大原雄介のエレ・組み込みプレイバック
Artisan IP売却はArmの「路線変更」の兆しなのか(3/3 ページ)
Cadence以外のユーザーはArtisanが使いにくくなる
それが今回の発表である。Artisan IPのビジネスが丸ごとCadenceに移ったという事は、今後Cadence以外(つまりSynopsysやSiemens Digital)のEDAツールユーザーにとって、Artisanが非常に使いにくくなる事を意味している。またArmが提供しているFlexible Accessのユーザーとか、POP IP/CSSなどのユーザーにとっての影響がどの程度発生するのか見えてこない。何しろ契約の詳細が明らかになっていないので、引き続きFlexible Accessのユーザーが無償でArtisan IPを使えるのか(あるいは別途契約が必要なのか)が分からないし、POP IPとかCSSはいわばSemi Hard IPであって、製造するファウンドリー/プロセスノードをある程度絞って、その代わりある程度の最適化を済ませて配置配線などを容易に行えるようにしたIP群というかSolutionであり、ここでArtisan IPが利用できることが前提となっている。これらのSolutionにどの程度の影響が出て来るのかは、今後のArmの発表を待つしかない。
冒頭にも書いたが、今回の件でArmからのリリースは現時点で一切無い。Cadenceのリリースに寄せたArmのSolutions Engineeringでエグゼクティブバイスプレジデントを務めるKevork Kechichian氏のメッセージも
“We are committed to ensuring that the foundational physical IP needed to deploy Arm technology across all markets continues to be available to the ecosystem.”“The Artisan brand is well established and we believe this technology will continue to play a significant role in the semiconductor industry in the future, and that Cadence is an ideal partner to take it forward.(われわれは、Armテクノロジーをあらゆる市場に展開するために必要となる基本的な物理的IPを、エコシステムが引き続き利用できるようにすることにコミットしている。Artisanは十分に確立されたブランドであり、同テクノロジーは今後も半導体業界で重要な役割を果たすと確信している。Cadenceはそれを推進する理想的なパートナーであると確信している。)”
と当たり障りのないものになっている。一応前半では、引き続きArtisan IPがArmエコシステムで継続的に利用できるとしているので、先に書いたFlexible AccessやPOP IP/CSSに関してユーザーは現在の条件で引き続き利用できそうな雰囲気ではあるのだが、後半の“Cadenceがこれ(Atrisanブランドが重要な役割を果たしている)を推進する理想的なパートナーであると確信している”がいまひとつ意味不明である。
Armは進路変更していくのか
あえてここを深堀りするとすれば、Armは今後、進路変更をしていくつもりなのかもしれない。Artisan IPはそれほどもうかるビジネスではない。なにせFlexible Accessでは(あくまでライセンス料が、であるが)無料で提供されているし、そもそもProcessor IPと異なり個数でロイヤリティーを取れるようなものではない。その一方で新しいプロセスノードへの対応などには相応のコストが掛かる。もちろんエコシステムを発展させるためには必要な投資ではあるのだが、もうArmの中ではエコシステムは十分に広がりきっており、これ以上広がる可能性が乏しい(最大の理由はRISC-Vなどに代表される競合が出てきたことだろう)と判断した可能性がある。
一方でArmはIPOを果たしたことで、より利益を引き上げる圧力にさらされている。利益を上げるには売り上げを増やすか経費を減らすかしかないが、売り上げはそう簡単には増えない。であれば経費を減らすのが常道であり、Artisan IPがそのやり玉に上がったとしても不思議ではない。
これまでArmはある意味総合IPベンダーを目指してきた感があるのだが、ここに来てもう少し絞り込みを始めたのかもしれない。実を言うと、ArmはIPの提供のみならずASICのデザインサービスまで開始しているといううわがある。ことし(2025年)2月にFinancial Timesが報じたところによれば、Meta向けのASICに関してArmのデザインパートナーではなくArm本体がデザインサービスを行うという話で、ことし夏ごろに詳細が公開される予定らしい。真偽の程は現時点では不明だが、今回の売却はあるいはこうしたArmの転身に伴う措置なのかもしれない。
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