実録、挑戦を続けるエンジニア/JDSound 宮崎晃一郎氏
音楽とは無縁だった半導体エンジニアが創り出したA4サイズのポータブルDJシステム(4/4 ページ)
妥協を許さないGO-DJ Plusの開発
TechFactory編集部 資金調達のプランは分かりました。では、GO-DJ Plusの開発状況はいかがでしょうか?
宮崎氏 使用する回路自体は前モデルのGO-DJとほぼ同じなんです。インタフェースを追加するくらいの変更で済む予定です。GO-DJの開発は本当に苦労の連続でしたが、今はそうした苦労が資産としてしっかりと残されているので、GO-DJ Plusの試作機の開発は1週間くらいで実現できました。
特に、3年間アップデートを続けてきたソフトウェア資産がほぼそのまま使え、DJ機器として完成度の高いソフトウェアをすぐに実装できる点は非常に大きなアドバンテージとなっています。
こうした資産の有効活用と企業努力により、GO-DJ Plusの販売価格はGO-DJよりも1万円安い、4万9800円(税別)を予定しています。
TechFactory編集部 コスト削減という意味で、AndroidやLinuxといった汎用OSを採用してその上でDJアプリを動かすという考えはなかったのでしょうか?
宮崎氏 ポータブルDJ機器を“ただ作る”という点だけで言えば、AndroidやLinuxでも可能ですし、安くできるかもしれません。ただ、DJ機器として満足のいく完成度で仕上げることは難しいと思います。
例えば、応答速度です。OS上でDJアプリを走らせて、ボタン/スイッチ操作で音を鳴らすといった場合、いくらアプリケーションを高速化しても、OSが間にいることで満足できる安定した応答速度を実現できません。何か別のタスクが走り負荷が掛かった状態だと、ボタンを押してから音を鳴らすまでの反応速度に影響が出ます。それに、意図しないところでOSがクラッシュしたり、フリーズしたり、勝手にアップデートが走ったりと安定動作への不安もあります。DJ機器には、常に一定の応答速度で、安定した状態でDJプレイが行えることが求められるんです。
ですからGO-DJ/GO-DJ PlusはノンOSで、アセンブリで書いた単一アプリケーションが走っているだけです。電源を投入して1行目のプログラムが走るところから自分たちで作り込んでいるんです。つまり、GO-DJ/GO-DJ Plusは“組み込み機器”なんです。ですから、汎用OS上で動くDJアプリなどと比較して、応答速度と安定性は雲泥の差。GO-DJ/GO-DJ Plusであれば、常に同じパフォーマンスでDJプレイを楽しむことができるのです。
TechFactory編集部 では開発はかなり順調ということでしょうか?
宮崎氏 はい。残すは音質です。今回のGO-DJ Plusはスピーカーを内蔵していますので、10月量産開始までに音質をどこまで向上できるか、そこを今まさに詰めているところなんです。
現在の試作機はA4サイズでフラットな筺体デザインなのですが、どうしても期待する低音が出ないんですね。スタイリッシュできちんと音が出せるというところまで完成度を高めていますが、音質の部分ではまだ満足度は20%くらいの出来栄えなんです。なので最低限スピーカー部分に何らかの厚みを付けたいなということで、筺体設計の担当者、今回GO-DJ Plusの量産をサポートしてくれるヤグチ電子工業と相談しながらギリギリまで音質を追求していきたいと考えています。
TechFactory編集部 ちなみに、GO-DJ/GO-DJ Plus両製品に共通する話かもしれませんが、電子部品・パーツの調達など苦労はありませんでしたか?
宮崎氏 GO-DJ/GO-DJ Plusのメインプロセッサはファインアークで設計した「FS-503」(3CPU+3DSP、動作周波数58MHz)を使用しています。
その他の電子部品・パーツなどは基本的にありものを購入しています。液晶ディスプレイなんかはそうですね。われわれのようなベンチャー企業だと一から液晶ディスプレイを作ることができませんから、デジタルカメラやスマートフォン用として量産された液晶ディスプレイを流用しています。そういう意味では液晶ディスプレイのサイズありきで、GO-DJ/GO-DJ Plusの本体サイズも決まっているといえます。ただ、こういった液晶ディスプレイをわれわれのようなベンチャー企業が自由に調達できる時代が来たということは、非常にありがたい流れだと思いますね。
あと、調達した電子部品で一番気を使ったのがタッチパネル。ユーザーインタフェースの要ですから、ここはコストを掛けて良いものを使うようにしています。
電子部品・パーツの調達もなんだかんだでノウハウが必要で、どこの商社なら教えてくれそうだとか、どのサイトにありそうだとか、そういった探す能力みたいなものがないと始めは苦労すると思います。何気に苦労したのは、DJ機器のインタフェースであるノブやスイッチ。そもそもそのパーツの呼び名が分からなくて、自分で探すのはもちろんですが、人に聞くのも苦労しましたよ(笑)。なので、GO-DJ Plusの開発では、こうしたノウハウも生かされています。
「DJプレイもできるラジカセ」って言いたい!
TechFactory編集部 現在、Makuakeで資金調達中のGO-DJ Plusですが、どんな方々に使ってもらいたいとお考えでしょうか?
宮崎氏 われわれはDJ機器市場で価格破壊を起こして、プロのDJたちから評価されている高価格帯の市場に殴り込みを掛けるつもりはありません。狙っているのは、DJプレイに憧れているエントリーユーザーの皆さんです。
通常、DJ機器を一式そろえるのに最低20万円くらい必要で、「少し興味があるんだけど」という人たちにはなかなか入り込めない文化でした。GO-DJ Plusはそういう人たちに向けた製品で、気軽に音楽をミキシングしてそれを人と共有することの楽しさを感じてもらいたいんです。そういう意味で、DJ機器市場の裾野を広げる役割を果たせたらと思います。
また、こうした思いと同時に「ホームオーディオ」として売り出したい気持ちもあるんですよ。私たちが子どものころ、自分の部屋や居間にCDラジカセやMDコンポなどがありましたが、今はそれが全てスマートフォンに置き換わっています。部屋にステレオがあったときの便利さ、家で音楽を楽しむ生活。そういう環境をGO-DJ Plusでもう一度復活させることができたらうれしいですね。だから私はGO-DJ Plusを「DJプレイもできるラジカセ」って言いたいくらいなんですよ(笑)。
DJプレイに憧れをいだくエントリーユーザーさんだけでなく、お父さん世代の皆さんにもぜひ購入してもらいたいですね。
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