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サービス領域における「デジタルツイン」はアフターサービスで真価を発揮する超速解説 デジタルツイン【サービス領域】(1/3 ページ)

「デジタルツイン(Digital Twin)」の活用領域の1つに、アフターサービスの現場が挙げられる。本稿では、アフターサービスの現場におけるデジタルツインの価値や実現のために不可欠な技術要素について取り上げる。同時に、本格採用に向けての課題、そしてデジタルツインに“いつ取り組むべきか”を分かりやすく解説する。

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実用段階に到達した「デジタルツイン」のサービス利用

 「デジタルツイン(Digital Twin)」とは、物理的に存在する機器、装置から得られるセンサーデータ(フィジカルデータ)と、その機器、装置を製造する基となった設計データ(デジタルデータ)を連携させることで実現する、デジタルデータとフィジカルデータの“双子”のことです。

⇒ 関連記事:IoTを設計に活用するためのキーワード「デジタルツイン」とは

アフターサービスの現場における「デジタルツイン」の価値

 アフターサービスの現場では、“サービスの質”を測るためのさまざまな業績指標(KPI)が用いられます。中でも重要なのが「初回対応率」あるいは「一発修理率(First Time Fix Rate:FTTR)」で、これはサービス技術員が問題への対処を初回の訪問で完了させて原状復帰させる率を表します。

 初回対応率が良いと、お客さまにとっては問題が迅速に解決されるため、顧客満足度が向上します。また、企業にとっては再訪問の費用と時間が節約できるため、サービス提供コストの削減につながります。

 初回対応率を向上させるためには、サービスの現場で作業する技術員に正確かつ最新の情報をリアルタイムに伝える必要があります。正しいサービス手順、正しい部品番号、そして現在の正確な稼働データに技術員が素早くアクセスできれば、初回対応率のさらなる向上が見込めます。

 正しいサービス手順や部品番号をサービス技術員に提供する仕組みは、BOMCADのデータをサービス技術員へ動的に配信することで実現可能です。一方、過去から現在にわたる機器の稼働データをサービス技術員に“分かりやすい形で、現場に届ける”ための仕組みとして、デジタルツインに大きな期待が寄せられています。

 これまでにも、サービス技術員が機器の稼働データにアクセスするためのさまざまな手段が提供されてきました。その多くはノートPCなどを端末として使用するもので、サービス技術員は現場でキーボードを操作し、液晶ディスプレイからデータを読み取る必要があります。デジタルツインがこれまでの手段と大きく異なるのは、“両手がふさがらない状態で、機器に視線を向けたまま情報にアクセスできること”です。

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 血液や尿の分析装置を製造、販売する医療機器メーカーでは、機器の稼働データを実際の製品の上に重ね合わせて表示することで、機器が効果的に動作しているかどうかを一目で確認できるソリューションをサービス技術員に展開し始めています。また、部品交換、調整手順の方法を従来の紙やPDFで提供するのではなく、CADデータから生成した3Dアニメーションを実際の製品の上にスーパーインポーズ(映像に画像や文字などを合成する技術)を行うことによって、紙をめくるのに時間を費やしたり、間違ったページを参照したりといった“好ましくない動作”の防止に役立てています。

 アフターサービスに限らず、この“実際の製品の上に情報をスーパーインポーズ表示すること”は非常に大切です。従来のように、さまざまな情報がノートPCなどの画面に表示されているとき、人間は画面から読み取った情報と目の前にある製品の姿形との間でのマッピング作業を行っています。この作業は脳に負担を与えるもので、もしも目に映る現実の製品のしかるべき場所にデジタルデータがオーバーレイ表示されていれば、マッピング作業に使われる脳の処理能力を問題解決に振り分けることができます。

未来の自動車向けナビゲーションシステムのイメージ
未来の自動車向けナビゲーションシステムのイメージ

 分かりやすい例として、自動車のナビゲーションシステムを考えてみましょう。現在主流のナビゲーションシステムは、ダッシュボードにビルトインされた(もしくはダッシュボードに張り付けられたスマートフォンやタブレット端末などの)液晶画面上に表示されます。ドライバーは液晶画面上の地図を読み取り、それをフロントガラスの向こうに広がる現実の道路状況に置き換えて(マッピングして)ルートを理解します。未来のナビゲーションシステムが曲がるべき交差点の位置をダッシュボードではなく、フロントガラスに直接投射できたらどうなるでしょうか? ドライバーは視線を移動することなく、また2次元の地図情報を3次元の目視情報に変換することなく、より自然に情報を受け取れるようになります。


アフターサービスで「デジタルツイン」を実現する2つの技術要素

 アフターサービスでデジタルツインを利用するためには、大きく分けて2つの技術要素が必要となります。

 大前提として、稼働中の機器、装置のデータが取得、蓄積されていなければなりません。一般にネットワークに接続された機器、装置が稼働状態を送信している状態のことを“コネクティッドである”と表現します。また、コネクティッド状態の機器、装置を「コネクテッィド製品」と呼びます。

 製品をコネクティッド(接続状態)にするために必要なのが、IoTプラットフォームです。IoTプラットフォームは、個々の製品に対してネットワーク接続し、データを送信する機能を提供するとともに、データの消費者に対してデータを整理、加工、分析、付加した上で分かりやすい形式で“見える化”する機能を提供します。IoTプラットフォームは、デジタルツインにおいてデータの「上り工程」として動作します。

「デジタルツイン」の“上り工程”と“下り工程”の関係性
「デジタルツイン」の“上り工程”と“下り工程”の関係性

 デジタルツインにおいて、機器、装置の稼働データの「下り工程」として機能するのが、拡張現実AR:Augmented Reality)の技術になります。ARは、IoTプラットフォームが取得、蓄積した機器、装置のデータを取り出し、それらをタブレットやヘッドマウントディスプレイなどの端末上に送信し、端末が捉えているカメラ映像を解析した上で、適切な位置に必要な情報を重ね合わせて表示します。

 この一連の動作を通じて、サービス技術員は“機器、装置に視線を向けたまま”情報を取得できるようになります。ヘッドマウントディスプレイを使用した場合には、さらに“両手がふさがらない状態”で機器、装置に向き合えます。

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