宮田健の「セキュリティの道も一歩から」(2)
あなたの何気ない行動から機密情報が漏れていく!?
「モノづくりに携わる人」だからこそ、もう無関心ではいられない情報セキュリティ対策の話。でも堅苦しい内容はちょっと苦手……という方に向けて、今日から使えるセキュリティ雑学・ネタをお届け! 今回は「サイバー攻撃の“意外な手法”」についてお話します。
連載第2回では、サイバー攻撃の“意外な手法(手口)”についてご紹介したいと思います。
さて皆さんは、なぜサイバー攻撃が行われるのか? その理由、つまり攻撃者の目的をご存じでしょうか。
サイバー攻撃の目的は、ズバリ「お金」です。
攻撃者はその目的のために、さまざまな手段を用いて“お金に変換できるもの”を狙います。その代表的なものが「情報」です。例えば、2014年に発生したベネッセコーポレーションの事件では、同社が持つ大量の個人情報が名簿屋に売られました。こうした“盗み取ったものを誰かに売ることで対価を得る”方法以外にも、最近ではPC内の情報を勝手に暗号化し、元に戻してほしければ身代金を払え! という「ランサムウェア」も登場しています。これは“情報の価値を一番理解している被害者本人から対価を得る”という何とも憎らしい手口です。
こうした事件などをニュースなどで一度は見聞きしたことがあるかもしれませんが、製造業に従事する皆さんにとって、こうしたセキュリティの話は「自分からは遠いもの(出来事)」に思えるのではないでしょうか。
しかし、筆者はそうは思いません。製造業に従事する皆さんが持っている“情報”こそ、企業として国として死守しなければいけないものなのです。
意外な方法で情報は盗まれる?
何となく「サイバーセキュリティ」というと、映画の世界に登場するような“いかにも”なハッカーが、暗い部屋の中PCをたたいて、超高度なウイルスを用いてさっそうとデータ(機密情報)を抜き取っていく――という印象を持つかもしれません。しかし実際は、もっと単純かつずる賢い方法で情報は抜き取られていきます。
日本企業の技術情報、恐らく多くの製造業が持つ知見やノウハウなどは、他国にとってノドから手が出るほど欲しい情報でしょう。だからこそ、皆さん自身がその情報の重要性を理解して、取り扱いには十分注意してほしいのです。
そこで今回は、今日から気を付けられる「情報を盗まれないポイント」を幾つか紹介します。
この技術資料、英語に翻訳したいんだけど……
昨今はグローバルな展開をしている企業も多いでしょう。そうなると、自社の日本語資料を英語や他の言語に翻訳したり、発注書や資料を翻訳して送ったりということが日常的に行われます。
恐らくメール送信やファイル共有においては、多くの企業で「暗号化」などのツールを使っているはずなので問題はないでしょう。しかし、翻訳作業をクラウド上の「Web翻訳ツール」などで行っていないでしょうか?
Webブラウザを開いて、「翻訳」と検索すると、多くの無料翻訳ツールが表示されます。非常に便利で役立つ翻訳ツールの中に、入力した原文テキストを勝手に保持してしまう翻訳ツールが紛れていたらどうでしょうか。もし、悪意のある業者などがその翻訳サービスを運営していたとすると、貴重な企業情報が意図せず流出してしまうかもしれません。
こうしたケースについて、2015年2月に情報処理推進機構(IPA)からも注意喚起がされています。クラウドサービスは非常に便利ですし、業種に特化した翻訳ツールが無料で公開されていたら……。ついつい使ってしまうかもしれません。でも、その翻訳ツール、本当に安全ですか? 重要な企業情報を翻訳するような場合は、ぜひ注意して行動してください。
関連リンク:情報処理推進機構(IPA)
「部長の●●だ。客先で資料がダウンロードできなくて困ってる」
スーパーハッカーはコンピュータウイルスを駆使せずとも、情報を簡単に取り出せるという例もあります。例えばあなたの所属する企業が、ある一定役職以上になると名前も顔もWebサイトに公開して、「顔の見える経営」をしていたとしたら――。
ある日、新入社員が電話を受けたとしましょう。電話口では、一度も会ったことのない部長が「今、客先で資料を渡そうとしているが、ファイルが古い。今すぐ見積書をメールで送ってくれ。客先だからメールアドレスは個人のしか見られない。早くしないと契約が取れなくなってしまう。急げ!」と叫んでいます。さあ、あなたならどう対応しますか?
もちろんこれは、部長を装ったスーパーハッカーの仕業です。ビジネス版「オレオレ詐欺」とも言えます。若者のほとんどはオレオレ詐欺に引っ掛かるなんて思っていないでしょうが、こういうシナリオならば、その自信も崩れてしまいますね。
このようなことを想定した場合、相手がどんなに偉い方であったとしても、「いったんコールバックする」「個人のメールアドレスには会社の資料を送らない」など、あらかじめルールを決めておくことが重要です。特に、新入社員が電話を取ることが多い春は、そのルールが徹底されているかどうか常に気を付けましょう。
技術者こそ気を付けたい「プライド」
そしてもう1つ、特に製造業の技術者の皆さんに覚えていただきたいことがあります。それは皆さんの「プライド」が狙われる可能性があるということです。基本的に、技術者の皆さんは非常に真面目です。曲がったことも間違ったことも大嫌いで、常に「品質」を考えている人たちだと思います。筆者自身はそういう技術者(エンジニア)にはなれなかったので、本当に尊敬しています。
しかし、そういう「間違いを許さない」という考え方を、攻撃者は利用する可能性があります。例えば、あなたと実際に出会って会話をしたとき、相手が自信満々に、あなたの専門分野について“ちょっとだけ間違ったこと”を話したとしたら、あなたはどう返答するでしょうか。もちろん「いやいや、それは違う。その部分はもうちょっと余裕を持って……」とか、「そこは材料が違う。ウチでは○○を微量だけ使って……」というように、思わず“正しい情報”を口にしていませんか?
実はこれ、詐欺師がよく使うテクニックなのです。これ以外にも、ほんのちょっと何か情報をもらうことで、こちらも何か情報を返さなくてはいけないと思い込む「返報性の原理」などのテクニックがあり、個人的には技術者ほどこういうテクニックに弱い、と思っています。
詐欺師のテクニックなどを見ると、もはや「サイバーセキュリティ対策」ではないように思えるでしょう。しかし、相手の狙いはあくまで「お金」であり、それを引き出すための「情報」です。なので手段は問いません。
ただ、これらに対抗する方法はすごく簡単です。それは「そういう攻撃が実際にある」ということを知っておくことです。本稿をお読みになった技術者の皆さんは、ぜひお隣の同僚にも今回の内容をお話してみてください。そういう小さくて身近なところから、セキュリティの意識が広まるとうれしいです。それではまた次回お会いしましょう! (次回に続く)
著者紹介:
宮田健(みやた たけし)
元@ITの編集者としてセキュリティ分野を担当。現在はフリーライターとして、ITやエンターテインメント情報を追い掛けている。自分の生活を変える新しいデジタルガジェットを求め、趣味と仕事を公私混同しつつ日々試行錯誤中。現在、ITmediaエンタープライズにて、もはや誰もが人ごとではないITの課題や話題を紹介する「半径300メートルのIT」を連載中。また、それをまとめた書籍「デジタルの作法~1億総スマホ時代のセキュリティ講座」も発売中。
筆者より:TechFactoryでの本連載では、ITセキュリティの「あるべき論」「正論」だけでなく、モノづくりに携わる方たちに「気楽に」「楽しく」セキュリティを考えていただけるように、さまざまな話題を取り上げたいと思います。「セキュリティっていわれてもねえ……」と思わず考えてしまった皆さまに覚えていただけるようなコラムにしたいと思います。お楽しみに!
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