA時代への備え
そもそもだいぶ前から、汎用CPUで全部をカバーするところから、Domain Specific Processorを組み合わせたヘテロジニアス環境へ移行するのが必然とされており、IntelはAlteraを買収した後も、特にAI向けにさまざまな企業を買収、製品ポートフォリオを増やしたのみならず、2017年にAMDからRaja M. Koduri氏を招いて、今年ついに独自のGPUであるX^eシリーズを発表した(ラインアップがそろうまでにはもう少し時間が掛かるが)。これでIntelは汎用CPUとAI向け専用アクセラレータ、GPU、FPGAに加え、2018年にはeASICまで買収してセミカスタムプロセッサまで開発できる体制を「一応は」そろえた。一応は、というのは例えばAI向けプロセッサはNervana/Movidius/Havbana Labsの3社を買収。Nervanaは最終的に捨てる事になってしまったが、MovidiusとHabana Labsの製品は基本的な構成が全く違っているから、ソフトウェアも異なる。そこでOpenVINOという独自フレームワークの皮を被せ、同じ様に扱えるように見せかけている。あるいは現時点でのeASICのラインアップは、旧AlteraのFPGAをベースにすることはできるが、Intelが2019年に発表したAgilexは対象外となっているなどだ。ただこのあたりは時間が解決してくれる問題でもあり、現在Intelの社内ではまさにこうした「別のラインアップの製品を1つに統合する」作業を行っている最中であり、これが本当に完成すれば(*2)確かに他の追従を許さないレベルのソリューションを提供できる。
(*2) まあ、「やっぱり駄目でした」という可能性もある
これに対してAMDは、CPUとGPUに関しては確かに高い(=Intelと拮抗する)レベルの製品を提供中だが、それ以外のソリューションがまるで提供できていない。しかしここでXilinxの製品ポートフォリオを組み合わせる事で、CPU+GPU+FPGAというかなり柔軟なソリューションが提供できるようになる。例えばIoT Edge向けにEPYC Embedded+Artix/Kintex、なんてソリューションが広く提供可能になる。もっと言えば、AMDのChiplet構成を利用してFPGA FabricとかVersal AI coreで提供中のAI Engineを統合したCPU、なんてものも簡単に作り出すことが可能になった。特にAMDが出遅れているEdge AIのマーケットにおいても、これで一気にばん回できる可能性が出てきたことになる。
(4)ソフトウェア部隊の拡充
AMDのIntelに対する最大のビハインドは、実はソフトウェアである。残念ながらAMDは逆立ちしてもIntelのOne APIみたいなものを提供できる力はない。これはXilinxの合併後も大きくは変わらない。とは言いつつもXilinxを合併することによって、特定業種向けの知見を持ったFAE(Field Application Engineer)や、Verilogも書けるソフトウェアエンジニアを大量に抱える事になった訳で、こうした貴重なエンジニアを核に人員を増員していけば、Intelに負けないソフトウェア部隊を数年で構築することも夢ではなくなった。
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これを読めばここ1カ月のエレクトロニクス/組み込み業界の動きが分かる連載。注目すべき市場動向と注目すべき製品を取り上げます。
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