宮田健の「セキュリティの道も一歩から」(30)
絶対に止められないシステムにおける「時間」の取り扱いに関する注意点
「モノづくりに携わる人」だからこそ、もう無関心ではいられない情報セキュリティ対策の話。でも堅苦しい内容はちょっと苦手……という方に向けて、今日から使えるセキュリティ雑学・ネタをお届け! 今回は、絶対に止められないシステムにおいて気を付けたい“時間”の取り扱いについて紹介します。
2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催に向けて、酷暑などへの対策として、日本でも「サマータイム」の導入検討を始めるという報道がありました。ITに片足を突っ込んでいる人間としては、さすがに対応のための時間が短過ぎるので「まず不可能だろう」と考えてはいるものの、特に連続稼働を行い、かつ止められないラインを持つ製造業にとって、この話題は悩みの種かもしれません。ITに携わるものとしては、オリンピック対策としてのサマータイム導入は“反対”の意見を挙げておきたいと思います。
今回のサマータイム導入騒動は、そもそも準備のための期間が足りませんし、そのお金(費用)も足りません。潤沢過ぎる予算と、限りなく長い準備期間が用意できるのであれば、そこでやっと「技術的に可能です」といえるでしょう。そうでなくても私たちはセキュリティ対策に追われているので、攻撃者に隙を見せるような、“あまり意味のない対策”には力を使いたくないところです。
ITシステムにとって“時間”の取り扱いは大変重要で、「少しでも手を加えると大変なことになる、だからやるな」というのは筋が通っています。ですが、そうなると「じゃあ、今のシステムのままなら、他の問題は大丈夫なんだよね?」というツッコミが来てしまうかもしれません。そこで、今回はおさらいの意味も込め、絶対に止められないシステムにおいて気を付けたい“時間”の取り扱いを考えてみましょう。
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間もなくやってくる「新元号」問題、そして……
まずは2019年4月30日に「平成」が終わり、翌5月1日から新元号になることへの対応です。とはいえ、この点で大きな問題が発生するという現場はあまりないように思えます。これまでの元号命名ルールにのっとっていたとしたら、元号は漢字2文字のはずですし、恐らくほとんどのシステムは元号ベースではなく、西暦ベースでプログラミングが行われているはずです。特に長く動いているシステムならば、「2000年問題」のときに併せてチェックが行われていたのではないかとも思います。そのため、新元号に関する対応は帳票出力や画面表示の調整レベルで済む場合が多いでしょう。
新元号に関しては、むしろOSや文字コード側の対応が大きいと思います。マイクロソフトもブログにて、この対応に関する記事を掲載しています。1文字で元号を表現するグリフ(合字)でシステムを組んでいる場合は、OSのアップデートに関して注意しなければならないでしょう。その後、もしかしたらテンプレートとして利用しているOfficeファイル群の修正が必要かもしれません。しかし、それも「会社のシステムが止まる」レベルではないはずですね。
それよりも重要な「2038年問題」
実は、時間に関する課題であまり影響がないであろう新元号や、日本における実現性がそもそも低いサマータイムよりも“気を付けたいもの”があります。その代表格が「2038年問題」です。
この2038年問題とは、OSにおける時刻の定義をUNIX時間、つまり「世界標準時で1970年1月1日0時0分0秒からの経過秒数」としている場合、32ビット符号付きの数値(2^31-1=2,147,483,647秒)を超えてしまうと桁あふれが発生する、という問題です。その運命の日付こそ、世界標準時で「2038年1月19日3時14分7秒」です。日本ではその9時間後、桁あふれが起きる可能性があります。これは2000年問題のときにもクローズアップされていましたが、「2038年にはさすがに今のシステムを使っていないだろう」とも考えられた問題です。
厳密には、OS内で利用されるtime_t型に依存する問題であるため、最新のOSにアップグレードし、この型を64ビットに拡張することで問題が解決している場合もあります(もちろん、32ビット符号なしを決め打ちでプログラミングされていると2038年問題が発生します)。
この問題は2038年にならないと表面化しないわけではなく、実は既に2004年時点で影響が報告されている事例があります。このときには内部で「時刻を2倍にして計算すること」で桁あふれが発生しています。その他にも、内部的な有効期限として「+30年」と余裕を持って設定した結果、それが2038年を超えたために桁あふれの問題が表面化したという事例も報告されています。2038年問題は決して、遠い未来の話ではないのです。
アップデートしづらいからこそ、問題の存在を知るべし
「2038年問題」は、エンジニアであれば一度は聞いたことがあるはずの課題です。しかし、どうしても身近には思えないでしょう。「サマータイムは、IT的に現実的ではない! 無理だ!」というエンジニアの理論に説得力を持たせるためには、エンジニアしか理解できないであろう2038年問題は、エンジニアの領域で解決しておく必要があると思います。
とはいえ、これはテストもしづらく、“問題が表面化して初めて対応の必要性を知る”ということになりがちです。特に製造業、IoTでは対応のためのアップデートもしづらく、なかなか厳しい対応を迫られるでしょう。
製造業もオープンシステムを活用するのが当たり前になっており、軽量なLinuxカーネルを利用するシステムが増えています。そのときどうしても「枯れていて問題がなくなった古いバージョン」を利用したくなりますが、その際には「既に分かっているはずの、未来に起き得る問題」がクリアになっているか、ほんの少し頭の中に入れておく必要があるでしょう。
そして、ちょっと気になるのは、実は2038年問題と似たような「xxxx年問題」がたくさんあるということです。この点に関しては、Wikipediaの記述がよくまとまっています。時間は絶えず流れているものです。それをIT的に表現するのは、簡単なようで難しいことなのかもしれません。
◎併せて読みたいお薦めホワイトペーパー:
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著者紹介:
宮田健(みやた たけし)
元@ITの編集者としてセキュリティ分野を担当。現在はフリーライターとして、ITやエンターテインメント情報を追い掛けている。自分の生活を変える新しいデジタルガジェットを求め、趣味と仕事を公私混同しつつ日々試行錯誤中。現在、ITmediaエンタープライズにて、もはや誰もが人ごとではないITの課題や話題を紹介する「半径300メートルのIT」を連載中。また、それをまとめた書籍「デジタルの作法~1億総スマホ時代のセキュリティ講座」も発売中。
筆者より:TechFactoryでの本連載では、ITセキュリティの「あるべき論」「正論」だけでなく、モノづくりに携わる方たちに「気楽に」「楽しく」セキュリティを考えていただけるように、さまざまな話題を取り上げたいと思います。「セキュリティっていわれてもねえ……」と思わず考えてしまった皆さまに覚えていただけるようなコラムにしたいと思います。お楽しみに!
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