Gartner Symposium/ITxpo 2017 講演レポート
GEから学べ! 次世代製造業の実現に向けたデジタル変革“3つの挑戦”(2/2 ページ)
2.「サプライチェーン・トランスフォーメーション」とは?
GEが“デジタル・インダストリアル・カンパニー”に生まれ変わるために必要なもう1つの原動力が、サプライチェーン・トランスフォーメーションである。具体的には、GEの製造部門を中心としたサプライチェーン全体をデジタルでつなげ、さまざまなデータを収集してそれを分析し、そこから見えてくる新しいデータを基に、さらなるサプライチェーン全体の効率化を図るというものだ。「これをGE全体で徹底し、その実績から得られた価値を顧客にも提供できるようにしていく」(熊谷氏)という。
GEでは、こうした取り組みを実践し、成果を挙げている工場に対して「ブリリアント・ファクトリー」の称号を与えている。「GEは世界中で約450拠点もの工場があり、そのうちブリリアント・ファクトリーの認定を受けている工場は、2016年の段階で8拠点。2017年現在で約11拠点ある。最終的にはGEの全工場をブリリアント・ファクトリーにしたい考えだ」(熊谷氏)
講演では、ブリリアント・ファクトリーの1つ、GEヘルスケアの東京・日野工場の取り組みを紹介。同工場では、最新設備やロボットを導入することでブリリアント化を図るのではなく、今ある設備や人的資産を生かしながら最適化と生産性向上を目指し、それを実現。プロセスモニタリングツールの「PPO(Plant Pulse Optimizer)」を導入して、ダッシュボード上で進捗(しんちょく)や品質、仕掛かりをチェックできるようにし、時間や品質の見える化を実現、それを最適化と生産性向上につなげている。また、日野工場の作業員はBeaconを身に着けており、各作業員の動きをデジタル化。無駄な動きなどを可視化し、最適な設備レイアウトの設計に役立てたという。
熊谷氏は製造技術の観点から、GEでアディティブマニュファクチャリング(AM)の活用が浸透し、各製造部門において金属パーツなどを積極的に製造している点についても触れた。「次世代航空機エンジン『LEAP』の燃料ノズルの製造に、AMが利用されている。従来は溶接やろう付け、複雑な金属加工など、複数の加工プロセスを経て製造していた。しかし、AMであれば一体成形が可能で、強度アップと軽量化を同時に実現できる。この“一石三鳥”ともいえるAMによる新しい製造手法もデジタルの効能の1つといえるだろう」(熊谷氏)
そして、GEにおける変革への取り組みの1つに、クラウドソーシングの活用も挙げられるという。「GEは長年、機器製造などを手掛けてきた背景もあり、時間をかけて研究、開発して、品質を高めて完璧なものを顧客に提供することを使命としてきた。そのためクラウドソーシングに代表されるオープンイノベーションの考え方には抵抗感があった。しかし、実際に航空機エンジンの部品のデザインを一般公募したところ非常に優秀なデザインが選ばれ、そのアイデアが製品に反映された。これはGEのエンジニアたちにとって大きな気付きとなり、オープンイノベーションの考え方が社内で幅広く活用され始めている」と熊谷氏は説明する。
3.「カルチャー・トランスフォーメーション」とは?
