IT導入完全ガイド
これが最前線の現場! ウェアラブルデバイス活用例3選!
業務用ウェアラブルデバイスとそのソリューションを提供する3社に話を聞き、実際の運用の様子を詳細に紹介する。
業務用ウェアラブルデバイスの普及が始まっているが、具体的な運用シーンが想像しにくく、導入を躊躇(ちゅうちょ)してはいないだろうか。そもそもどのデバイスでどんな使い方ができるのか? 実際にデバイスやシステムを開発している3社に話を聞いた。
企業への導入が始まりつつあるウェアラブルデバイスのスペックを前回紹介した。本稿ではその具体的な活用事例を取り上げる。とはいえまだ普及が始まったばかりであり、開発ベンダーの試験運用の話が中心だ。
前回述べたように、業務用のウェアラブルデバイスは「現場(作業員)」と「管理者」の「情報の送受信」のためのデバイスであり、現在の使い方だけを見れば、それは「遠隔サポート」デバイスといってよい。しかし、具体的にどんな情報が送受信され、どんなサポートが可能なのか、作業員にはどんな情報が表示され、管理者はどんな画面でサポートしていくのか……そしてどんなメリットがあると考えられるのか。
今回はウェアラブルデバイスとそのソリューションを提供する3社に話を聞き実際の運用の様子を詳細に紹介していく。
自社運用で実績を高めた、日立製作所 インフラシステム社の事例
まず日立製作所 インフラシステム社の製品と事例を紹介しよう。インフラシステム社では、社会・産業インフラを扱うが、同時に提供しているのは「Doctor Cloud」カメラ付きヘッドマウントディスプレイ(HMD)だ。前回のスペック表でも触れている通り、インフラシステム社はこのデバイスを単体で販売しているのではなく、「Doctor Cloud」のパッケージとして提供する売り方だ。
「Doctor Cloud」はM2M(Machine to Machine)クラウドで収集した情報を設備管理ソフトに反映し、分析や機器の監視を行えるソリューション。このソリューションの中で使うデバイスの1つがウェアラブルのHMDなのだ。そのためこのシステムではタブレットを使ったAR活用(ガイダンスの表示)も含まれている。まだHMDでのAR活用にまでは至っていないが、将来的には対応を考えている。
同社ではこのシステムを、プラントや浄水場といったインフラで利用することを想定しているが、そもそも開発の段階から日立グループ、水資源機構で試験的に運用した実績がある。これは自社でインフラ事業を行っている日立ならではの開発方法といえるだろう。
そのため現在提供されているHMDは「4代目」にあたるモデルだという。過去に眼鏡型やディスプレイサイズを変えたモデルも試し、HMDだけでも2年弱の知見を得ているとのことだ。写真でも分かる通り、ディスプレイの位置は目線から外しており、視界を確保しながらの安全な作業が可能だ。
また、HMDにはカメラが搭載されており、相互通信が可能。その映像をリアルタイムで4人(作業員含む)同時で見られる仕組み。この映像配信先の設置も含めて導入時のパッケージに含まれている。ハンズフリーになっているので、作業員はカメラの操作は気にせず、作業を続けることができる)。
管理者はその様子を見ながら適宜指示を出せる。遠隔地からも同時に現場を見られることで、管理者が事務所からいちいち出入りすることがなくなり、時間の節約になりスピード感が増すという。また、前述の「Doctor Cloud」を使うことで、点検や保守の様子を撮影しサーバに送ることも可能だ。その画像は設備管理ソフトに収納され、HMDで点検を終えた後は自動的にレポートが出来上がる。作業員も点検後のレポート作成に時間が取られなくなるわけだ。
さらにこの相互通信が生きるのが「緊急時」の場合。時間のない中管理者に迅速な判断を求めることができる。さらに監視カメラやサイネージと違い、自由に移動できるウェアラブルデバイスは点検時の死角をカバーでき、今まで見られなかった場所が見られるようになる。結果、ミスが減ると考えているのだ。
自由度の高いシステムでHMDを顧客の環境で生かす、富士通の事例
同じくHMDを使う富士通の場合の事例を見てみよう。同社の「ヘッドマウントディスプレイ」もまた点検、保守、組み立てといった現場が想定されている。それは日立のインフラシステム社と共通する“タフな現場”だろう。しかし、富士通の場合、HMDの耐久性スペックが群を抜いて高い。これは「手荒な扱い」「ぶつける」といった事態も踏まえて開発されているからだ。
さらにスペックを見ると、連続使用時間が4時間になっている。これは「どんな使い方をしても」4時間使えるという数字。高負荷な利用でも4時間使えるのなら長いといえるのではないだろうか。
また、システムの作りこみが少ないのも特長だ。Bluetoothでスマートフォンやタブレットとの連携を行い、そのスマートフォンやタブレットがクラウド・サーバに接続する仕組み。画面に表示されるコンテンツは、スマートフォン内の画像などで、スマートフォンからMiracastで送られてくる。さらにHMD自体はAndroidを搭載しているので、クライアントアプリを作れば、HMD単独でアプリを使うことも可能だ。
現在、富士通の「ヘッドマウントディスプレイ」を試験的に導入している企業は国内外に数十社あり、日本、欧米で展開しつつある。主要外国語への対応も進み、東南アジアや南米に拠点がある企業も視野に入れているようだ。また、多言語への対応で世界中に拠点がある企業の緊急時の対策にもメリットがあると考えている。
