大原雄介のエレ・組み込みプレイバック
Artisan IP売却はArmの「路線変更」の兆しなのか(2/3 ページ)
Armの顧客に欠かせないものとなったArtisan IP
こうしたニーズにArmが提供するArtisan IPはうまくマッチした。もともとArmのCPU IPを購入するようなユーザーであれば、周辺回路IPとかMemory Compilerをまとめて購入する事は自然である。むしろ周辺回路のIPをさまざまなベンダーから買い集めるより楽であるし、トラブルがあった場合の対応も容易になる。加えてArtisan IPは、主要なファウンドリーのメジャーなプロセスノードに対してはPhysical IPが提供されるので、自分で物理設計を行う必要もない。金額に関しては不明だが、純粋に同じIP同士で比較した場合、競合のIPベンダーから提供されるものよりはやや高め、という評判を聞いたことがある。ただ価格設定が絶妙だったそうで、確かにIP単体の価格で言えばやや割高ながら、物理設計が不要とかサポートの手間が一元化されるなどのメリットを勘案するとむしろ割安、というあたりに設定されていたらしい。結局のところ、多少IP単体の価格が高くても、NRE全体のコストが下げられるのならそれは十分許容範囲というわけなのだろう。
そんな訳で、Artisan IPはArmからCPU IP(や後にはGPUやNPU、Interconnectなど)を購入してASICを構築しようというユーザーに広く受け入れられるものとなった。もう21年もの間、Artisan IPはArmから提供されており、実際ArmもProcessor IPやInterconnect IPに加え、Artisan IPを提供している事をメリットの一つとしてユーザーに大きくアピールしていた。特に2019年からスタートしたArm Flexible Accessにおいては、無制限ではないものの主要なArtisan IPは無償で提供されることが謳われており(図1)、これが多くのArmの顧客には欠かせないものになっていた。
ちなみにArtisan IPにはEmbedded Memory(SRAM/Register File、ROM、eMRAM)とInterface IP(GPIOやSerial/Parallel)、Logic IP(基本的なLogic)などが含まれている。USBとかEthernetといった、それなりに複雑なものは当然別扱いになっているが、例えば簡単なMCUであればCPUコアとArtisan IP、それにClock GeneratorとかInterrupt Handler、PMIC周りの回路、AHBやAPBなどのInterconnect IP(これらはいずれもArmからも提供されている)を組み合わせるだけで出来上がりとなる。複数のファウンドリー/プロセスノードに対応したPhysical IPがワンストップで入手できるというのはIPプロバイダーであるArmの強みの一つであり、それもあって例えばCadenceは2015年にArmとIPの相互運用契約を結んでいる。これはArtisan IPに限った話ではなく、ArmのCortexプロセッサとMali GPU、CoreLink、さらにはPOP IPなどがArmから提供され、一方CadenceからはPCI ExpressやMIPI、USB、HDMI、DisplayPort、Ethernet、Analog、DDR/LPDDR PHYおよび、その他のMemory/Storage Protocol IPが提供され、ArmのユーザーとCadenceのユーザーは両方のIPを利用できるというものだ。ちなみにSynopsysは2012年8月に、Artisan IPを含む広範なIPへアクセスできるライセンスを既に取得しており、SynopsysユーザーもまたArtisan IPを利用できるようになっている。実のところArtisan IPを使っているのは必ずしもArmベースのASICだけとは限らない。CadenceはTensilica、SynopsysはARC InternationalというProcessor IPベンダーを買収し、それぞれのProcessor/DSP IPを販売しており、これを利用したASICの開発に際してArtisan IPが利用されるケースも多いからだ。そんな訳でArmが販売してはいるものの、Artisan IPはファウンドリー/Processに加え、EDAベンダーを選ばずに利用できる汎用のHard IP Libraryの座を獲得していた訳だ。
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