TechFactory通信 編集後記
「自動運転車が売れない」可能性
「自動運転車が売れない」――こんな特集記事がいまから10年後、2027年の経済誌を飾る可能性を誰も否定できないでしょう。「自動運転車が売れない」(かもしれない)3つの要因について検討します。
「自動運転車が売れない」
こんな特集記事がいまから10年後、2027年の経済誌を飾る可能性を誰も否定できないでしょう。自動運転車の価格帯がどうなるのか、高機能化する自動車に対して利用者がどこまで対価を払うか、自動車の「所有」がいつまで価値を認められるのかなど、自動車や自動運転を巡る要因には不確定要素が多いからです。論点は他にも存在しますが、今回はこの3つを検討してみましょう。
「自動運転車が売れない」(かもしれない)3つの要因
まずは車両の価格帯です。自動運転機能を実現するには車載用ステレオカメラをはじめとした各種センサー、センサーからの情報を処理する半導体、車種や提供するサービスによってはクラウドに接続するための通信ユニットも搭載することになるため、実装する自動運転のレベルにもよりますが、いくらかの価格増を招きます。
これら自動運転に必要な装備は、量産効果が発揮されれば今ほどの価格差を生まないと予想できます。ですが、自動運転が付加価値機能として位置付けられ続けるならばベース車両との価格差は存在し続けるはずです(現在のシートベルトのように「レベル1自動運転機能を標準装備とする」ようなルールが生まれれば話は変わりますが、それは別の話でしょう)。
次はその価格差に対して利用者が対価を払うかどうかです。自動運転のレベルによって提供される価値は変わりますが、自動運転車が提供する価値とは、基本的に事故の低減や優れた運転(乗車)体験となります。しかしながら、フロスト&サリバンの調査分析資料「自動運転のグローバル市場見通し:2016年」では、こうした事故軽減や新たな乗車体験の提供は自動運転技術の導入を拡大しないとしています(関連記事:「事故低減」「優れた運転体験」は自動運転市場を拡大しない)。
PwCコンサルティングの調査資料でも、類似の傾向が見られます。米調査にて自動車の「安全」について支払ってもよいという金額は2013年で1500ドル程度、2016年で1000ドル程度と低下しており、2020年には500ドル以下になる可能性があるとしています。自動運転技術を利用した安全機能が、利用者からすれば500ドル程度の価値しかないとすれば、自動運転車の普及拡大は見込めないでしょう(関連記事:自動車産業、変革の時代をどう生きる? 未来への処方箋)。
最後の1つ、「所有の価値」は最も大きな問題かもしれません。世界的な少子高齢化や収入格差の増大はシェアリングサービスを拡大させており、相対的に自動車を買う(所有する)行為は少数派となる可能性が高くなっています。ですが、これは「自動車が売れない」という危機としてではなく、移動という行為の選択肢が増えたことによる新ビジネスのチャンスと見るべきではないでしょうか。
これまでマイカーで移動していた人がカーシェアリングを利用するとして、自動運転機能付きの有無を選べる業者と、選べない業者がどちらを利用するでしょうか。ドライバー不足で生鮮品を毎日運べなかった山村への配送に、自動運転車を導入すればどうなるでしょうか。運転を趣味とする人が完全自動運転車を選ぶでしょうか。
ちょっと考えるだけでも、「自動車を使った移動の選択肢」が増えると変化が起きそうなシチュエーションはたくさん思い浮かびます。車載半導体大手であるルネサス エレクトロニクスも自社カンファレンスにて、自動運転車について「所有する車」と「乗る車」に分けた事業構想を明らかにしています(関連記事:AI時代に舵を切る半導体ベンダーの「持ち札」)。
「高機能な自動運転車が登場すれば売れる」はあまりに楽観的だと思いますが、自動運転技術の発達によって自動車の使われ方に変化が起き、新たな市場が広がる可能性も決して低くないはずです。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
TechFactory通信 編集後記
「モノづくり総合版 TechFactory通信」に掲載された、TechFactory担当者による編集後記の転載記事一覧です。
この記事の著者
新着ホワイトペーパー PR
-
製品資料
[株式会社 Green AI] AIで脱炭素計画を最適化、初年度からエネルギーコストとCO2を削減する方法 -
市場調査・トレンド
[スマートジャパン編集部] 「ペロブスカイト太陽電池」の普及戦略が公表 政府が目指すコスト・導入量のロードマップを解説 -
市場調査・トレンド
[スマートジャパン編集部] 導入が加速する再エネ・系統向け蓄電システム コスト・収益性の現状分析 -
技術文書・技術解説
[スマートジャパン編集部] いまさら聞けない「ペロブスカイト太陽電池」の基礎知識と政策動向 -
技術文書・技術解説
[スマートジャパン編集部] 「ペロブスカイト太陽電池」の開発動向、日本の投資戦略やコスト目標の見通しは?
関連記事
こんなメディアも見られています
TechFactoryに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
特集
- マテリアルズ・インフォマティクスの動向調査
- 研究・開発職のデジタル活用調査
- 設計・解析業務におけるAI活用
- 3Dプリンタ利用動向調査
- CAD利用動向調査
- つながる工場の現状と課題
- 製造業におけるAI開発および活用の実態
- 設計・製造現場における品質管理
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
EE Times Japan×EDN Japan 統合電子版:フィジカルAIが生み出す新たな「設計思想」――電子版2026年8月号
-
2
半導体装置メーカー 業績まとめ【2027年3月期第1四半期】
-
3
新入社員に読んで欲しい鉄鋼材料の基礎知識まとめ(Part4)
-
4
一時は時価総額トヨタ超え キオクシア2026年度の動向
-
5
微細配線間の絶縁劣化をどう捉える? 先端パッケージ評価の最前線
-
6
新入社員に読んで欲しい鉄鋼材料の基礎知識まとめ(Part1)
-
7
EE Times Japan×EDN Japan 統合電子版:2026年上半期の半導体業界を振り返る――電子版2026年7月号
-
8
新入社員に読んで欲しい鉄鋼材料の基礎知識まとめ(Part3)
-
9
CADツールの見直しは本当に必要? 切り替えの理由と効果を7つの質問で検証
-
10
新入社員に読んで欲しい鉄鋼材料の基礎知識まとめ(Part2)
TechFactory SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechFactoryをフォロー