中小企業のためのIT活用のススメ(3)
CADデータがあるのに紙図面が「正」――実録、ここが変だよ“昭和なIT活用”(2/2 ページ)
3.CADデータがあるのに、紙図面が「正」?
ところが、この15年を振り返ってみると、CADデータを活用した設計IT改革が形骸化してきているように感じます。確かに、2007年問題の影響もあったのかもしれません。当時とは比べものにならないほど、仕事も複雑化しています。そのため、いま多くの中小企業で、あの当時のIT化の成果が現代に全く継承されておりません。
例えば、先日こんな話を聞きました。1つの部品を設計するのに、その会社では2種類のCADツールを併用するそうです。ある設計者は、構想段階で断面図を2次元CADツールで製図し、次に上面図と側面図を作図します。並行して、Excelを使って部品リストをタイプするそうです。最後に完成図面として、その三面図とExcel表をコピペして1枚の正式図面に仕上げるそうです。
別の設計者は、構想段階から3次元CADツールを使って、3Dモデルとアセンブリ構造を定義。最後に三面図が必要なので、3Dモデルから図面を完成させます。2次元CADツールは使わないそうです。
どうして、同じ部署内の同じ設計テーマであるのに、異なるCADツールを使って、しかも設計手法もそれぞれ異なるのでしょうか? 直接話を聞いてみると、同社では、最終的に「紙」に打ち出した図面が正式なものとなるので、それまでは「自分の使い慣れた好きなCADツールで作業してよい」という暗黙のルールがあるというのです。
では、設計変更が発生した場合はどうするのでしょうか? 当然、紙に打ち出した最終図面が“正”なので、紙図面の上に赤ペンで直接修正箇所を作図したり、メモを手書きで入れたりするそうです。
ここで気になるのが、CADツールで設計したデジタル図面をどうするかです。実際にどうしているのか聞いてみると、「CAD操作に慣れている人は修正するかもしれないが、修正に手間が掛かるようなものであればCADデータは修正しない」といいます。仮に、CADデータと変更仕様とのミスマッチがあっても、紙図面が“正”なので問題ないそうです……。
この話を聞いた筆者は、無免許で目をつむったまま高速道路を走っているような気がして、正直、恐ろしくなりました。飛行機の便を変更するために空港カウンターに行ったら、窓口の人が手書きで便名を変更して「はい、どうぞ」と渡されたようなものです。いくら「大丈夫ですよ」といわれても、本当に変更が完了したのか半信半疑です。昭和な3.0時代の考えのままITツールを活用すると、こうなってしまうのだと痛感しました。
4.インダストリー4.0時代のCADツールの姿
もうお気付きだと思いますが、職場で当たり前に使用してきたITですが、その運用ルールについては、誰もケアする人がいなくなり、IT改革の旗印もだいぶガタがきているということが分かります。
当時、安価で使いやすいという理由から導入した3D CADツールですが、いま本当に仕事で効果を上げているでしょうか? 初回の設計データは簡単に作図できて使いやすいと感じても、設計変更に伴う修正作業で何倍も手間が掛かっていませんか? 取引先の3Dデータが自社のCADツールでは直接読み込めず、無駄なデータ変換作業に時間とコストを掛けていませんか? 頭に思い描いた意匠デザイン通りにCADコマンドが機能せずに苦労していませんか? 部品点数が多くなるとデータサイズが大きくなり処理スピードが遅くて使えないという状況ではないですか?
Aさんのように、インダストリー4.0的な働き方を実践できたとしても、設計デジタルデータが活用されず、紙図面が“正”の3.0な文化で、現行のCADツールの老朽化に気が付いていないのでしたら、職場の働き方は一向に改善されません。
実際、この10年で市販のCADツールも大きく進化しています。もはや、単なる3次元製図機ではありません。インダストリー4.0対応になっています。例えば、3Dプリンタ専用データの自動生成、AR用データを瞬時に生成できる便利機能、現場の計測データをリアルタイムにCADモデルに取り込んだIoT指向の解析手法など、CADツールの役割も随分と進化しています。
もちろん、安価で使いやすいCADツールはエンドユーザーにとって非常に魅力的です。ところが、いざ取引先からの設計変更でCADデータを修正しようとしたら、これがひと苦労で結局データを作り直したということはないでしょうか? 知らず知らずのうちに開発の工数やコストを無駄遣いしているかもしれません。中小企業は、取引先からさまざまな要求が複合的に舞い込んできます。いま、インダストリー4.0の時代を迎え、中小企業にも多くの商談機会が増えてきています。
しかし、人材は限られています。限られた人員で常にプロフェッショナルであるためには、CADツールと設計ルールもプロ仕様である必要があるかもしれません。世の中がインダストリー4.0で盛り上がっていても、職場のIT化が3.0に後退していたら本末転倒です。この機会に一度、職場のIT化の状況を再点検してみることをオススメします。
次回は、設計業務から見たIoTやARの魅力についてお話したいと思います。過去に、紆余(うよ)曲折があったとしても、平成の時代に3Dデジタル図面をコツコツと大切に管理してきた皆さんにとっては、ビッグチャンスの到来かもしれません。ご期待ください! (次回に続く)
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中小企業のためのIT活用のススメ
本格的な第4次産業革命(インダストリー4.0時代)の到来を前に、IoT活用への期待が非常に高まっている。この大きなビジネスチャンスをつかむべく、大企業を中心にさまざまな戦略、施策を打ち出しているが、中小企業はどうすべきか? 大変革の潮流に飲み込まれないために何ができるのか? そのヒントを提示する。◎こんなキーワードに興味のある方にオススメ:[デジタル化][デジタル変革][DX][電子化][データ活用][IT活用]
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