宮田健の「セキュリティの道も一歩から」(22)
「Mirai亜種」の感染拡大で浮き彫りとなった、IoT機器ベンダー“反応の違い”
「モノづくりに携わる人」だからこそ、もう無関心ではいられない情報セキュリティ対策。しかし、堅苦しい内容はちょっと苦手……という方に向けて、今日から使えるセキュリティ雑学をお届け! 今回は、注意喚起の意味も含めて「Mirai亜種」の感染拡大に対するIoT機器ベンダーの“反応”について取り上げます。
これまで何度か、「Mirai(ミライ)」と名付けられたマルウェアについて紹介してきました。このマルウェアは日本でも2017年4月に話題となり、早8カ月がたとうとしています。インターネットの世界において“8カ月”はとても長い時間ですが、マルウェアの世界においては“ドッグイヤー”的な話はなく、Miraiはいまだに「現役」です。今回はMiraiへの対応状況を踏まえながら、IoT機器ベンダーをどう選ぶべきか? 消費者目線で考えてみたいと思います。
今も「Mirai」がIoT機器を狙っている――しかも日本で
まず、JPCERT コーディネーションセンターの注意喚起を紹介します。日本のインターネットにおける脅威動向をウォッチするJPCERTは2017年12月19日、Miraiの“亜種”が感染活動を拡大していることに対して注意喚起を促しました。
この注意喚起の中で、最も気になったのは以下の内容です。
また、調査の結果、感染に至っている機器の多くに、ロジテック製ブロードバンドルーターの一部製品が含まれていることも確認されています。公開情報には、HUAWEIのルーター(HG532)が対象になっているとの情報もあります。
これはつまり、Miraiの亜種が特定ベンダーのブロードバンドルーターにヒットし、感染活動が確認されたということです。Miraiの亜種が利用したのは「Realtek SDKのminiigd SOAPサービスにおける任意のコードを実行される脆弱(ぜいじゃく)性[CVE-2014-8361]」で、これに併せてロジテックでもお知らせを更新しています。
実はこのお知らせ、非常に興味深い点があります。ロジテックでは既にこの問題を把握しており、その対策済みファームウェアを「2013年6月」以降、つまり“4年も前”にリリースしていたのです……。ここでの問題は「それがきちんと適用されなかったこと」、そして「自動適用の仕組みがなかったこと」です。ただ個人的には、今回のロジテックの素早い反応には好感が持てました。
なお、Mirai亜種に関してはさまざまなところから情報が出始めています。この機会にぜひチェックしておいてください。
消費者は「時事的な問題にいかに早く反応しているか」も見ている
実はもう1つ、似たような「好感」を別のベンダーからも感じていました。インターネット上で時刻を合わせるための仕組み「NTP(Network Time Protocol)」では、基準となるNTPサーバに時刻の問い合わせを行い、機器側の時刻をそれに合わせるということを行っています。これはインターネットの基本的なプロトコルなのですが、その昔、このサーバは「好意で」構築、運用されていることが多かったのです。
ENOG47 Meetingの資料「公開NTPサーバの運用と課題(谷崎文義氏)」によると、1993年に福岡大学のある研究室で実験的に構築されたNTPサーバのIPアドレスが、あるIoTデバイスの中に“固定”で記載されており、IoTデバイス利用者側で設定変更できないという問題が発生していたそうです……。福岡大学としても、単純にNTPサーバを落とすわけにもいかず、どう対処すべきか困っていたとのことです。
その資料の中で指摘されていた、“IPアドレスを固定で指定”しているIoTデバイスを販売していたTP-LINKは、これに素早く反応しました。該当する同社の無線LAN中継器に対し、問題を解消するアップデートをリリースする予定だと発表しました。これまでの仕様はかなり問題があるとは思いますが、この素早い対応は評価したいと思います。
現在、IoTデバイスだけでなく、インターネットにつながる全ての機器は、脆弱性や設計ミスとは無縁ではいられません。そのため、いかにそれを素早く直すか、直すスケジュールを立てられるかが、機器ベンダー側の責任でもありますし、そうした対応の有無によって消費者に選ばれるか、選ばれないかが変わってくると思います。インターネットやIoTデバイスのセキュリティに注目が集まる今、消費者はベンダーの“反応”もしっかりと見ています。特にSNSが発達している状況では、反応すること/反応しないことがすぐに広まり、これによって好感も得られれば、逆に簡単に反感を買うこともあるでしょう。
インターネットにつながるデバイスを提供することは、アフターサービスの意味も変わります。保守期間が過ぎていたとしても、Miraiのような攻撃が盛り上がったときや脆弱性に注目が集まったとき、適切な対応が取れることが重要です。消費者も学んでいますので、脆弱性が発見されたときよりも、むしろその後の対応を見て「次はここにしよう(このベンダーの製品を買おう)」と思うはずです。
さて、今回話題になったMirai亜種による脅威ですが、ロジテックに限らず、他のブロードバンドルーターはどうなのでしょうか。皆さんの中にも「自分が使っているルーターは本当に大丈夫か?」と不安に思われる方もいらっしゃるでしょう。
ちなみに、筆者が自宅で使用しているブロードバンドルーターのベンダーは「対応済み」とも「対処中」とも「対応不要」ともメッセージを発していないことが分かりました。それだけではなく、ファームウェアを自動更新する設定にして安心し切っていたのに、リリース済みのファームウェアが未適用状態だった……という事実も判明しました。そんなわけで、次は適宜しっかりとした注意喚起を行うベンダーの製品を買おうと心に誓った次第です。
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著者紹介:
宮田健(みやた たけし)
元@ITの編集者としてセキュリティ分野を担当。現在はフリーライターとして、ITやエンターテインメント情報を追い掛けている。自分の生活を変える新しいデジタルガジェットを求め、趣味と仕事を公私混同しつつ日々試行錯誤中。現在、ITmediaエンタープライズにて、もはや誰もが人ごとではないITの課題や話題を紹介する「半径300メートルのIT」を連載中。また、それをまとめた書籍「デジタルの作法~1億総スマホ時代のセキュリティ講座」も発売中。
筆者より:TechFactoryでの本連載では、ITセキュリティの「あるべき論」「正論」だけでなく、モノづくりに携わる方たちに「気楽に」「楽しく」セキュリティを考えていただけるように、さまざまな話題を取り上げたいと思います。「セキュリティっていわれてもねえ……」と思わず考えてしまった皆さまに覚えていただけるようなコラムにしたいと思います。お楽しみに!
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