熊谷氏が「最も重い」と表現した取り組みが、カルチャー・トランスフォーメーション。すなわち、企業風土や文化、社員一人一人の考え方の変革である。「これからの新しい時代、デジタルの時代はスピードの次元が異なる。それに追従できるようなカルチャーをGE内に築き、デジタル世代の若い社員たちが刺激されて成長できる。そのような環境を作っていくことが不可欠であり、前述したサービス、サプライチェーンの変革を実現するためにも、社内カルチャーの変革は絶対に欠かせないものだ」(熊谷氏)
当然、社内カルチャーの変革は1日で何とかなるわけではなく、少しずつ積み重ね、時間をかけて進めていかなければならない。ここで重要となるのが“今要求されているスピード”。「これに対応できるようなマインドセットを全社で共有し、カスタマーアウトの考えの下、より良いソリューションをより早く提供できるような環境を目指していく。そうした雰囲気を作っていくことが重要だ。これからは『良い製品ができました、だから使ってください!』ではなく、顧客にとってのビジネス成果は何か? それを理解した上で、成果につながる製品を的確に提供していかなければならない」(熊谷氏)という。
GEでは社内カルチャーの変革を実現するため、「行動指針」「働き方」「評価制度」の3つを大きく変える施策を打ち出し、それを実践している。
もともとGEでは「GE Value」という5つの行動指針があり、“GE社員はこうあるべき”というメッセージをたたき込まれてきたという。このGE Valueを約2年前に廃止し、今の時代に合った「GE Beliefs」という行動指針に変更。熊谷氏は「これまで命令的だったGE Valueの行動指針をあらため、“GEの目指すゴールに向けて、皆で頑張っていこう”というニュアンスの5つのメッセージに変更した。命令されて実行するのではなく、“信頼して任せる”という発想だ。このGE BeliefsをGEジャパンに根付かせるための工夫として、英文のメッセージをそのまま伝え、日本語訳を社員から公募。直訳でなくても日本の社員が腹落ちできる良い表現を採用し、GE Beliefsの日本語版を作成した」と振り返る。
もう1つ、働き方に関しては「FastWorks」というソフトウェアのスタートアップ企業の考え方を取り入れた。GEは「リーン・スタートアップ」の著者であるエリック・リース氏を迎え、“小さく早く始めて、行動しながら調整する”というこれまでのGEとは真逆のアプローチを学び、製品開発などに生かしているという。「当初はエンジニアたちから反発もあった。しかし、FastWorksは品質の悪いものを出すということではなく、顧客成果の達成、それを実現するための必要最低限の機能や性能を備えた製品を迅速に提供して、顧客の反応をさらにフィードバックして製品をより良いものにしていくという考えだ。PCやスマートフォンのソフトウェアがバージョンアップによって、より良くなっていくのと同じ。しかも最初のバージョンが必ずしも低品質ということではない。それをきちんと説明し、理解してもらうことでFastWorksの考え方が根付いていった」(熊谷氏)
そして、熊谷氏はこのFastWorksによる社内カルチャーの変革は「日本にとってチャンスだった」と説明。高度経済成長のころ、GEの中における日本の声というのは非常に大きな存在感を示していた。しかし、次第に中国、インド、中近東などの市場が拡大し、急成長を遂げていったことで、日本の存在感が次第に弱まり、「日本市場のニーズや要求がグローバルに通らなくなり、モチベーションの低下を招いていた」と熊谷氏はいう。こうした状況において、取りあえず小さく始め、早くトライできるFastWorksの考えは、グローバルで要求を通しづらくなっていた日本の状況を救う可能性があり、「まずやってみて、それが成功したとなれば、社内での説得力も高まり、次のステップに挑戦させてほしいと提案しやすくなる」(熊谷氏)。また、FastWorksは社内カルチャーの変革だけでなく、別の効果も生み出したという。それは、顧客を巻き込んだ開発である。熊谷氏は「FastWorksの考えの下、まずフェーズ1の製品を提供して使ってもらい、そのフィードバックをもらってフェーズ2の製品に反映する。こうした開発を進めていると、顧客側も一緒に作っている感覚になってもらえ、これまでにはなかった顧客とのパートナーシップ作りにもつながっていった」と、その効果を説明する。
最後、社内カルチャーの変革を推し進めるための3つ目の施策が、評価制度の見直しである。これまでGEでは年に1回の上司との面談により評価を行い、昇給や昇格が決められていた。しかし、1年前の出来事を時間が経過したタイミングで振り返るやり方は効果的ではないと考え、これを廃止。その代わり、上司、同僚、部下の垣根なく、評価やダメ出しを日常的にライトにやりとりできる仕組みとして「Performance Development(PD)」ツールを全社員のPCおよびスマートフォンに導入することにした。PDツールでは、「Continue(継続する)」「Consider(検討する)」の2つからいずれかを選び、メッセージを気軽に送れるツールである。例えば、「さっきのプレゼン、すごく良かったよ!」というメッセージをContinueで送る。その逆であればダメだった理由をConsiderで送るといった具合だ。「運用を開始した当時は、Continueが多く、Considerはほとんどなかった。ただ最近ではConsiderも増えてきて、本人の気付きにつながるような円滑なコミュニケーションサイクルが生まれるようになってきた」と熊谷氏は説明する。
この取り組みと同時に、年1回だった上司との面談を最低月1回にあらため、評価を数値化する「9-block」の使用も廃止したという。「日々の気付きを自身の成長につなげ、信頼されて自分のやりたい仕事が任されていく。そして、そうした自分自身の日々の成長をきちんと理解してくれている上司がいる。そういう働きやすい環境を整備していくことも、社内カルチャーの変革には必要だ」(熊谷氏)
GEは、まだ変革の途中にあるという。熊谷氏は「これからの新しい世界で勝ち組みになるためには、従来の強み(ハードウェアと技術)だけを頼りにしてはダメだ。その強みにプラスとなる付加価値を乗せ、顧客の成果につながるようなソリューションを提供していくことが何よりも大切である。デジタル・インダストリアル・カンパニーの実現。この方針を貫いていくためにも、今後もGEはデジタルへの投資を継続し、新しい時代のGEを作り上げていく」と講演の最後を締めくくった。
◎併せて読みたいお薦めホワイトペーパー:
» 「カイゼン」を中心にデータ活用が進む製造業、課題はROIと人材
» 77.3%が“つながる工場”実現に向けて取り組みを開始――経営層も投資に意欲
» PTCはIoTベンダーになったのか? CAD、PLMユーザーに向けたメッセージ
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
特集(製造IT)
「製造IT」をメインテーマに、モノづくり関連セミナーのレポートやインタビューなどを多数掲載。製造現場の課題解決やカイゼン、意識改革に向けた第一歩を踏み出すためのヒントを提示します。
この記事の著者
新着ホワイトペーパー PR
-
製品資料
[株式会社 Green AI] AIで脱炭素計画を最適化、初年度からエネルギーコストとCO2を削減する方法 -
市場調査・トレンド
[スマートジャパン編集部] 「ペロブスカイト太陽電池」の普及戦略が公表 政府が目指すコスト・導入量のロードマップを解説 -
市場調査・トレンド
[スマートジャパン編集部] 導入が加速する再エネ・系統向け蓄電システム コスト・収益性の現状分析 -
技術文書・技術解説
[スマートジャパン編集部] いまさら聞けない「ペロブスカイト太陽電池」の基礎知識と政策動向 -
技術文書・技術解説
[スマートジャパン編集部] 「ペロブスカイト太陽電池」の開発動向、日本の投資戦略やコスト目標の見通しは?
関連記事
こんなメディアも見られています
TechFactoryに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
特集
- マテリアルズ・インフォマティクスの動向調査
- 研究・開発職のデジタル活用調査
- 設計・解析業務におけるAI活用
- 3Dプリンタ利用動向調査
- CAD利用動向調査
- つながる工場の現状と課題
- 製造業におけるAI開発および活用の実態
- 設計・製造現場における品質管理
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
EE Times Japan×EDN Japan 統合電子版:フィジカルAIが生み出す新たな「設計思想」――電子版2026年8月号
-
2
半導体装置メーカー 業績まとめ【2027年3月期第1四半期】
-
3
新入社員に読んで欲しい鉄鋼材料の基礎知識まとめ(Part4)
-
4
一時は時価総額トヨタ超え キオクシア2026年度の動向
-
5
微細配線間の絶縁劣化をどう捉える? 先端パッケージ評価の最前線
-
6
新入社員に読んで欲しい鉄鋼材料の基礎知識まとめ(Part1)
-
7
EE Times Japan×EDN Japan 統合電子版:2026年上半期の半導体業界を振り返る――電子版2026年7月号
-
8
新入社員に読んで欲しい鉄鋼材料の基礎知識まとめ(Part3)
-
9
CADツールの見直しは本当に必要? 切り替えの理由と効果を7つの質問で検証
-
10
新入社員に読んで欲しい鉄鋼材料の基礎知識まとめ(Part2)
TechFactory SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechFactoryをフォロー