大原雄介のエレ・組み込みプレイバック
2021年8月のM&Aを振り返る(3/3 ページ)
そのSynapticsとRenesasに買収されたDialog Semiconductorの何が似ていたのか?というと、やっぱりあらぬ方向に逸れようとしていたからだ。DialogはもともとPMIC向けに強みを持っており、2016年にはSmartGaNと呼ばれるGaNベースのPMICをいち早く投入している。ただそのPMIC向けビジネスの一部は2018年にAppleに買収されるなど決して順調という訳ではなかったし、競合メーカーも多かった。それもあってか、2017年にはMixed-signal製品を扱うSilego Technologyを、2020年2月にはIIoT向けソリューションを手掛けるAdesto Technologyを買収するなど、ラインアップの多角化に努めてきていた。
ただその方向性が、汎用MCUを使ったIoT関連製品の拡充という、ちょっと差別化を見出しにくい方向だったのは問題だったように思う。例えば2018年5月にはBLE5搭載MCUを発表、同年6月には15自由度を持つマルチセンサーIoTキットを、2019年2月にはMCUのコアをCortex-M33にアップグレード、2019年6月にはIoT Wi-Fiモジュールを発売するなど矢継ぎ早に製品ポートフォリオを強化。2020年11月にはSmartServer Iot Partner Programを開始するなど、何とかPMIC以外の製品の柱を作ろうと努力していたことだけは伺える。ただそうした努力と裏腹に、2020年度における売上比率はCustome Mixed Signalが58%、Advanced Mixed Signalが20%、Connectivity&Audioが14%で、IIoT関連製品はわずか5%でしかない。
もともと同社はM&Aにも熱心だった。2015年にはAtmelを買収しようとしたし、2018年にはSynapticsの買収も試みていた(2018年7月に断念した)。2019年にはCreative Chipsに加えてSilicon MotionのMobile Communication Businessも買収している。何とか買収で多角化を図りたかったということだろうが、そのDialogが買収される側に回るというのは何とも皮肉である。Dialogが買収したデジタル半導体関連に関しては、かなりの部分がRenesasとかぶる気がする訳で、あるいは今後Renesasはこうしたかぶる部分の資産は外部に売却するかもしれない。もっとも先にも書いたように同社の売り上げの大半はMixed SignalやAnalogであって、Renesasもそれが目当てで買収したことを考えれば、この程度の重複は大した問題ではないだろう。
そんなわけでほとんどのM&Aが順調に成立した、もしくはしそうな中、前途に黒雲が沸き起こっているのがNVIDIAによるArm買収である。先の永山氏の記事の中でも触れられていたが、英国CMA(競争・市場庁:Competition and Markets Authority)は、NVIDIAによる行動的問題解消措置を拒否し、フェーズ2の調査を行う事を推奨した。この推奨の報告は英国DCMS(デジタル・文化・メディア・スポーツ省:Department for Digital, Culture, Media and Sport)に対して行われており、最終的にはデジタル担当長官がこれを受けて判断を下すことになるが、仮にこの推奨を受け入れてフェーズ2の調査が行われる場合、最終的に買収が承認されたとしてもそのスケジュールは1年以上遅れることが予測される。これで一番困るのはNVIDIAというよりは現株主であるSoftbankであって、場合によってはこの話が全く異なる方向に向かう可能性もある(Softbankは早くArm株を現金化したいからだ)。
筆者はアメリカで反対行動が行われると思っていたが、英国が舞台になったのはちょっと想定外ではあった。とはいえ、反対のロビー活動が激しくなるだろうという予測は思った通りであった。まあ普通に考えてこれがスムーズに通るはずもない。昨年の買収の発表の直後のインタビューで、NVIDIA CEOのJensen Huang氏は「Plan Bはあるのか?」と聞かれて「ない。強いて言えば買収キャンセルがPlan Bだ」と答えていたが、その後Plan Bを策定したのだろうか?
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