PTCジャパン主催 CAD勉強会
PTCが3D CADの歴史を振り返る――「Creo」の前身「Pro/ENGINEER」が生まれ、今に至るまで(2/3 ページ)
ロシアの数学者が生みの親、第3世代の代名詞「Pro/ENGINEER」
そして、いよいよ3D CADは第3世代に突入していく。「この世代では、設計者の思考に合わせた設計が実現可能となった。この新しい流れをけん引したのが他でもない『Pro/ENGINEER』だとわれわれは自負している」と芸林氏は語る。
PTCの歴史を語る上で欠かせないロシアの数学者であったSamuel Geisberg博士は、もともとはComputervisionに在籍し、CAD/CAMの開発に従事していた。その後、3次元による設計環境を実現すべく、Computervisionをスピンアウト。1985年にParametric Technology Corporation(PTC)を設立したのだ。Geisberg氏は機構設計のあるべき姿を模索し、アイデアを練りながら多くの設計者にヒアリングを行い、1988年にPro/ENGINEERのファーストバージョンを発表した。「まさにこのタイミングが、機構設計の新時代の幕開けだったといえる」(芸林氏)。
Geisberg氏が考える機構設計のあるべき姿を具現化したPro/ENGINEERには、大きく3つの特長がある。それは「パラメトリック(Parametric)」「フィーチャーベース(Feature-based)」「相互連携性(Associativity)」だ。
「現在、世の中の多くの3D CADが同じ思想を取り入れて機能強化を果たしているため、特別珍しいものではないが、当時、これらは第3世代の象徴であり、PTCが初めてパラメトリック、フィーチャーベース、相互連携性を取り入れた3D CAD環境を開発し、世に送り出した」と芸林氏は説明する。
設計者の思考や意図に合わせたモデリングが可能に
パラメトリックとは、文字通りパラメーターを持っているということで、寸法を示す変数の値を変更すると、自動的に形状が変化する。例えば、3×3×3mmの立方体の幅を5mmに変更したい場合、「パラメトリックモデリング以前は、幅2mmの別の立方体を用意して、元の3×3×3mmの立方体に後付けする(『和』のブーリアン演算をする)といったやり方が考えられるが、パラメトリックだと『3』という値を『5』に変えるだけで、3次元形状が自動的に変更される。こちらの方が設計者の自然な思考に合った形状変更のアプローチだといえる」(芸林氏)。
また、3次元形状の最小構成単位、ここでいう立方体を「フィーチャー」と呼ぶが、例えばこの3×3×3mmの立方体に、半径0.5mmの穴(新たなフィーチャー)を追加するとしよう。穴の位置は立方体を正面に見て、上から0.75mm、右から0.75mmの場所だ。「この穴の半径と位置が設計意図である。パラメトリックモデリングでは、先ほどのように立方体の幅を3から5mmに変えても、穴の位置は設計意図通りに(正面から見て)右上に配置される。従来のように別のフィーチャーをブーリアン演算で足し込んで……というアプローチではそのようにはならない」と芸林氏。
真となる1つの「3Dモデル」がもたらすメリット
相互連携性も設計製造プロセス全般にとって大きなメリットをもたらすという。「現実問題として、2次元図面の需要はしばらくなくなることはない。しかし、3次元モデルで設計することで、形状全体の大きさや2次元では把握しづらい設計意図などが確認しやすくなる。例えば、3次元モデルで部品を設計しておくと、そこから2次元図面を作ったり、組立図を作ったり、解析を回したりすることが容易に行える。そして相互連携性により、3次元モデルへの変更が、2次元図面などにもきちんと反映される」(芸林氏)。
また従来の2次元主体の設計製造プロセスでは、基本的に左から右へのシーケンシャルなプロセスで作業が進んでいく。そのため、製造直前の型設計の段階でミスが発覚した場合、詳細設計に立ち戻る必要があり、その手戻りコストは非常に大きなものとなる。「設計製造プロセスは2次元で行い、解析などの検証は3次元で行うというケースもあるが、基本的には“検証の道具”として3次元モデルを使っているだけで、データベースもバラバラの場合が多く、“設計のための3Dモデル”とは別ものである。プラスαの作業として検証のための3Dモデルを作成する必要があり、非効率でもある」と芸林氏は指摘する。
これに対して、相互連携性を備えた3次元主体の設計製造プロセスは、同時並行的に進められるという。「20年ほど前から『コンカレントエンジニアリング』などと呼ばれているが、特に3次元主体の設計製造プロセスが注目された当時は、開発期間やコストが大幅に短縮できた。また、3次元主体の設計製造プロセスでは『フロントローディング』が確立できるため、設計開発の初期段階で解析を行い、即その結果を詳細設計にフィードバックするといった効率的な品質の作り込みも行える」と芸林氏。
この相互連携性の実現を支えるのが、「Single Source of Truth」の考え方だという。全てのデータは1つのソースから成るべきだとし、Geisberg氏は3次元モデルを真(唯一)の情報源としたのだ。「1980年代後半、パラメトリック、フィーチャーベース、相互連携性を真っ先に取り入れた3D CADはPro/ENGINEERだけで、PTCはパラメトリックCADのパイオニアであった。その後、他社も同じ思想で機能改善が行われていき、現在のような切磋琢磨する関係性になった。そしてPro/ENGINEERは、2010年に『Creo』と命名され、現在に至っている」(芸林氏)。
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