大原雄介のエレ・組み込みプレイバック
SRAM 3D Stackingという大きなトレンド(2/3 ページ)
さて今回の話題となるSRAM Stackingはこの次にあたる技術だ。WideI/Oで諦めた、「SoCとMemoryを直接接続し、TSVでつなぐ」を実現した形である。そもそも「何故SRAMを積層したいか」と言えば、性能に直接効いてくるからという話である。昨今だと特にAI向けでは数千コアのプロセッサを集積したものすら珍しくないが、その数千コアがフルに動くと膨大なメモリアクセスが発生し、こちらがボトルネックになりかねない。それを避けるために、最近はSRAMをオンチップで搭載するケースが多いが、これはダイサイズの肥大化につながる事になる。ここでSRAMを3D スタッキングの形で接続できれば、ダイサイズを抑えつつSRAM容量を大幅に増やせることになる。
通常のプロセッサでも効果的だ。図1は2020年にArmが出した“Stack up your chips: Betting on 3D integration to augment Moores Law scaling”という論文である。
これはCortex-Aベースのbig.LITTLE構成のSoCをベースに
- L1とL2の容量を2倍にした
- L1とL2の容量を4倍にした
- L1/L2の容量は変わらないが、L2を高速化して2cycleでアクセス可能にした
という3つのケースでどれだけIPCが向上するか、をシミュレーションしたものである。御覧の通り、L2を高速化しても性能向上は2%かそこらだが、L1/L2の大容量化は3~14%ほどの高速化につながる。それも2倍より4倍の方が効果的である。もちろんこれをそのまま製造するとダイサイズがエラいことになるが、3D構造でSRAMを積層できれば、ダイサイズを変えずに容量を増やすことができ、これがそのまま性能向上につながるという訳だ。
こうした用途を狙ってか、Samsung Foundryは2020年のHotChips 32のPoster Sessionで“SAINT-S: 3D SRAM Stacking Solution based on 7nm TSV technology”という発表を行っている(図2)。もっともこちら、キャッシュの様に分散した形で実装というよりは、いわばScratchpadを3Dで積層したという感じの実装である。あくまでテストという事もあってか、容量は64Mbitチップ×4を2ch(つまりチャネル当たり2チップ)で接続する構成で、チャネル当たり帯域は24.3GB/sec、LatencyはRead 7.2ns/Write 2.6nsとかなり優秀である。ロジックの方の動作速度は760MHzで、Cycle当たり32Bytesの帯域を、Readで7.2nsでアクセスできるのは、L1には厳しくてもL2には許容範囲、L3であれば申し分ない速度(&Latency)と言える。
残念ながらSamsungのこの3D Stackingはまだ研究レベルの話であって、少なくとも現時点でのAdvanced Package Technologyとしてラインアップはされていない。ここでも先鞭をつけたのはTSMCであった。TSMCは2019年のVLSI Symposiumで"3D Multi-chip Integration with System on Integrated Chips (SoIC)"という論文(https://ieeexplore.ieee.org/document/8776486)を発表しており、ここでTSVを使いロジックチップ同士(orロジックチップ+SRAM)を積層する技法をSoICとして発表している(図3)。肝になるのはなぞの"SoIC-Bond"というもので、μBumpよりもはるかに少ない抵抗&寄生容量を実現でき、しかも圧倒的に高密度な接続が可能という説明である。実際にこの(a)~(e)について接続密度、速度、消費電力を比較したのがこちら(図4)。2.5DというのがCoWoSなどに代表されるSilicon Interposerの方式で、これに比べると(d)(SoIC F2B)であっても十分に高密度で、しかも消費電力が少ない事が分かる。
このSoICはTSMCのPackage Optionとして正式にラインアップされており、最初の顧客には台湾GUCが名乗りを上げたが、ただGUCのG-Linkは言ってみればSoICを利用したI/F IPであってチップそのものではない。どこが最初に名乗りを上げるのか、と思っていたところCOMPUTEXにおける基調講演の最後でAMDのLisa Su CEOが発表したのが、まさにこのSoICを利用したL3のStackingであった。3D V-Cache Technologyと名付けられたこの技術は、既存のZen 3コアのRyzen 9 5900Xのダイの上に64MBの追加のL3キャッシュをTSVを利用して積層するもので、これによりダイ当たりのL3の合計容量は96MBになった(図5)。これにより、ゲームのフレームレートが平均で15%向上した(図6)というのがAMDの説明である。ここで一番インパクトがあった話は、この3D V-Cacheは試作とか研究レベルのものではなく製品化に向けたもので、実際年末からこの3D V-Cache搭載製品を出荷する、と発表した事である(図7)。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
大原雄介のエレ・組み込みプレイバック
これを読めばここ1カ月のエレクトロニクス/組み込み業界の動きが分かる連載。注目すべき市場動向と注目すべき製品を取り上げます。
この記事の著者
新着ホワイトペーパー PR
-
製品資料
[株式会社 Green AI] AIで脱炭素計画を最適化、初年度からエネルギーコストとCO2を削減する方法 -
市場調査・トレンド
[スマートジャパン編集部] 「ペロブスカイト太陽電池」の普及戦略が公表 政府が目指すコスト・導入量のロードマップを解説 -
市場調査・トレンド
[スマートジャパン編集部] 導入が加速する再エネ・系統向け蓄電システム コスト・収益性の現状分析 -
技術文書・技術解説
[スマートジャパン編集部] いまさら聞けない「ペロブスカイト太陽電池」の基礎知識と政策動向 -
技術文書・技術解説
[スマートジャパン編集部] 「ペロブスカイト太陽電池」の開発動向、日本の投資戦略やコスト目標の見通しは?
関連記事
こんなメディアも見られています
TechFactoryに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
特集
- マテリアルズ・インフォマティクスの動向調査
- 研究・開発職のデジタル活用調査
- 設計・解析業務におけるAI活用
- 3Dプリンタ利用動向調査
- CAD利用動向調査
- つながる工場の現状と課題
- 製造業におけるAI開発および活用の実態
- 設計・製造現場における品質管理
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
EE Times Japan×EDN Japan 統合電子版:フィジカルAIが生み出す新たな「設計思想」――電子版2026年8月号
-
2
半導体装置メーカー 業績まとめ【2027年3月期第1四半期】
-
3
新入社員に読んで欲しい鉄鋼材料の基礎知識まとめ(Part4)
-
4
一時は時価総額トヨタ超え キオクシア2026年度の動向
-
5
微細配線間の絶縁劣化をどう捉える? 先端パッケージ評価の最前線
-
6
新入社員に読んで欲しい鉄鋼材料の基礎知識まとめ(Part1)
-
7
EE Times Japan×EDN Japan 統合電子版:2026年上半期の半導体業界を振り返る――電子版2026年7月号
-
8
新入社員に読んで欲しい鉄鋼材料の基礎知識まとめ(Part3)
-
9
CADツールの見直しは本当に必要? 切り替えの理由と効果を7つの質問で検証
-
10
新入社員に読んで欲しい鉄鋼材料の基礎知識まとめ(Part2)
TechFactory SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechFactoryをフォロー