大原雄介のエレ・組み込みプレイバック
昨今のArm MCU事情、そして今後の方向性(2/3 ページ)
RTOSの普及
RTOSそのものは昔からあって、現在も広範に利用されているのはご存じの通りであるが、アプリケーション要件でRTOSを使いたい場合に選ぶ、という形であってMCUをベアメタルで使う事も珍しくない。というか、きちんと統計を取ったわけではないが、まだベアメタルで使う方が普通ではないだろうか? ただ、これが次第に変わりそうである。例えば先に紹介したi.MX RT 1170の場合、GUIのツールキットとして現在はまだ移植が終わっていないが、Qt for MCUsを予定している(Arm TechCon 2019の会場で確認したときには「2020年提供予定」という返事だった)という話だった。ところがQt for MCUsの場合、動作要件にPOSIXの環境が必要になる。ベアメタルでPOSIXを組み込むのはあまり現実的ではないわけで、現実問題としてはRTOSを利用することになる。i.MX RTシリーズの場合、なぜかMQXのサポートは限定的で(対応していない訳ではなく、i.MX RT 1060/1060は最新版のMQX v5でサポートされている)、Amazon FreeRTOSが対応RTOSとなっており、これにPOSIX Packageを組み合わせてQt for MCUsを使う形になる。つまりGUIを使おうとすると、必然的にAmazon FreeRTOSを利用せざるを得ない。
あるいは前述したようにデュアルコアとかヘテロジニアスコアの環境になると、2つのコア上で動くプログラムの同期とか通信などの実装も必要であり、これもベアメタルでできない訳ではないが、もうRTOSを利用した方が容易である。CypressのPSoC 6など、Cypressから提供されるPSoC CreatorというIDEでFreeRTOSが標準的に組み込まれる様になっており(一応外すこともできるようだが筆者は未検証)、もうArm MCUはRTOS上で使うのが一般的になりつつある。
この傾向を助長するもう一つの理由が、クラウドへの接続である。AWS IoT、Azure IoT、あるいはMbed Cloudでも何でもいいのだが、Network Stack一式に加えてそのデバイスをクラウドに接続するための認証に必要なライブラリやら証明書やらキーやらをハンドリングしないといけなくなっている。これももちろん、無論ベアメタルで直接実装することも不可能ではない「はず」だが、現実問題としてRTOSを利用することを前提にして、そのRTOS上で認証の環境が提供されているのが一般的になっている。もうこうなると、RTOSを使わない方が難しいのが昨今のArm MCUの開発環境というわけだ。
セキュリティ対応の普及
このクラウド対応にも絡むが、今年2月にArmはPSA Certifiedという新しい取り組みを発表した。PSA(Platform Security Architecture)は2017年に発表されたセキュリティ対応の原則であり、ただしこの当時PSAは言ってみればドキュメントの形でしか存在していなかった。Armはこれらがきちんと実装することを担保するために、PSAの要件をきちんと定めるとともに、顧客(つまりMCUベンダー)がきちんとこのPSAを実装しているかどうかを確認する認証制度を、第三者機関を巻き込む形で定めたのがPSA Certifiedである。
当初は数製品が対応するだけだったこのPSA Certified、現在はハードウェアとソフトウェア併せて32製品ほどがこれを取得している。またちょっと分かりづらいのだが、PSA CertifiedにはSecurity CertificationとFunctional APIの2種類が存在する。Security Certificationはハードウェア(&ファームウェア)的に、きちんとセキュリティ対策が行われている事を認証するもので、Functional APIは実装されたPSA RoT(Root of Trust)がどんなAPIに対応しているかを認証するものである。この詳細はまた別の機会に記事化させていただくとして、興味深いのはこのPSA Certifiedに対する各ベンダーの対応である。PS A Certified Productsページを見ていただくと分かるのだが、実はPSA Certifiedの取得にArm v8-M(つまりTrustZone)の実装は必ずしも必要ではない。TrustZoneがあれば実装は楽になるが、だからといってCortex-M23とかCortex-M33を利用すれば無条件でPSA Certifiedが取得できるわけでもなく、逆にCortex-M0とかCortex-M4とかがベースでも、ベンダー自身がきちんとセキュリティ機能を実装していればPSA Certifiedが取得できる。実際、STMicroelectronicsはCortex-M4ベースのSTM32L4と、Cortex-M33ベースのSTM32L5の両方がリストに掲載されているのが分かる。
世の中に出回っているArmベースMCUの数に比べるとまだ数は少ない(先に32製品と書いたが、このうちハードウェアは24製品ほど)のは、そもそもCertificationの取得に時間もコストもかかるからで、そのため某メーカーは「既存の製品の中にはまだPSA Certifiedに対応していないものも多いし、これらへの対応をどうするかはまだ決まっていない」としていた。恐らくは、今後投入される製品に関してはPSA Certified取得を行っていくが、それも全部ではなさそうだ。というのは、例えば細かい違い(パッケージとかRAM/Flashの容量、周辺回路の差など)ごとにCertificationを取得するのはさすがに耐えられないからで、代表的なモデルのみ取得するような形にしていくのではないかと思われる。とはいえ、今後はセキュリティ対応がアプリケーション要件として重要なポイントになっていく事を考えると、PSA Certifiedによってセキュアな対応な可能なArm MCUが次第に増えていくと思われる。
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これを読めばここ1カ月のエレクトロニクス/組み込み業界の動きが分かる連載。注目すべき市場動向と注目すべき製品を取り上げます。
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