宮田健の「セキュリティの道も一歩から」(32)
「ウチには関係ないよ」と考えている中小企業経営層の皆さまへ
「モノづくりに携わる人」だからこそ、もう無関心ではいられない情報セキュリティ対策の話。でも堅苦しい内容はちょっと苦手……という方に向けて、今日から使えるセキュリティ雑学・ネタをお届け! 今回は、セキュリティ対策の“最大の敵”について考えます。
セキュリティ対策の“最大の敵”とは?
セキュリティ対策の“敵”は一体誰でしょうか。高度な技術を使い、無慈悲にサイバー攻撃を行う犯罪者でしょうか。美辞麗句(びじれいく)を並べて守れることをアピールしながら、使いこなすことが難しいセキュリティベンダーの製品やそれを吹聴するメディアでしょうか。個人的には、最大の敵は“慢心”だと思っています。
特に中小企業においては、いまだに「ウチには重要な情報がないから、攻撃者も狙わないよ」という慢心がはびこっているようです。
下記は情報処理推進機構(IPA)が2017年3月に発表した「2016年度 中小企業における 情報セキュリティ対策の実態調査」からの抜粋です。
外部からの攻撃による漏えいの可能性に関して、その可能性があると「あまりそう思わない」という回答が最も多く、役割別で見ても経営層の31.5%、ITまたは情報セキュリティ担当者の36.4%が「あまりそう思わない」と回答しています。
「攻撃の対象にならない」というのは、インターネットに接続している以上、残念ながら“間違った認識”だと考えるべきです。攻撃者は特定の企業を標的にした攻撃でない限り、「攻撃できるシステムを攻撃する」という考え方です。攻撃できるシステムとは、インターネットから接続でき、かつ脆弱(ぜいじゃく)性が存在する環境で、無差別に送り付けられたメールを簡単に開いてしまうような組織と言い換えることができます。ほとんどの中小企業はインターネットにつながり、メールを活用してビジネスをしているわけですから、その対象になるわけですね。
そのため、「ウチには関係ないよ」という一言は、セキュリティ対策をやらないための言い訳にはならないのです。
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製造業における「ウチには関係ないよ」が理由にならない理由
それ以外にも理由はあります。それは特に、製造業が無視できないポイントです。
例えばメールを使った「ビジネスメール詐欺(BEC:Business E-mail Compromise)」があなたの企業を襲ったとします。これは標的型攻撃に近い攻撃ですのである程度「狙われる」規模の企業が対象になるかもしれませんが、日本においても攻撃が顕著になってきていることを踏まえて考えてみましょう。
ビジネスメール詐欺とは、企業間の取引における「振り込み」タイミングを的確に狙い、その振込口座をすり替え、取引金額を丸ごと盗むという、企業版「オレオレ詐欺」といえるものです。これが成功してしまうと、あなたの企業における1社の取引金額がまるまる損失してしまうのです。大企業よりもむしろ、中小企業の方が大きなダメージを受けるはずです。
それだけではありません。あり得るシナリオとしては、あなたの企業が被害者ではなく「加害者」になるパターンです。「WannaCry」をはじめ、拡散力の強いマルウェアがあなたの企業を襲ったとき、あなたの企業が何も対策を打っていなかった場合、メールやWebサイトを通じて、取引企業に感染する可能性があります。すると、「お前のところから来たメールを開いたらマルウェアに感染し、業務が止まってしまったぞ」といわれる可能性があるわけです。
中小企業にとって、実はこのような「取引企業に迷惑を掛ける」パターンが最も大きな課題になるでしょう。特に製造業で「絶対に止まってはならない」ラインを持っていた場合、自社の話だけではなく「取引先に迷惑が掛かる」可能性を考える必要もあるのです。サイバー攻撃対策を怠ったことで、サプライチェーンから外されてしまうというリスクを無視できる企業は存在しないでしょう。これこそが「ウチには関係がない」という言い訳を使ってはいけない理由です。
経営者がトップダウンで動けば、日本の企業は素早く変われる
2018年8月、JPCERT コーディネーションセンターが「工場における産業用IoT導入のためのセキュリティ ファーストステップ」を公開しました。この資料も大変よくまとまっているので、ぜひご一読をオススメします。
その冒頭は「経営者の皆さまへ」という文言から始まっています。これを少々引用しましょう。
企業が産業用IoT(Internet of Things)を安心して活用するために、導入時からセキュリティ対策を行うことが肝要です。運用後にセキュリティ対策を導入すると、初期導入環境の変更などが発生し、よりコストがかかる場合もあります。
経営者は、産業用IoTを導入すると決めた際には「セキュリティ対策は投資の重要な要素」と考え、対策に必要なリソース(予算、人員など)を確保し、現場の管理者に本書などを参考にして適切なセキュリティ対策を講じるように指示してください。
重要なポイントは、「導入時からセキュリティ対策を行うことが肝要」という点です。開発から運用の全てのポイントでセキュリティを入れ込む「DevSecOps」や「シフトレフト」という考え方は、経営層の一声があればとてもたやすく導入できます。
サイバー犯罪者の攻撃は日々進化しています。そのため、今行われているセキュリティ対策はすぐに陳腐化してしまうのが現状です。ならば、あらゆる規模の企業の経営層が考えるべきことは「現状に疑問を持つこと」かもしれません。
慢心しないこと。それこそが最大のセキュリティ対策になるはずです。
◎併せて読みたいお薦めホワイトペーパー:
» 制御システムの「安全神話」は既に崩壊している
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» 2つの事例で理解する工場セキュリティ対策の考え方とソリューション導入
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著者紹介:
宮田健(みやた たけし)
元@ITの編集者としてセキュリティ分野を担当。現在はフリーライターとして、ITやエンターテインメント情報を追い掛けている。自分の生活を変える新しいデジタルガジェットを求め、趣味と仕事を公私混同しつつ日々試行錯誤中。現在、ITmediaエンタープライズにて、もはや誰もが人ごとではないITの課題や話題を紹介する「半径300メートルのIT」を連載中。また、それをまとめた書籍「デジタルの作法~1億総スマホ時代のセキュリティ講座」も発売中。
筆者より:TechFactoryでの本連載では、ITセキュリティの「あるべき論」「正論」だけでなく、モノづくりに携わる方たちに「気楽に」「楽しく」セキュリティを考えていただけるように、さまざまな話題を取り上げたいと思います。「セキュリティっていわれてもねえ……」と思わず考えてしまった皆さまに覚えていただけるようなコラムにしたいと思います。お楽しみに!
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