例えば「地球の裏側」の現場で緊急事態が起きた場合、対応チームの到着までに飛行機で何時間もかかる。しかし現地の作業員がHMDを装着し「遠隔サポート」を受けられるのであれば、チームは現地へ行かなくても支援ができるというわけだ。
また、機能を見ていくとAR表示に対応しており、ARマーカーを貼る手間、コンテンツを作成する手間はあるものの、点検する現物をHMDで見ると作業ガイドや注意事項をAR表示することができる。富士通からはARソリューション「Interstage AR」も提供されているので、この機会にARの導入を検討してもよいだろう。
ARの良さは組み立ての製造ラインでも発揮される。例えば自動車であれば、1メーカーに多様な車種があり、1車種の製造工程だけで数百はあるという。さらにオプションを加えれば1車種だけで覚えるべき工程が膨大なものになる。また、製造ラインでは異なる車種を扱うのも当たり前だという。となると当然作業員は工程を覚えることが難しく、スキルアップまで時間がかかる。そこでARを活用し、HMDに作業内容を表示するのだ。トレーニング効率も上がり、不良品の発生を抑制、歩留まりが改善する。
HMDにマニュアルを入れておくこともでき、その場合はHMD単独で使うことも可能だ。音声コマンドに対応しているためハンズフリーで操作も可能。作業をしながら「写真」と言えば撮影が行われ、マニュアルを表示しているときは「拡大」や「縮小」と言えば表示サイズを変更できる。さらに「○番起動」という具合にアプリ名や番号を言うことで、アプリを起動させることも可能だ。
一方で富士通の「ヘッドマウントディスプレイ」にはキーボードも用意されている。これはHMDにコンテンツを送るスマ―トフォンにBluetoothで接続し操作するのだが、点検時に数字を入力するためのデバイスとして用意されている。HMDに表示された画面にキーボードの数字が入力されていくのだ。もちろん正しくはスマ―トフォンに入力している様子をHMDに表示しているわけだが、スマートフォンやタブレットを介すことで実現した、自由度の高いシステムならではの使い方だろう。
デバイスフリー! 好きなデバイスと組み合わせられるシステム NTTデータの事例
最後に紹介するのがNTTデータだ。同社の場合、ウェアラブルデバイスを提供しているわけではなく、既存のウェアラブルデバイスと組み合わせることができる「遠隔作業支援システム」の研究開発を行っている。既に提供されているわけではないが、社内では保守運用業務への導入が始まっており、編集部が実際に体験させてもらったが完成度は高い。
システムは、作業員が装着する任意のウェアラブルデバイスに、管理者側のPC、遠隔作業支援サーバ、ストリーミング中継サーバで構成され、その点はインフラシステム社、富士通が想定しているシステムと大きな違いはない。ただしNTTデータのシステムの場合、既に述べた通り、ウェアラブルデバイスは顧客が自由に選ぶことができる。
これらウェアラブルデバイスは、カメラを使ったリアルタイムの相互通信、音声コントロールやジェスチャーコントロール(首振り)、ジャイロマウス(頭の傾き)によるハンズフリー操作に対応し、デバイスを開発したベンダーのシステムでなくとも快適な操作が可能になる。
ただしデバイスに合わせてのチューニングは必須だ。特にセンサーの感度、カメラの性能、ディスプレイの大きさは各デバイスで違うため検証が必要。現在このシステムではAndroid搭載の7機種を試しているとのこと。
さらに必ずしもウェアラブルデバイスである必要もなく、代わりにスマートフォンやタブレットを使うことも可能。連携するデバイスを問わないため、複数のデバイスを用いたい(試したい)企業や、今後しばらくは新旧の環境が入り交じるウェアラブルデバイスの普及過渡期に柔軟に対応できそうだ。
NTTデータではこのシステムを5つのシーンで利用することを想定している。
- 不慣れな作業者が単独で作業している場合の遠隔サポート
- ウェアラブルデバイスでのハンズフリー操作によるマニュアル参照
- 作業証跡のハンズフリー操作による撮影・確認依頼
- スキルの低い作業者にベテランの作業映像を送り、ディスプレイに再生・表示する
- 複数の作業員を1人の管理者でサポートする
実際にどんな操作をしているのかは以下の通り。
まずウェアラブルデバイスでタスクを確認し、管理者がそのタスクの完了通知を見るまでの流れ。
自社の業務に合ったカスタマイズ開発をすることにより、これらのタスクリスト(作業一覧)は各企業の既存業務システムで扱っていたデータと連携させることもできるようになる。
続いて作業員がサポートを求めてきた場合。
他にも相互通信中にリアルタイムで、HMDに表示されている画像に管理者が文字を書き込むことも可能。またHMDにバックグラウンドで管理者の音声だけをつなげることができる他、管理者からメッセージを送るといった使い方にも対応している。
非常に分かりやすいUIでこのまま使いたい企業が出てきてもおかしくなさそうだ。実際、大型機器メーカーなどから引き合いが既にあるそう。またNTTデータのデータセンター保守運用業務で実際に運用しているという。
ウェアラブルデバイスの導入では、作業員や管理者が必ずしもIT技術者とは限らない。スムーズに使えるUIは、デバイス以上に重要かもしれない。上記の画面で操作のイメージがつかめたのではないだろうか。
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