大原雄介のエレ・組み込みプレイバック
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Micrium μC/RTOSのOpen License化
2020年1月27日、Silicon LabsがMicrium μC/RTOSをOpen Source Licenseで提供することを発表した。
こう書いても、そもそもMicriumとかμC/RTOSをご存じない方も少なくないと思うので、ちょっと順を追って説明したい。もともとは1991年、Jean J. Labrosse氏が独自のMCU用OSとしてμC/OS(Micro-Controller Operating Systems)を開発したのが始まりである。このμC/OSは、Labrosse氏の著作である“μC/OS the Real-Time Kernel”の中に、Kernelのソースコードがそのまま掲載されていた。もうこの時点で限りなくOpen Sourceに近い扱いになっていたわけだが、これをベースに機能を増やした商用バージョンが1998年に登場したμC/OS-IIである。こちらはマルチタスク、プリエンプティブ、ポータブル(特定のアーキテクチャに非依存)、リアルタイム、ROM化可能といった特徴を持ち、メモリサイズも5~24KBとかなりポータブルで、MCUだけでなくDSPもターゲットにしていた。このμC/OS-IIの完成のタイミングで、商用販売のための会社組織を立ち上げる。これが1999年創業のMicrium, Inc.である。当然Labrosse氏が社長を務めた訳だが、なんかこのあたりの事情は以前こちらに書いたFreeRTOSに近い。無償版はOpen Source、有償版はサポート付きで、そのサポートのために会社を立ち上げる、というシナリオは共通ともいえる。話をMicriumに戻すと、2009年にはさらに機能を拡張したμC/OS-IIIをリリースしている。
このμC/OSがどの程度普及していたか、ということでMicrium自身が出しているのが以下の2枚。図3は2014年と2015年に利用したRTOSを並べたもので、FreeRTOSがトップではあるのだが、μC/OS-IIとμC/OS-IIIを合わせると27%で、世界で最も広く使われているRTOSだと主張している。図4は「どのOSを使う事を考慮しているか」で、やはり足すと36%になる、という訳だ。足していいのか? という疑問はともかく、それなりに普及しているOSだったことは間違いない。
さて「では現在は?」という訳で、2017年と2019年における「現在利用中」を示したのが図5と図6である。2017年では合計でも9%、2019年では7%まで下落した。その一方でFreeRTOSは20/18%という高いシェアを維持しており、まあ要するにμC/OSが勝手にシェアを落としているだけ、という事になる。理由はいくつかあるが、一つは2016年10月にMicriumがSilicon Labsに買収された事も挙げられよう(余談だが、この買収後に名称がμC/OSからμC/RTOSに変った)。2016年にMicriumの関係者に確認したときは、「いやウチは既存の顧客のサポートは継続するし、これからも異なるベンダーの製品向けにも製品を提供する」とは言っていたものの、世間的にはMicriumはSilicon Labs向けRTOSと見なされるようになってしまっている。また、Open Source製品がない事で、中身が見えない事を嫌うユーザーも少なくないのも要因の一つかもしれない。実際、最近はMCUベンダーも積極的にAmazon FreeRTOSをサポートするケースが増えてきており、さらにFreeRTOSとの差が広がりつつある。
本質的にはAmazon FreeRTOSはAWS IoTを利用するためのコンポーネントの一つ的な扱いもあり、それがAmazon FreeRTOSへの対応が進む理由ではあるので、同じことをMicrium/SiliconLabsがやっても追い付くはずはないのだが、だからといって手をこまねいているとどんどんシェアが落ちて、そのうちリストに載らなくなる可能性がある。それを防ぐために打てる手は何でも打とう、という努力の表れが、今回のOpen Source化のように筆者には思える。
さて効果があるのだろうか? これを2017年とかにやっていれば、あるいはFreeRTOSと伍する位置を確保できたかもしれない。ただ、今更やったところでMIPS Openの二の舞ではないか? という気もしなくはない。μC/OSはミッションクリティカルな用途に使われるケースも少なくないので、今すぐなくなったりはしないだろうが、そうした特定用途のみで生き残る事になりかねないのが正直な現状、というところだろう。
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