IT導入完全ガイド
SCM改革の次の波は財務経理を救う? 「ヒト」「モノ」と「カネ」で将来を見る「S&OP」
SCMと財務を結び付けるS&OPの考え方を紹介しつつ、第三世代SCMとその活用例、導入のヒントを紹介する。
前編では、いままでのサプライチェーン管理(SCM)の変遷を整理してきた。その中で、現在は特に、管理と精度の向上だけでなく、実績を基にした将来予測の精度を高めたり、戦略的な投資判断に生かしたりしようとする動きが出てきていることを紹介した。後編では、SCMと財務を結び付けるS&OPの考え方を紹介しつつ、第三世代SCMとその活用例、導入のヒントを紹介する。
SCMは「管理」から「経営戦略」の材料に
前編で紹介したように、過去、SCはプロセス実行系の運用効率向上を目指して導入されてきたが、現在はさらに発展して将来の事業運営上のリスクを判断する材料として活用しようという動きが活発だ。そこには、従来のSCMの手法が、確かに運用の効率化や在庫圧縮に一定の効果はあったものの、最終的な収益にどのように貢献しているのかが見えにくかったという反省もある。
経営会議が紛糾するのは「モノ」と「カネ」の通訳がいないから
「従来のSCMの手法は確かに運用の効率化や在庫圧縮に一定の効果はあったものの、最終的な収益にどのように貢献しているのかが見えにくかった」という問題に、いま最も頭を悩ませているのは、本社経営企画や財務・経理部門だ。
例えば経営会議があったとして、各事業部門の予実を報告した際、「数字が合わない」「財務リスクが見えない」ことが最も深刻な課題となっているのは、期末になるたびに「なぜ数字が見込みから乖離(かいり)するのか」といった問い合わせを受けて困惑する財務経理部門だ。
事業部門の中にいない財務経理部門にとって、SCMのモノの数の世界はブラックボックスになりやすく、すぐには要因を分析できない。製造部門や販売部門の担当者は部門のリスクヘッジのために在庫や販売見込みを多く見積もりやすく、それぞれの部門が正確でない数字を申告していれば、当然、実績が確定した段階で、計画との乖離が発覚することになる。
これは、最終的に中長期的な経営計画に影響を与えるインパクトの大きな問題なのだが、実は製造・販売・在庫の各管理部門の責任範囲ではないため、当事者意識を作りにくい。
また、問題の可視化には比較的短期間の数量調整をスコープとしてきたSCMだけでは対応が難しく、SCMに何らかの方法で原価などの金額情報を掛け合わせて見ていく必要がある。
図4は、ある企業でのS&OPプロセスの運用を図にしたものだ。中期計画や月次計画とのギャップを報告し、将来リスクについて判断する場が設けられているのが分かる。ぱっと見では、生産・販売・在庫の調整会議と変わらないように見えるが、ギャップの要因分析や予算の視点から計画変更の検討を行ったうえで経営層に報告するプロセスがある。通常の生産・販売・在庫の調整会議の判断を超えるギャップが発生した際にどのようにアクションを起こすかが明確になっているため、突発的な問題に対処しやすい。
こうした会議で、ギャップに対する打ち手の検討を行う際は、既存のPSI(製造・販売・在庫)管理システムをベースにExcelなどで金額情報を組み合わせて見ていくことでも簡易な検討は可能だ。しかし、専用のツールやERPパッケージのS&OP機能モジュールを利用すれば、より効率よく検討できる。SCMの情報を深くドリルダウンして要因分析を行いたい場合はPSI系のシステムと連携できるものを選択したいところだ。
一方で、とにかくおおまかな実績情報から複数シナリオを生成してリスク判断に役立てたい、というニーズが強いようであれば、単独のS&OP向けソリューションのうち、計画シナリオのシミュレーションを強みとする製品の導入を検討するとよいだろう。
投資判断の根拠は? 投資回収までのシナリオシミュレーションも同じ手法で
電子・電器メーカーの多くは、完成品のライフサイクルも、部材のライフサイクルも短い場合が多く、市場投入前に販売予定量を作り終えているケースも少なくない。また、半導体製造などのように製造ラインへの初期投資が非常に大きくなるケースもある。
市場に製品投入した場合に採算分岐がどのようになり、どの段階で投資回収が完了するかといったシナリオ作成にも、過去実績データや現在の財務データを基にしたシナリオ作成が行われるケースが少なくないという。
同様のニーズは医薬品メーカーなどでも多く見られる。コンシューマー品と異なり、医薬品の業界では法的なルールが多く、例えばメーカー側で全ての製品価格や製造ロット数を管理できるわけではない。それゆえ、需給予測に関するニーズはほとんどない。しかし、開発投資や生産ライン立ち上げに関してはS&OP系のツールを駆使することで投資判断の妥当性を評価できる。
導入推進の方法は? 導入成果は?
S&OPプロセスの導入は単純にシステムを導入するだけで済むものではないため、一気に全社導入を推進するのではなく、最少の単位でパイロットプロジェクトを立て、プロセス運営の妥当性を検証していく方法が適している。とはいえPSIの責任者らからすると、課題が露見したり、それぞれの部門で読んでいる「バッファ」を明るみに出すことになりかねないこともあり、「あまり変化を望んでいない」可能性がある。
笑い話のようなアドバイスだが、財務経理担当者や経営層が主導して導入を進める場合、導入を提案するのに適した時期は「5月」「11月」だという説がある。というのも、決算に向けて予算と実績の乖離などの問題が明らかになり、「最後の追い込み」として各担当者が叱咤(しった)激励される期末の直後であれば、どの部門の担当者も「もうあんな思い(追い込みの叱咤激励)を経験したくない」という気持ちが高まっているため、比較的協力を得やすいタイミングなのだという。
図5はある企業がS&OPプロセスを導入した成果をまとめたものだ。プラスになった点として、いままでモノの「数」しか見ていなかったSCMの担当者が「金額」「予算」への意識を持つようになり、またその結果として、経営層の判断に対する理解が深まったという。
一方で、会議と会議の準備に時間と労力がかかるようになったという課題が挙がっているが、これらはITによって解消できるものも少なくない。
前述の通り、SCMをベースに「ヒト」「モノ」と「カネ」をつなぐプロセスであるS&OPは、Excelのような手持ちの道具でも始めることができる。しかし、それには自社の業務を把握し、課題を整理し、プロセスを自社に適した形に落とし込む必要がある。業種業界、あるいは商流によっても具体的な適用方法は個別に分析していく必要があるため、実績のある導入コンサルティング企業を介して、テンプレートを利用するなどの方法も検討した方がよいだろう。
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IT導入完全ガイド(提供:キーマンズネット)
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