宮田健の「セキュリティの道も一歩から」(25)
従業員による社内データの持ち出しを防ぐには? 工作機械大手の事例から学ぶ
「モノづくりに携わる人」だからこそ、もう無関心ではいられない情報セキュリティ対策。しかし、堅苦しい内容はちょっと苦手……という方に向けて、今日から使えるセキュリティ雑学をお届け! 今回は、従業員による機密情報の持ち出し(情報漏えい)について紹介します。
DMG森精機のリリースから読み取れるもの
少々気になる事件がありました。工作機械大手のDMG森精機が2018年1月に「弊社社員による製品据付情報持ち出しについて」というリリースを発行しています。これは、同業他社に転職しようとしていた当時の社員が、社内のデータを持ち出そうと画策したという事件でした。持ち出そうとしていたのは、DMG森精機の製品がどこに納入されていたのかという重要な情報です。
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ITが関係する事件は、何も外部からのサイバー攻撃だけではありません。情報漏えい事件は「内」からも発生する可能性があります。特に最近では、退職、転職時に情報を抜き出し、それを持ち帰ってしまうことや、情報自体を転職先に売り込むといった行為も散見されます。そういう意味では、このDMG森精機の事件もある意味“よくある事件”といえます。
しかし、このリリースにはちょっと感心する“続き”がありました。その点について、リリースでは下記のように述べています。
ただちに弊社のリスク管理システムが異常を検知し、全ての印刷物を回収致しました。回収までの時間が短時間であったこと、及び警察のこれまでの捜査において他者への流出が認められなかったことから、持ち出された情報の外部漏えいは現在のところ存在しないと考えております。
実は今回のDMG森精機の事件、元社員は情報を「印刷物」として持ち出していました。それにもかかわらず、企業側はきっちりとその行動を把握し、それを“異常”として検知。回収までスムーズに行えた結果、「顧客への影響がない」と判断して、このリリース発表に至っているのです。
短いリリースながら、これまで投資してきたであろうセキュリティ対策がしっかりと機能した結果を示すものであり、筆者は初めてこれを読んだときに拍手しそうになりました。本当に素晴らしい対策だと思います。
「あれ、できるかも?」と思わせた瞬間に事件は起きる
この件が教えてくれることはたくさんあります。まず、従業員に対して「しっかり見ているよ」と伝えることの重要性です。
今回の事件が明るみに出たことで、おそらく「情報を抜き出そう」と後に続く人はいないでしょう。監視の目が行き届いていることが分かれば、従業員もほんの出来心で人生を狂わせてしまう、そんな大きなリスクを冒すようなことはしないはずです。
実は、これこそが内部犯行を防ぐ最大の手法だと思っています。内部犯行を行うような人であっても、最初から大きな悪事を働こうとは思わないはずです。おそらく、最初は1、2件の情報を閲覧、印刷しても「何も言われなかった」ことや、USBメモリを挿してデータをコピーしても「何も言われなかった」ことが記憶にあり、「あれ? もしかして情報持ち出せちゃうかも?」と考えたことがきっかけにあるのだと思います。もしその時、人生や家族に何か大きな悩みがあったとしたら、ほんの出来心で……ということにもなりかねません。
その意味で、出来心をなくすための監視、管理システムの果たす役割は大きいのです。
「社内の人間を疑いたくない」という大きなリスク
それでも、企業規模によっては従業員という家族同然の存在を「疑う」ことに抵抗があるかもしれません。でも、実はそれこそが間違いなのです。もちろん、社内の人間が犯行に及ぶかもしれないということは考えたくないことですが、内部犯行の芽を早いタイミングで摘むことこそが、従業員、そして会社を守ることにもつながるのです。
特に製造業は、顧客名簿だけでなく部品情報、製造上のレシピなどは他社が喉から手が出るほどほしいもの。そこに対する出来心を完全になくすためには、“監視の目がある”というプレッシャーを少々与えておくことは重要です。
ITでできることとして、例えば退職者のID管理をきっちりと行い、アクセス管理を厳密にすることや、特定の情報を見ることができる人を制限するなどの対策だけでなく、印刷物の管理、設計図面など物理的なセキュリティも大変重要です。
「不正のトライアングル」という言葉があります。お金がほしい、不安だといった「(1)動機」、生きていくには仕方がない、時代が悪いといった「(2)正当化」、そして何も言われなかったし、できちゃうかも? といった「(3)機会」がそろったときに、不正が発生するというものです。
この中で企業がコントロールできそうなのは「機会」です。セキュリティ対策とは、外部からの攻撃を守るだけではなく、「大切な従業員を守るため」でもあります。その点でも自社の対策が十分かどうかを、ぜひこの機会にチェックしてみてください。
そして、冒頭のDMG森精機の事件を振り返り、もし自社で同じようなことが起きたとしたらどうなっていたかを想像してみてください。事件が起きてしまったことは大変残念な出来事ですが、その対策として非常に示唆に富む素晴らしいリリースだと感じました。
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宮田健の「セキュリティの道も一歩から」
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