IIoT時代にこそ、日本のモノづくりが世界で強みを発揮する(2)
ガラパゴス化しつつある日本の製造業、つながらない設備機器(2/2 ページ)
オープン化がユーザーにもたらすメリットと、日本の現状
コントローラーメーカーにとって、オープン化に向けた決断がどれだけ苦労を要するか、そしてその浸透を積極的に行う難しさは理解いただけたと思う。では、なぜオープン化が求められるのか、FA機器のユーザーである製造現場からするとどんなメリットがオープン化によって得られるのかを見てみたい。
オープンな規格を採用することで、工場内の設備を「最大効率化」できるという考え方である。ある1社のクローズドな規格に依存すると、全ての機器を1社に依存することになり、「目的を必要十分に満たす最適な機器を選択する」幅が狭まることになる。例えば、ある前工程のモーターはA社の製品がぴったりだが、後工程はもっと小型のモーターで十分なのにA社がラインアップとしてそろえていない、B社には安価な小型モーターがあるのだがA社のフィールドバスにはつながらないので、無駄だけど後工程も大型のモーターで構築しよう、となるのである。無駄をそぎ落とし、最適なシステムを構築したいと願うのは生産現場としてごく自然な要求である。また、機器の入手性も重要な要因であろう。ある地域で大規模な災害が発生して、そこに工場を構える機器が一時的に市場で入手困難になったとしても、同一規格の機器から代替機を選択することは容易である。
このように、機器メーカーとユーザーとは、視点が180度異なるためにオープン化の流れを作るのは容易ではない。
欧州では市場全体の機器メーカーが早い段階からオープン化への舵を切った。ユーザーにとって理想的なコントローラーを構築することを前提条件として、つまりオープン化を前提条件として、その上で各メーカーが競争している。
一方国内に目を向けると、オープン性が低い規格の機器も広く使われている。オープン化を第一に求めるのではなく、それ以上にシステムの安定性を重要視し、クローズドであっても特定メーカーからの手厚いサービスと関係性を重要視した。設備全体を最大効率化することより、設備構築のプロジェクトをスムーズに進めるよう、特定の機器メーカーと密接に連携しながらプロジェクトを進行することを求め、その代償として少々高価でも1社から全ての機器を購入した。機器メーカーも、顧客の工場に入り込んで作業を無償で手伝うなどの手厚いサービスに投資したことから、全ての機器を自社の製品で構築してもらうことは当然のことである。また、国内機器メーカーの高い技術力と密接なユーザーとの連携が、日本のモノづくりを支えたことは明確である。
しかしそれは同時に、つながる工場の構築を遅らせることになった。今後も1社が全てのセンサーやアクチュエーターを提供し続けられればいいが、技術革新は世界規模で起こっているため、1社依存はますます困難になってきている。また、生産設備の設置場所は国内ではなく世界各地となり、たとえ生産ラインの設計開発や機器選定が国内であっても保守や拡張開発は海外で行うため、国際標準に準拠しないクローズドな設備は世界で受け入れられないという壁に直面している。さらには、クローズドな1社依存の環境は機器のコストの高止まりを意味し、「ある程度コストを多く負担しても、ちゃんと最後まで面倒見てくれる機器メーカーと密接にやる」という従来の考えが、生産設備の世界競争にさらされた今は、コスト面で一切の余裕がなくなりつつある。これらの理由から、オープンテクノロジーの採用から免れられない状況が進んでいる。
- 1社依存の技術革新は限界があるためオープンな環境が求められる
(魅力的なセンサーやアクチュエーターがさまざまな企業から提供される) - 世界の拠点で保守・機能拡張されるので世界標準でオープンな環境が求められる
(世界の拠点で日本独特のクローズドな環境のために技術者を毎回教育できない) - コストが高止まりしないためにはオープン化が求められる
(オープンな環境での競争はコストを適正に保つ効果がある)
今後IIoTの実現を目指そうとするユーザーが、世界標準から外れたクローズドな通信規格による機器をベースに、継ぎ足しでシステムを拡張し続けるのはどこかで破綻するという危険があるのではないだろうか。設備システムの最大効率化と柔軟性を備えた足回りの環境があってこそ、その延長にIIoTの実現があると考えられる。
IIoT化の前にフィールドバス機器のオープン化が必要とされるのでは
2016年4月にはトヨタ自動車がオープンなフィールドバスである「EtherCAT」の採用をドイツのハノーバーメッセで発表し、全世界のサプライヤーにも推奨していく方針を明らかにして大きな話題となった。トヨタ自動車は日本電機工業会が策定した「FL-net」を標準として利用してきたが、生産ラインの最大効率化とIoT化を理由に掲げ、機器選択がほぼ国内に限られるFL-netから国際的に広く使われているEtherCATへ方針転換を図ったのだ。今現在はトヨタ自動車に多くの企業が追従し多数のメーカーがEtherCAT対応機器をリリースし始めており、今後国内のEtherCAT移行の流れはますます加速するに違いない。
今回はフィールドバスを題材に、国内製造業のコントローラーとセンサー・アクチュエーターをつなぐ通信のガラパゴス化を解説したが、実は解決しなければいけない問題は通信だけではない。製造現場における頭脳であるコントローラーにもガラパゴス化が起きているのだ。コントローラーのガラパゴス化とは何なのか。次回詳しく解説する。(次回に続く)
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著者紹介:
リンクス 代表取締役 村上 慶(むらかみ けい)
1996年4月、筑波大学入学後、在学中の1999年4月、オーストラリアのウロンゴン(Wollongong)大学に国費留学、工学部にてコンピュータサイエンスを学ぶ。2001年3月、筑波大学第三学群工学システム学類を卒業後、同年4月、リンクスに入社。主に自動車、航空宇宙の分野における高速フィードバック制御の開発支援ツールであるdSPACE社製品の国内普及に従事し、国内におけるトップシェア製品となる。2003年、同社取締役、2005年7月、同社代表取締役に就任。
同社代表取締役に就任後は、画像処理ソフトウェアHALCONを国内シェアトップに成長させ、産業用カメラの世界的なリーディングカンパニーであるBasler社と日本国内における総代理店契約を締結するなど、高度な技術レベルと高品質なサービスをバックボーンとした技術商社として確固たる地位を築く。次のビジネスの柱として2012年7月にエンベデッドシステム事業部を発足し、3S-SmartSoftware Solutions社の国内総代理店となる。(2016年10月現在)
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IIoT時代にこそ、日本のモノづくりが世界で強みを発揮する
IoT、インダストリー4.0がこれほどまでに盛り上がり続けるのは、その将来像への賛同だけではなく「現時点で材料となる技術はそろっていて、決して夢物語ではない」と多くの人が感じているためである。日本のモノづくりは改善を重ねることで着実に世界をリードしてきたが、第4次産業革命で求められる非線形なモノづくりの進化をリードしていくためには、「製造現場のガラパゴス化」を解消することが急務だ。本連載では、日本のみならず世界的に盛り上がりを見せるIIoTの技術で製造業はどう変化していくのか、日本の製造業がその変化に追従していくためのボトルネックとなる国内製造業のガラパゴス化について解説する。
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