関西学院大学 玉田俊平太氏 講演レポート
やさしく教える「破壊的イノベーション」の基礎(3/3 ページ)
イノベーションマネジメントの留意点
既存製品の主要顧客が重視する性能(要求水準)に達していない状況であれば、製品の性能向上がそのまま高付加価値となり得るが、既存製品の性能が要求水準をオーバーしている状況の場合、それ以上性能を向上させても顧客はメリットを感じられず、性能向上が付加価値とはなり得ない。そのため、「皆さんのイノベーションに取り組む状況が、性能を上げれば既存顧客が満足する持続的イノベーションの状況にあるのか、それともそれ以上性能を上げても顧客が少しもありがたがらない破壊的イノベーションの状況にあるのかを区別する必要がある」(玉田氏)という。
持続的イノベーションの状況であれば、シンプルに性能を上げてよい製品を作れば売れる。こういう競争においては実績のある既存優良企業はここに参戦するだけの動機があり、勝てるだけの資源も持っているため、ほぼ確実に勝てるという。「自動車業界におけるエコカーや自動運転がまさにそうで、大手自動車メーカーは技術開発に多額の投資をしている。そういう意味でTeslaは、この持続的イノベーションの領域に対して大変な勝負を挑んでいるといえる。新規参入企業がここで勝負するとなると、名だたる自動車メーカーと足を止めて殴り合うような厳しい戦いが待っている」と玉田氏は表現する。
対して、破壊的イノベーションの状況にある場合、提供する価値の軸をシフトするか、新規顧客や魅力を感じていない顧客に対してアピールできるシンプルかつ便利で、安価な製品/サービスを商品化することを検討する必要がある。ただし、この状況においては、新規参入企業が既存企業を打ち負かす確率が高い。「サービスでいうと、QBハウスや俺のイタリアン、ブックオフなどがローエンド型の破壊的イノベーションの典型。家電製品でいえば、無印良品、アイリスオーヤマ、FUNAI(船井電機)などが挙げられる。イノベーションに取り組むのであれば、皆さんの会社の状況、製品/サービスの状況がどちらにあるのかによって、イノベーションマネジメントのスタイルをうまく変えていかなければならない」(玉田氏)。
破壊的イノベーションは既存製品の主要顧客から見ると、その時点では性能が低いものと捉えられ、「そんなものはオモチャだ」といわれてしまう。「そのようなオモチャに対し、既存優良企業が資源を投入するわけがなく、大企業であればあるほど、破壊的イノベーションのアイデアは却下されてしまう傾向にある。そうこうしているうちに、既存製品の市場が新規参入企業により、ローエンドから破壊されてしまう……。この破壊的イノベーションの流れは特定の産業に限った話ではなく、製造業でもサービス業でも同じように起きている」と玉田氏は説明する。
(3)破壊的イノベーターになるには?
最後に、玉田氏は破壊的イノベーターになるための7つのステップについて紹介した。
まずは基本戦略である。「自社でイノベーションを起こす戦略としては、1つの王道、2つの覇道がある」(玉田氏)という。王道の持続的イノベーションであくまでもハイエンドの顧客を狙っていくか、破壊的イノベーションの道である新市場型破壊に向かうか、あるいはローエンド型破壊を選ぶかである。まずは自社の状況を踏まえ、これを決める必要がある。基本戦略が定まったら、今度はメンバーである。ここではできるだけ専門分野が多様なメンバーを集め、価値の高いアイデアを生み出せる体制を作る。そして、製品やサービスの消費が何らかの制約によって妨げられている「無消費」の状況や「満足過剰」な顧客を探す。これらを踏まえて、正しくブレインストーミングを行い、破壊的アイデアを選び出し、“新しい酒(破壊的イノベーション)は新しい革袋(別組織)に任せる”か、破壊的企業を買収することで、破壊的イノベーションを実現する。
最初の3つの基本戦略について玉田氏は、「既存市場に、より良い製品を投入するという戦略(持続的イノベーション)は多くが選択しがちで、社内の合意や稟議(りんぎ)なども通りやすい。しかし、実力のある既存優良企業がいる市場であるため、血で血を洗うレッドオーシャンが起きてしまう。クリステンセンは『ここは力のある業界トップ企業に任せればよい』といっている」と話す。
では、破壊的イノベーションへの道はどう選ぶべきか。1つは異なる性能尺度の下、何らかの制約によって製品やサービスの消費が妨げられている層に対して、アイデアを打ち出す方法がある。例えば、音楽は自宅のステレオで聞くもので、外で聞くという発想のなかった時代に投入されたソニーの「ウォークマン」はこの代表的な例といえる。もう1つは既存の製品性能が向上し過ぎて、満足過剰になっている層に対して、低コストのビジネスモデルを展開するやり方である。前述したQBハウスがまさに典型的なローエンド型の破壊的イノベーションであり、通常の床屋だとカット、シャンプー、ドライヤー、ひげそりとフルサービスで4000円近くかかるのに対し、QBハウスはカットのみで10分1000円という低価格で勝負している。
そして、価値のあるアイデアを出すためには「参加メンバーの専門分野が多様であること(多様性が高いこと)が望ましい」と玉田氏。また、アイデアを出すための足掛かりとしては、実績のある競合企業が喜んで無視する、あるいは背を向けるような破壊に着目すべきだという。そのためには、「スキル、お金、アクセス、時間といった制約により製品やサービスを消費できない無消費の状況を見つけ出すことだ」と玉田氏は述べる。例えば、専門家の助けがないと使えない製品やサービス、欲しくても高くて買えない製品やサービス、特定の場所でしか使えない製品やサービス、消費に時間のかかる製品やサービスなどがそれに当たる。「電話機を家という場所から解放したのが携帯電話機であり、ビデオゲームをゲームセンターから解放したのが『ファミリーコンピュータ』に代表される家庭用ゲーム機だ。他にも『Netflix』のように映像コンテンツを短時間で気軽に消費できるサービスも生み出され、市場に受け入れられている。何らかの制約のある無消費な状況においては、“新市場型の破壊的イノベーション”を生み出せる可能性がある」(玉田氏)。
もし、無消費の状況が見つからなければ、満足過剰の顧客を探すべきだという。「自動車の最高時速やPCの性能、床屋のサービスなど、それ以上性能(サービスレベル)が上がっても、既にお腹いっぱい状態で、少しも満足度が向上しない状況の顧客を見つけ、そこに向けて必要十分な性能で、シンプルかつ安価な製品/サービスを提供し、“ローエンド型の破壊的イノベーションを起こす”ことを狙うべきだろう」と玉田氏は述べる。
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