三菱電機は2018年2月14日、東京都内で研究開発成果披露会を開き、無線送信機の増幅器への入力信号や動作電圧のチューニングを機械学習で行う技術を開発したと発表した。自動車や生産ライン、家電などIoT(モノのインターネット)機器に欠かせない通信モジュールの、消費電力低減や小型化に貢献する。
従来は増幅器の複数のパラメータを調整する場合、性能や消費電力を最適化するのが難しく、時間も要していた。開発技術は10分間で100回程度の学習を繰り返すことで最適なパラメータを設定可能で、利得(入力と出力の比)は従来の機械学習を使わない場合の2倍の15dBに、動作効率は55%で従来よりも20ポイント向上した。
◎製造業における「機械学習」関連記事 〜活用・導入事例、課題、メリット〜 など
» 機械学習の現場導入、必要なのは「理解」ではない
» IoT/ビッグデータ/機械学習を活用した故障予知サービス
» 機械学習アルゴリズムでIoT機器を守る、クラウド型IoTセキュリティソリューション
» 良品データの学習のみで不良品を検出するAIエンジン
開発技術を利用し、1台のデジタル回路で同時に5G含め最大3種類の動作周波数や通信方式にも対応することが可能になった。ソフトウェアで動作周波数や通信方式を再構成できるため、出荷後にソフトウェア更新で通信方式の種類を変更したり、新たに追加したりすることができる。2018年度以降、増幅器のさらなる効率化に向けた研究開発を進めて行くとしている。
三菱電機は社内のAI(人工知能)技術をとりまとめたブランド「Maisart(マイサート)」を多方面に展開しており、発表した技術もその1つとなる。開発技術は機械学習によって、増幅器の出力電力や出力電流、出力波形の測定結果を基に、入力ゲートバイアス電圧や、信号処理部に送信する信号の位相や振幅の制御を繰り返す。出力電力、増幅器の効率や利得、隣接チャネルの漏えい電力などを評価関数として最適値を求める。
機械学習によって通信方式ごとのチューニングを最適化できることを応用し、3種類の動作周波数や通信方式に同時に対応するオールデジタル送信機も開発した。従来のデジタル送信機は1種類の通信方式・動作周波数にしか対応できなかった。同社の研究開発成果披露会ではFPGAを用いて試作したオールデジタル送信機を披露した。
オールデジタル送信機は、ソフトウェアによって通信方式や動作周波数の種類を変更できることが強みとなる。そのため、状況の変化に合わせて柔軟に変更することが要求される工場の生産ラインのIoT機器や、使用期間が長く、新機能追加のニーズがある家電に向くとしている。また、国や地域を超えて利用する携帯電話機やWi-Fiルーター、仕向け地が幅広い自動車に搭載する通信モジュールでもメリットが見込まれる。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- エンドデバイスに機械学習と物体検知を、Armが新IPを提供
Armが機械学習やニューラルネットワーク機能などを提供するIPスイート「Project Trillium」(コードネーム)を発表した。当面はモバイル市場に焦点を当て、展示会「Mobile World Congress」ではセキュリティカメラやスマートカメラのデモを行う予定だ。 - 「民生向け初」Bluetooth mesh認証を取得したIoT向けMCU
サイプレス セミコンダクタは、「Bluetooth mesh」認証を取得したIoT向けMCUソリューションを発表した。同ソリューションによって最先端のBluetoothコネクティビティを確立し、低消費電力メッシュネットワークを低コストで可能する。 - Intel元社長、サーバ向けArm SoCで再始動
2015年にIntelを退任した、元プレジデントのRenee James氏が、Ampere ComputingのCEOとして、データセンター向けサーバ向けArm SoC(System on Chip)を発表した。データセンター向けサーバ市場は現在、Intelの独占状態だ。 - CAN通信を無線LANに変換する産業用車両向けブリッジ
サイレックス・テクノロジーは、産業用車両向けにCAN/無線ブリッジ「CDS-2150」を発売した。CAN情報を無線LANに変換、配信、ロギングし、有線CAN配線を省配線化できる。 - 相次ぐエレクトロニクス企業のトップ交代、FPGA業界にも再編の波
2018年1月はCPUの脆弱(ぜいじゃく)性や仮想通貨近隣こそ騒がしかったが、エレ/組み込み企業に驚きを伴う動きはなかった。しかし、FPGA業界は再編の波が迫っているように見える。