沖縄モノづくり新時代(2)
沖縄漁師の経験と勘を未来へつなぐ、IoTによる環境モニタリングが秘めた可能性(2/3 ページ)
次の“失敗”を防ぐために必要なこと
いかに生産量を安定させるか――。解決の糸口は「データ収集」にある。
もずくの生育条件を全くコントロールできないかというとそうではなく、データがあって初めて、養殖の成否を分ける要因を特定するきっかけが生まれる(図4)。
例えば、種付けのタイミングや、養殖網を沖合に移動し苗床に設置するタイミング、苗床を設置する沖合の場所、苗床から本張りの場所に移動するタイミングなどは、漁師が自由に決めることができる。このようなタイミングや場所は、漁師おのおのの経験や勘を頼りに決めているのが現状だが、もずくの生育に影響を与える環境データをリアルタイムに収集できるようになれば、状況は変わる(環境データとして、照度や降水量、塩分濃度、水中プランクトンの濃度、水中の透明度、海流の速さ、波高、海中の栄養塩の量などがある)。
仮に、数日の作業タイミングの違いで、もずくの養殖が成功した/失敗したという差が生まれれば、この数日の差で起こった環境データの変化に注目することで、成否を分けた要因を突き止められる可能性がある。
また、生育状況に異常があれば、そのときの環境データとリアルタイムに突き合わせることで、その次の“失敗”を防ぐナレッジを積み重ねられる。例えば、「天気や時期は良くても水温がある一定温度より低いときには、もずくの本張りには向かない」といったナレッジだ。
知念漁協の担当者は、「とにかくまず状況を見えるようにしたい」と切なる願いを語る。「いつも、もずく養殖がうまくいかない状況になってから、『手遅れだ』ということが初めて分かる。過去にうまくいかなったときの環境データと似た状況になれば、監視を強めたり、作業のタイミングをずらしたりするなどして、養殖を成功させる可能性を少しでも高められるはずだ」。
経験や勘といった暗黙知を環境データとひも付けることで、ベテラン漁師のノウハウの伝承につながるという期待も大きいという。沖縄の漁師も、年配のベテラン漁師から比較的若い年齢層へ世代が移っている。経験やノウハウを伝えるのに、データをうまく活用したいという考えだ。
「低消費電力」と「通信安定性」が無線データ収集の鍵
もずく養殖の技術を大きく前進させる可能性を秘めた海上の環境モニタリングだが、海上でデータを収集することに起因した難しさがある。
例えば、無線デバイスを搭載したブイは海上にあるので、電池交換にもわざわざ船を出し、海水による腐食を防ぎながら慎重に電池を交換する必要があるなど、陸上に比べて手間が掛かる。電波伝搬という観点でも、波の影響で送信側のアンテナと受信側のアンテナの位置関係が刻々と変化したり、波面の影響があったりするなど、海上での条件は陸上よりも厳しい。
今回、実証実験を計画・実施したNICTが、データ収集の方法として適していると考え、採用したのが無線通信の国際標準規格であるWi-SUNだ。IEEE 802.15.4eをベースにした規格で、周波数は920MHz帯を使う。
最大の特徴は、消費電力が低いこと。NICTが開発した無線デバイスは「単3乾電池3本で10年以上動作する」(NICT)という(図5)。2時間のうち通信状態は合計12秒だけというように、大部分の時間をスリープ状態にする間欠動作によって消費電力を抑えている。また、親機に対して子機の無線デバイスが2系統あるときに、データ衝突を回避する同期の仕組みを採用することも、低消費電力化に貢献した。
通信距離は最大500m程度と、もずく養殖場の規模に対して短いが、Wi-SUNのもう1つの特徴である「マルチホップ通信」を利用することで、通信の安定性を確保することを目指した。データのやりとりを中継する海上ブイを設置することで柔軟にモニタリング範囲を広げることができる。
今回の実証実験では、第1弾として水温と塩分濃度の2項目を測定した。Wi-SUNの無線デバイスを搭載したセンサーブイを海上の2カ所に設置し、陸上の親機にデータを送る(図6)。親機と1つ目のセンサーブイの距離はおよそ1km。1つ目と2つ目のセンサーブイの間の距離は430m程度だが、海上での通信の確実性を高めるために、センサーブイの間には中継ブイを置き、マルチホップ通信でデータを送る構成を採った。「海上のセンサーブイから定期的にデータを収集できることを確認した」(NICT)(図7)。
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沖縄モノづくり新時代
エンジニアリングやモノづくり分野の技術進化が、今まで以上に地方の課題解決や魅力発掘の後押しとなる。本連載の主役は、かつて“製造業不毛の地”といわれていた沖縄だ。
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