設計者CAEは普通の解析と何が違う?(13)
設計者は確かに忙し過ぎる――だからといって自己研鑽を怠っていては先はない(2/2 ページ)
技術伝承さえままならない現場の教育事情
こうしたことを案じているだけではいけません。これもまた現場の“実情”なのです。だからこそ、社員教育が必要なのです。
かつてのような“盗んで覚える”時代は終わりました。さらに言えば、“技術伝承さえままならない時代”となりました。教育現場を実際に見てみると、(社風にもよりますが)生産性を最重要視せざるを得ない現場、特に人員が潤沢にいない中小企業の多くでは、この教育活動が不十分で、仮に企業側が働きかけたとしても、社員が参加しないという状況に陥っています。
「忙しくて参加できません」。そんな声が聞こえてきます。教育を受けたくない言い訳なのか、教育を受けた分の作業遅れが自身に降りかかることからの“逃げ”なのか。あるいは教育を受けることにより、何か自分が“拘束される”かのような感覚なのか……。これまで筆者もこのような言い訳をたくさん聞いてきました。当然、さまざまな事情もあることでしょう。ただ、そうした一方で、大手企業の一部では粛々と教育プログラムを構築しているといいます。中小企業はこのままで本当に大丈夫なのでしょうか。非常に不安です。
現実に行われている設計者CAEのフロー
さて、現実の設計者CAEはどのようなフローで行われているのでしょうか。
設計者CAEが設計環境に近い場所で行われるCAEであったとしても、図1のような運用が考えられます。詳細設計において設計されたものは、設計検証を行うために解析担当者へ渡され、CAEを行います。比較的簡単な例ですが、流体解析を行う場合、解析時間は長くなるのが一般的です。この例では、既に計算時間が2時間3分ほど経過し、残り計算時間も1時間24分ほど必要としています。
※注:収束状況により残り計算時間は変化し、早まることも遅くなることもあります。
果たして、時間に追われている設計者がこの時間を待てるのでしょうか。この時間を待ったとしても、解析が終了しない可能性もあります。
「解析ができませんでした」。筆者も何度もこの言葉を言った経験があります。なぜ、解析ができなかったかを検証し、さらに解析を行います。検証によって満足するような解析結果を得ることができることもあれば、何か“逃げ”のような解析結果を伝えることもあります。再度解析を行っても、解析ができないこともあります。またもしかすると、解析精度のことを二の次にして解析することもあるかもしれません。
即座に解析結果を入手できるツールの存在
ここ最近出会ったシミュレーションツールに、即座に解析結果が得られる興味深いものがありました。「ANSYS Discovery Live」です。
NVIDIAのGPUとCUDAによる並列コンピューティングにより、ANSYS Discovery Liveは、即座に解析結果を得ることが可能です。流体解析についても即座に解析結果を得ることができます。さらに、設計変更に伴いジオメトリの更新を行った際も、解析結果が“瞬間”に表示されます。
GPUコンピューティングでは、CUDAのコア数が多ければ多いほど高速に計算でき、メモリ容量が大きければ大きいほど計算精度が向上します。当然、高性能なGPUを使用するには投資が必要になりますが、その金額も10年前と比べれば随分と安くなったと思います。
これからの設計者CAE
高度な計算を手軽に、しかも早くできる時代は、既に現実のものになりつつあり、これが当たり前になれば、設計者CAEの取り組みは今以上に進展するに違いありません。
しかし、現実には「『設計者CAE』といわれる解析の結果は、傾向さえ見ることができない」という声も聞こえてきます。これは解析専任者の言葉です。確かに、設計者CAEツールの解析には限界もあります。それ故、高度なシミュレーションを必要としていた筆者にとって、この発言はこれまでの実践を否定されるように聞こえてなりませんでした。
「CAEとは誰のためにあるのでしょうか」。これから専任者CAEの領域に足を踏み入れようとしている筆者ですが、“開発設計のために”という信念だけは曲げずにいたいと思います。そして同時に、高度なCAEを開発設計現場の身近に置くことを進めたいと考えています。これこそ「“真の”設計者のためのCAEだ」と信じて、筆者のチャレンジはまだまだ続きます。
本連載は以上となります。これまで設計者CAEの話題にお付き合いいただき、ありがとうございました。また違うテーマで皆さんにお会いできるのを楽しみにしています。 (連載完)
◎併せて読みたいお薦めホワイトペーパー:
» 設計者が実施すべき解析“3つ”のポイントと最新CAE技術動向
» 市民権を得たCAE、解析へのクラウド導入で44%が望む「要件」とは?
» クラウド型CAE、設計・解析者の約50%がコスト削減、解析速度/品質向上に期待
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
設計者CAEは普通の解析と何が違う?
「設計者CAE」という言葉が設計現場で聞かれるようになって久しいですが、3D CAD推進とともにきちんと設計者CAEに取り組んでいる企業もあれば、まだ途上あるいは全く着手していないという企業もあるかと思います。本連載では、設計者CAEがもたらすメリットや実際に導入していく上での注意点を、現場目線でご紹介します。◎こんなキーワードに興味のある方にオススメ:[CAE][設計者CAE][3Dデータ][3D推進][3次元設計][設計品質向上][ツール導入]
この記事の著者
新着ホワイトペーパー PR
-
製品資料
[株式会社 Green AI] AIで脱炭素計画を最適化、初年度からエネルギーコストとCO2を削減する方法 -
市場調査・トレンド
[スマートジャパン編集部] 「ペロブスカイト太陽電池」の普及戦略が公表 政府が目指すコスト・導入量のロードマップを解説 -
市場調査・トレンド
[スマートジャパン編集部] 導入が加速する再エネ・系統向け蓄電システム コスト・収益性の現状分析 -
技術文書・技術解説
[スマートジャパン編集部] いまさら聞けない「ペロブスカイト太陽電池」の基礎知識と政策動向 -
技術文書・技術解説
[スマートジャパン編集部] 「ペロブスカイト太陽電池」の開発動向、日本の投資戦略やコスト目標の見通しは?
関連記事
こんなメディアも見られています
TechFactoryに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
特集
- マテリアルズ・インフォマティクスの動向調査
- 研究・開発職のデジタル活用調査
- 設計・解析業務におけるAI活用
- 3Dプリンタ利用動向調査
- CAD利用動向調査
- つながる工場の現状と課題
- 製造業におけるAI開発および活用の実態
- 設計・製造現場における品質管理
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
EE Times Japan×EDN Japan 統合電子版:フィジカルAIが生み出す新たな「設計思想」――電子版2026年8月号
-
2
半導体装置メーカー 業績まとめ【2027年3月期第1四半期】
-
3
新入社員に読んで欲しい鉄鋼材料の基礎知識まとめ(Part4)
-
4
一時は時価総額トヨタ超え キオクシア2026年度の動向
-
5
微細配線間の絶縁劣化をどう捉える? 先端パッケージ評価の最前線
-
6
新入社員に読んで欲しい鉄鋼材料の基礎知識まとめ(Part1)
-
7
EE Times Japan×EDN Japan 統合電子版:2026年上半期の半導体業界を振り返る――電子版2026年7月号
-
8
新入社員に読んで欲しい鉄鋼材料の基礎知識まとめ(Part3)
-
9
CADツールの見直しは本当に必要? 切り替えの理由と効果を7つの質問で検証
-
10
新入社員に読んで欲しい鉄鋼材料の基礎知識まとめ(Part2)
TechFactory SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechFactoryをフォロー