TechFactory通信 編集後記
ARMによる悪魔の証明
Same!Same!Same!Same!と買収されたARMは強調しますが、さて。
「ないことの証明は困難である」という意味で、「悪魔の証明」という言葉を使うことがあります。単にうたぐり深いだけなのかもしれませんが、「変わらないので安心して欲しい」といわれて、「はいそうですか」と簡単には信用できないのは記者根性なのかもしれません。
ARMのエンジニア向けプライベートイベント「ARM Tech Symposia 2016 Japan」が行われ、基調講演に登壇したExecutive Vice President兼CCO(Chief Commercial Officer)のRene Haas氏は開口一番、ソフトバンクによる買収に言及し、ARMのビジネスモデルや製品ロードマップに変化はないことを強調しました。
Haas氏は買収されたことにより「経営は安定し、より開発を加速させることが可能となり、ARM単独では参入が難しかった市場へも積極的に関与できる」とそのメリットを強調します。買収という言葉を使うと「経営権を他社に奪われる」というニュアンスが強く出るためにマイナスイメージが先行します。しかし、上場企業は決算ごとの利益を求められるため、年単位でのロングスパン収益を狙う企業にとって必ずしも上場は適した形態ではありません。
設備投資に資金が必要となる製造業によって、株式非上場化は必ずしも経営の拡大を目指す上で適した手法と言えないことは事実ですが、ARMは知られるようにIP(知的財産)の開発とそのライセンスに特化した企業であり、製造業に深い関係を持つ企業ながら大掛かりな製造設備を必要としない企業です。
買収前もARMの経営は安定したものでしたが、その安定した業績は過去に開発したIPによってもたらされたものであり、全く同じやり方でIoTという大きな変革の中でその安定した業績を保ち、さらには競争力を高めることができるか、首脳陣が不安を覚えていたとしても不思議はありません。
ARMとソフトバンクが共に描く絵
IP開発に特化した企業であるからこそ開発に時間をかけ、あらたな時代に勝ち残るだけのIPを投入するための判断が買収の受け入れだったとすれば、Haas氏の「買収による変化はない」という言葉にもうなずけます。事実、Cortex-MへのTrustZone実装や米スタートアップによるARMコアサーバによるベアメタルクラウド提供など、明らかにこれまでとは異なる、IoTという流れを意識した取り組みが見られます。
同じく基調講演に登壇したソフトバンクグループ代表取締役副社長兼CEOの宮内謙氏は買収した側の立場から、デバイスと開発環境をARM、ネットワークとサービスをソフトバンクが担うことで大きなビジネスが可能になると投資の有用性を強調します。前述のARMコアサーバによるベアメタルクラウドを提供する米Packetには、ARM買収後にソフトバンクが出資しており、ARMの意図する「流れ」を支持する具体的な行動がソフトバンクにあったことが分かります。
「(変わら)ないことの証明は難しい」のは確かですが、ARMとソフトバンクはさまざまな取り組みに示すことで、「変わらずに進んでいること」を伝えてきました。買収が発表された際には、3.3兆円もの買収額からその有用性を疑う声もありましたが、ネットワークとサービス(アプリケーション)でARMエコシステムを拡大するというビジョンが現実になれば外野の声も消えるでしょう。「買収しても変わらない」という言葉を疑った記者の声もまた、消えるでしょう。
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TechFactory通信 編集後記
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