大原雄介のエレ・組み込みプレイバック
黄昏の時期に入ったx86(2/3 ページ)
長らく主役を張り続けていたx86
さて本題。定期的に主役のプロセッサが変遷していった組み込み市場向けと異なり、PCマーケットあるいはサーバマーケットでは、長らくx86が主役を張っていた。これは組み込みマーケットよりも、さらにソフトウェアというかアプリケーションの互換性が強く求められてきたからだ。まずはMS-DOSから始まり、16bit Windows→32bit Windows→64bit WindowsとMicrosoftと共同歩調を取る様に進化してきた。この間、Microsoftは他のプラットフォームにWindowsを移植するトライを行った(Windows Alpha/MIPS/PowerPCに移植された)ものの、どれも長続きしなかった。それでも組み込み/ハンドヘルドデバイス向けのWindows CEはARM(Armではない)/StrongARM、MIPS、PowerPC、SuperHとx86をカバーしたが、こちらも結局Windows Embedded Compact 8.0が最後のリリースになってしまい、以後はx86のWindowsベースになってしまった。
そもそも“Wintel”などと称されつつも両社は必ずしも仲が良い訳ではない(にこやかに笑いあって握手しながら足で蹴りあってる、というのが正確なところか)こともあり、Microsoftはx86以外のWindowsプラットフォーム提供を模索し、IntelはMicrosoft以外のソフトウェアエコシステム構築を狙いつつ、どちらも上手く行かないままずるずると40年が経過した、というのが正確なところだろうか。
こんなに続いた理由は上で書いたようにソフトウェア互換性以外に理由はあり得ない。端的に言えばMicrosoftはWindowsプラットフォームを囲い込むことで、猛烈な量のアプリケーションソフトをWindowsプラットフォーム上で提供してきており、これに依存するエンドユーザーからすれば「細かいことはいいから○○○がちゃんと動くマシン持ってこい」(←ここで○○○にはExcelでも一太郎でも、お好きなものをどうぞ)となる訳で、必然的にx86ベースのマシンで今ならWindows 10を、ということになる訳だ。
このx86とWindowsの堅固なコンビネーション(というか腐れ縁というか)が崩れ始めた最初の兆候は、クラウドサービスの急速な発展と、Microsoftの3代目CEOとしてSatya Nadellaが就任したことだろう。クラウドといってもいろいろあるし、当初はx86ベースのサーバが大量に使われていたから、むしろサーバ向けの新しいマーケットが誕生したと喜んでいたわけだが、アーキテクチャが直接見えてしまうIaaSとかPaaSはともかく、SaaSは別にそれがx86で動く必要は全くない。あるいはPaaSも、適切なミドルウェアが提供されれば、アーキテクチャに非依存で利用できるから、その意味ではクラウドの普及はx86の強みを殺すことになる。そしてNadella CEOはこれまでのWindows(とOffice)の売り上げに偏っていたMicrosoftのビジネスモデルを転換、マルチプラットフォームで広範なパートナーと協業する方向を示すとともに、Azureを核に据えたビジネスへと転換を始めた。この結果として、「必ずしもx86でなくてもWindows環境が使える」という素地が次第に構築される様になってきた。
あるいはApple M1を搭載したMacBookとかMac miniが、従来のIntelベースのアプリケーションもRosetta 2のおかげでそれほど遜色ない速度で動き、M1 Nativeだとさらに高速なんて話が出てくれば、同じ様にIntelで動いていたWindowsのアプリケーションも、ひょっとしてArmのSoCで結構な速度で動くんじゃないか、と期待する人は少なくないだろう。2020年12月10日、MicrosoftはArm用Windows上でx64 EmulationのPreviewを開始した。これが正式版になると、従来のx86向け(つまり32bit)と新たにx64向け(64bit)のWindowsアプリケーションが原則として64bit Arm上で動作することになる。当然これに期待をする人は多いと思う。
クラウドにしてもNadella CEOの就任にしても数年前の話であり、その直後は何かが大きく変わった訳ではない。が、そこから少しずつ、状況が変化してきた。そうした変化が目に見える形で現れたのが2020年としていいと思う。AWS Graviton2のInstanceは、同じ処理を行うXeonとかEPYCのInstanceよりも高速でしかも低コストとあれば、当然ユーザーはGraviton2のInstanceを使うことを検討し始めることになる。Microsoftによる自社設計のArmコアサーバもこれと同じコンテキストで語ることができる。上のリンクで示した鈴木淳也氏の記事にもあるが、もともとはQualcommのCentriq 2400をベースとしてプロジェクトを進めていたのが、一度ご破算にしてもう一度トライを始めた形になる。鈴木氏は「よりユーザーのニーズに最適化するようにサーバ側の環境が整えられつつある兆候なのかもしれない」と締めているが、ここで言うユーザーニーズとは「x86でなくてもいい所に、x86は突っ込まない」という言い方もできる。Intel離れ、というよりはもっと積極的にx86離れ、と称しても差し支えない状況が進んでいる訳だ。
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これを読めばここ1カ月のエレクトロニクス/組み込み業界の動きが分かる連載。注目すべき市場動向と注目すべき製品を取り上げます。
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