シリーズ「モノづくりの現場から」(日立製作所 大みか事業所)
「試作できない工場」が取り組んだ全体最適化、日立大みかの目指すスマート工場の姿(2/2 ページ)
工場全体の最適化
ここで紹介した制御盤生産におけるデジタルデータ活用を違う言葉で表現するならば、RFID生産監視システムによる「見える化」、作業改善支援システムによる「改善指示」、モジュラー設計システムによる「設計フィードバック」、工場シミュレーターによる「作業ロス改善」を循環させることで、「工場全体の最適化」を進める取り組みといえる。
工場における改善というテーマではどうしても組立工程の話が耳目を集める。大みか事業所の制御盤組立ラインにおいても、設計時の3D CADデータを用いた「組立ナビゲーションシステム」や1品生産に対応した「進捗・稼働監視システム」、作業台のカメラ映像を分析してボトルネックを抽出する「作業分析システム」など興味深いソリューションが稼働している。
これらはその部分部分においての生産活動を高く効率化するものであるが、それでも、大みか事業所の門間隆之氏(情報制御第3本部 IoTシステム設計部 担当部長)は部分最適化ではなく、「全体最適化」の重要性を強調する。その背景にあるのは、日立製作所が過去に陥った経営危機とその打開策にある。
日立製作所は2000年代終盤に陥った深刻な経営危機からの脱却策として、コスト構造改革「Hitachi Smart Transformation Project」(スマトラ)を2011年から推進した。その一環として大みか事業所では「全体が最適化された工場としてのスマート工場」の確立が、「強力なトップダウン」(門間氏)で進められることになったのだ。
ただ、全体最適化された工場といっても一足飛びに実現するものではない。そこで大みか事業所では生産システムの成熟度モデルを定義し、モデルを基準としたアプローチで全体最適化を目指している。成熟度モデルの最上位(レベル6)は共生・分散・自立といった工場運営が可能であることを示すが、大みか事業所としては「レベル5(生産計画の最適化、生産指示の自動化)を突き詰められたら」という意向だ。
現在大みか事業所で稼働している、デジタルデータを活用しての全体最適化を目指す生産計画最適化ソリューションはまだ完成形ではない。今後は顧客やパートナー企業を対象に取り組みを公開して生産モデルを共有しての協創を推進していく他、今後は、ヘッドマウントディスプレイを使った組み立て支援やAIの活用など新要素の導入も視野に入れたいとしている。
こうした新要素導入については「作業者が何をしており、その作業によってどのような影響が発生するのか」という、作業効率とAI、センシングの関係性を中心に研究が進められている。現在の生産システムを支える作業データはRFIDとビデオ映像から得ているが、門間氏は「AIでの処理を考えるとデータ量が足りない」という。
取得データ量を増やすことでさらに高精度な全体最適を行い、熟成度モデルのレベル5を突き詰めるという方向性は定まっているが、どのようなデータをどのように取得していくかはまだ試行錯誤の段階だ。しかし、門間氏は「ある部分からの局地的なデータ取得量を増大させるより、ハピネス(日立が研究しているウェアラブルセンサーを用いて幸福度を計測する技術)のような“広く浅く”のセンシングを進めていく方が、全体最適化に貢献すると考えています」とデータ取得の方向性を語る。
製造業における「全体最適化」は難しい。大みか事業所の場合はトップダウンでの推進が実現に大きく寄与したと門間氏は言うが、経営規模の大局的な視点と細部を見逃さない現場の目線、いずれもが必要になる取り組みが平易であろうはずがない。
「方法を考えるのはボトムですが、方針を考えるのはトップである方が良いと感じます。そのトップは課長かもしれませんし、工場長かもしれません。方法と方針はボトムアップとトップダウンに言い換えられますが、このバランスを取ることが非常に大切であると感じます。そして多くの場合、どちらかに偏りがちですね」(門間氏)
全体が最適化された工場、スマートな工場運営の実現に長らく取り組んでいるだけに門間氏の言葉は重い。「目的を明確にすること」とはスマート工場の実現や理想像について語られる際に頻出するメッセージであるが、大みか事業所の取り組みはまさにこれを実践しているといえる。
日立製作所のIoTプラットフォーム「Lumada」には、大みか事業所の取り組みがユースケースとして登録されており、大みかで培われた知識や経験が「作業改善支援システム」や「進捗・稼働監視システム」というなどサービス単位で(SaaS)として導入できる。
これらを利用すれば大みか事業所のような全体最適化が可能になるという単純な話ではないが、目的を定めて手段を講じることで、初めて意図した成果は得られる。製造業IoTやスマート工場といった取り組みに着手する前に、「現在が変わって、初めて意味がある」ことを関係者が理解することこそが成功への条件であることを、大みか事業所は教えてくれる。
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シリーズ「モノづくりの現場から」
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