宮田健の「セキュリティの道も一歩から」(14)
ソフトウェアは「完成してからが本番」でもある
「モノづくりに携わる人」だからこそ、もう無関心ではいられない情報セキュリティ対策。しかし、堅苦しい内容はちょっと苦手……という方に向けて、今日から使えるセキュリティ雑学をお届けします。今回は、製造業におけるソフトウェアセキュリティ対策の考え方について取り上げたいと思います。
よく、「製造業はソフトウェアセキュリティ対策が遅れている!」といわれます。これは正しい指摘でもありますが、間違ってもいます。
個人的には、製造業ほどソフトウェアセキュリティを正しく理解できる業界はないと思っています。製造業は生産ラインの安定稼働を維持し、工場を止めないためにさまざまな努力をしているはずです。そういう意味で、リスクを理解し、対策を行っている業界といえます。そのため、ほんの少しソフトウェアやサイバー攻撃に対する理解が進みさえすれば、あるべき対策が一気に進み、他の業界にとっても指針になり得るのではないかと期待しています。
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ソフトウェアに対する誤解
そのために必要な理解の1つは――。
もしかすると「ソフトウェアは劣化する“部品”である」という認識かもしれません。ソフトウェアというものは、皆さんが想像する以上に複雑なものです。機能が正しく実装されたらそこで完成というわけにはいかず、さまざまな外的要因が発生しても動き続けることが求められます。
物理的な部品であれば、劣化することは当たり前でしょう。部品は劣化すればメンテナンス時に取り換えます。実はソフトウェアも同様に、劣化するのです。例えば、サイバー犯罪者が新たな攻撃手法を考え、誰も知らないソフトウェア上の欠陥を突いて、はるか離れた場所から攻撃を仕掛ける――。こうした事例は、時間の経過からソフトウェアに“ほころび”が発見され、“劣化した”と捉えることができるでしょう。
普通の部品でいえばそんな状態のものを使うこと自体が考えられないと思います。一瞬で壊れてしまうスイッチやモーターを使うことは、製造業にとっては考えられないでしょう。しかし、ソフトウェアは想像以上に複雑なものであるため、そういった欠陥が見つからないまま、数年後に判明することもよくあります。
当然、そうしたことが起きないようソフトウェアエンジニアは日々、学習しながら欠陥を撲滅する努力をしているはずです。しかし、例えばOSや基盤となるソフトウェアに欠陥が発見される場合もあります。OSから作ることはあまり現実的ではないでしょうが、ソフトウェアは劣化する部品です。劣化が止められない以上は、何らかの対策を考えて、劣化のリスクを低減する必要があります。
他の業界なら「アップデート」一択、でも製造業は?
ソフトウェアの劣化は“欠陥”として現れます。それは「脆弱(ぜいじゃく)性」と呼ばれるものです。あらかじめ脆弱性を完全になくすことは難しいため、通常は脆弱性が発見され次第、修正版がリリースされ、それを適用する必要があります。皆さんが自宅やオフィスで利用しているPCのOSアップデートが定期的に行われるのは、それが重要だからです。そのため、基本的には「アップデートをしっかりやろう」ということが、ソフトウェア劣化の最大の対策になります。通常の部品同様、ソフトウェアもメンテナンスが必須なのです。これが原則です。
しかし……製造業は事情が異なります。
正常に稼働している生産ラインにおいて、“1つの部品”として使われるソフトウェアをおいそれと差し替えることはできないでしょう。ですが、そこで諦めるわけにはいきません。アップデートができなかった場合でも、今では多くのソリューションが用意されています。例えば、欠陥を攻撃する通信自体を止めることで防御する方法もあれば、人を教育することで対処できる場合もあります。ソフトウェアの欠陥を、ソフトウェアを直さずに対応することはアップデートすることよりも大変です。でも、製造業の「絶対に工場を止めない」という強い意志があれば、“ソフトウェアの劣化”というリスクを乗り越え、正しくITセキュリティを実践できるものだと思っています。
「ソフトウェアは完成したら一生動き続けてくれる」というのは、残念ながら大きな誤解です。ソフトウェアはむしろ、完成してからが本番です。日本人的には「古きものを使い続けるのは美徳」「使い続ければ問題が枯れる」と思いたいところですが、新たな攻撃手法が自分たちのソフトウェアを劣化させていないか、定期的なリスクチェックを行うべきでしょう。絶対に工場を止めないために、部品の1つであるソフトウェアもメンテナンスの対象にしてあげてください。
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著者紹介:
宮田健(みやた たけし)
元@ITの編集者としてセキュリティ分野を担当。現在はフリーライターとして、ITやエンターテインメント情報を追い掛けている。自分の生活を変える新しいデジタルガジェットを求め、趣味と仕事を公私混同しつつ日々試行錯誤中。現在、ITmediaエンタープライズにて、もはや誰もが人ごとではないITの課題や話題を紹介する「半径300メートルのIT」を連載中。また、それをまとめた書籍「デジタルの作法~1億総スマホ時代のセキュリティ講座」も発売中。
筆者より:TechFactoryでの本連載では、ITセキュリティの「あるべき論」「正論」だけでなく、モノづくりに携わる方たちに「気楽に」「楽しく」セキュリティを考えていただけるように、さまざまな話題を取り上げたいと思います。「セキュリティっていわれてもねえ……」と思わず考えてしまった皆さまに覚えていただけるようなコラムにしたいと思います。お楽しみに!
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