大原雄介のエレ・組み込みプレイバック
SamsungがNVIDIAの7nm EUVを失注/5nmレースの行方(2/3 ページ)
根拠は自動車向け規格である。Drive AGX Orinは、ISO26262 ASIL-B/Dを取得する(チップ単体でASIL-B、システム全体でASIL-Dを実現する)と説明されているが、このためには製造プロセスもこれに対応することが望ましい(製造プロセスが未対応でも不可能ではないが、余分な労力とコストが掛かる)。今のところSamsungは、8nm世代に関しては自動車向けプロセスの提供を行っている(同社としてはむしろFD-SOIを自動車向けに強く推している)が、7LPPに関しては今のところアナウンスがない。ところがTSMCは2020年5月末に、ISO26262およびAEC-Q100 Grade-1対応の自動車向け7nmデザインプラットフォームを発表しており、これを利用していたとすればISO26262 ASID-B/D対応もそれほど難しくはない。
では何があったのか? Samsungの7LPPを利用したチップ(Exynos 990)は、既に市場に出荷されている。調査会社のTechInsightsが早速これを解析した結果が上がっているが、TSMCのN7よりもロジック密度も高く、同じ規模のロジックであればTSMCのN7よりもダイサイズを減らせることが示されている。このExynos 990を搭載したGalaxy S20シリーズは2020年3月に発売も開始されており、量産工程そのものに大きな問題があるとは考えられない。
考えられるのは2つ。まずはSamsungの7LPPの立ち上がりがやや遅かった事だ。7LPPの量産開始は2020年2月20日とされている。一方でTSMCは、時期は明確にしていないものの、2019年第2四半期中にN7+の量産が開始されたと見られている。最初にこのN7+を採用したHiSiliconのKirin 990 5Gが2019年9月に発表され、10月にはこれを搭載したHuawei Mate 30 Pro 5Gがまず中国市場への出荷を開始しているあたり、第2四半期中の量産スタートは間違いないだろう。つまりSamsungはTSMCに3四半期ほど遅れてEUVの量産をスタートしたことになる。この遅れを嫌った、という可能性は無くはない。だとすればN7+を使うはずで、EUVではないN7を選んだ理由にはならない。
もう一つの可能性は、Samsungの7LPPはモバイル向けSoC(おおむねダイサイズは100平方mm台)を作るには十分であっても、ダイサイズ800平方mmのお化けチップを作るにはYieldが十分ではなかったという事だ。826平方mmのダイは、同社いわく「7nm世代では世界最大」だそうだが、実際そうだろう。プロセスを問わなければ、Cerebrasが2019年のHotChipsでWafer Scale Processorなるお化けを発表しており、ダイサイズは4万6255平方mm(一辺215mmほどの正方形に近い形状)。300mmウェハから1枚しか取れないという代物だが、これを別にすると800平方mm台のチップを平気で作るのはほぼNVIDIAくらいであり、前世代のVoltaベースのV100チップが815平方mmだったから、プロセスを微細化してさらに面積が増えている。
ここまで増えると、ウェハ1枚当たり60~70個ほどしか取れない事になるが、それより問題なのはYieldである。TSMCのN7ですら、この826平方mmを欠陥無しで作るのは無理であり、それもあって本来は8192 CUDA Coreと12chのMemory Controllerが搭載されているにもかかわらず、出荷される製品は6912 CUDA Coreと10chのMemory Controllerの構成である。要するに欠陥があってもそれをカバーできる様に冗長構成にしている訳だ。恐らく、Samsungの7LPPで製造した場合、さらに欠陥が多くて冗長ブロックを全て使い切っても製品構成が維持できない(例えば4096 CUDA Coreと8ch Memory Controllerがやっととか)と見なされたのだと思う。2018年から量産を開始し、だいぶYieldが上がったTSMCのN7と、量産が始まったばかりでまだYieldが十分ではないSamsungの7LPPでは明らかにSamsungの7LPPの方が分が悪い。ただこれはNVIDIAも織り込み済みだったはずで、通常時間を経るごとにYieldは向上するから、今すぐはあまり数が取れないが、今後は改善するとして待つことが多い。にもかかわらずSamsungの7LPPを切った理由は、1番目の理由にもかかるがそもそも量産立ち上げ時期が遅れた事に加え、Yieldの上がり方が十分ではないとNVIDIAが判断したのではないかと思う。もっとも、冒頭にも書いたがTSMCの7nmプロセスは(N7だけでなくN7P/N7+/N6の全てが)ひっ迫状態であり、NVIDIAが望む量のA100チップを予定通り生産できるか厳しいところである。このA100はNERSC(米国立エネルギー研究科学計算センター)に納入されるPerlmutterというスーパーコンピュータ向けに、今年後半に納入されることが既に決まっている。A100チップがトータルで6000個以上納入予定であり、まずはこれに向けての生産を急ぐ必要がある。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
大原雄介のエレ・組み込みプレイバック
これを読めばここ1カ月のエレクトロニクス/組み込み業界の動きが分かる連載。注目すべき市場動向と注目すべき製品を取り上げます。
この記事の著者
新着ホワイトペーパー PR
-
製品資料
[株式会社 Green AI] AIで脱炭素計画を最適化、初年度からエネルギーコストとCO2を削減する方法 -
市場調査・トレンド
[スマートジャパン編集部] 「ペロブスカイト太陽電池」の普及戦略が公表 政府が目指すコスト・導入量のロードマップを解説 -
市場調査・トレンド
[スマートジャパン編集部] 導入が加速する再エネ・系統向け蓄電システム コスト・収益性の現状分析 -
技術文書・技術解説
[スマートジャパン編集部] いまさら聞けない「ペロブスカイト太陽電池」の基礎知識と政策動向 -
技術文書・技術解説
[スマートジャパン編集部] 「ペロブスカイト太陽電池」の開発動向、日本の投資戦略やコスト目標の見通しは?
関連記事
こんなメディアも見られています
TechFactoryに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
特集
- マテリアルズ・インフォマティクスの動向調査
- 研究・開発職のデジタル活用調査
- 設計・解析業務におけるAI活用
- 3Dプリンタ利用動向調査
- CAD利用動向調査
- つながる工場の現状と課題
- 製造業におけるAI開発および活用の実態
- 設計・製造現場における品質管理
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
EE Times Japan×EDN Japan 統合電子版:フィジカルAIが生み出す新たな「設計思想」――電子版2026年8月号
-
2
半導体装置メーカー 業績まとめ【2027年3月期第1四半期】
-
3
新入社員に読んで欲しい鉄鋼材料の基礎知識まとめ(Part4)
-
4
一時は時価総額トヨタ超え キオクシア2026年度の動向
-
5
微細配線間の絶縁劣化をどう捉える? 先端パッケージ評価の最前線
-
6
新入社員に読んで欲しい鉄鋼材料の基礎知識まとめ(Part1)
-
7
EE Times Japan×EDN Japan 統合電子版:2026年上半期の半導体業界を振り返る――電子版2026年7月号
-
8
新入社員に読んで欲しい鉄鋼材料の基礎知識まとめ(Part3)
-
9
CADツールの見直しは本当に必要? 切り替えの理由と効果を7つの質問で検証
-
10
新入社員に読んで欲しい鉄鋼材料の基礎知識まとめ(Part2)
TechFactory SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechFactoryをフォロー