システムズエンジニアリングの魂を入れた「MBSE」アプローチとは:超速解説 MBSE(1/2 ページ)
今、モノづくりを取り巻く環境が大きく変わろうとしている。そうした中、各領域のスペシャリストが共通認識の下、複数領域が複雑に関係し合うシステムの開発を実現する「MBSE(Model-Based Systems Engineering)」に注目が集まっている。本稿ではMBSEの理解を深めることを目的に、その基礎を分かりやすく解説する。
MBSE(モデルベースシステムズエンジニアリング)とは?
昨今、自動運転技術やIoT、AI、AR/VRなどの話題がメディアの見出しを賑わしており、新しいテクノロジーやサービスによって、社会全体の仕組みが大きく変わろうとしています。これに伴って、製品/サービス開発技術やそれを取り巻く環境もドラスチックに変化しており、今まさに“あらゆるシステムとつながる製品開発が必要とされる時代”が到来しています。
こうした背景から、それぞれの領域のスペシャリストが共通認識の下で、複数領域が複雑に関係し合うシステムの開発を実現する「MBSE(Model-Based Systems Engineering)」に注目が集まっています。
最初にMBSEへの関心を示したのは、NASA(米航空宇宙局)をはじめとする航空/宇宙/防衛の領域で、続いて通信、医療、自動車などで活用が進みました。これらの領域に共通するのは、1つ1つのシステムが膨大でヒエラルキー(階層)が非常に深く、それぞれのシステムが複雑に別のシステムと相互作用したり、さらに大きなシステムに組み込まれたりという特性を持つという点です。
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MBSEと呼ばれるこの言葉を2つに分けたとき、“Model-Based”の部分が“Systems Engineering”を修飾していることが分かります。つまり、MBSEとは“システムズエンジニアリングありき”のものであり、これを忘れて耳新しい「モデル」の部分に飛び付いてしまうと、MBSEの理解が偏ったものになってしまいます。
MBSEを正しく理解するためには、まずシステムズエンジニアリングの部分をきちんと理解する必要があります。では、この長い英語を分解して、1つずつ見ていきましょう。
システムとは:SoIとSoS
「システム」とは、人間が1つまたは複数の目的を達成するために、複数の構成要素を組み合わせて作るものです。目的あるいはライフサイクルの観点から見たものを強調する場合には「SoI(System of Interest)」と表現し、システムの中でもその構成要素自体がまたシステムとなっているような大規模なシステムのことを「SoS(System of Systems)」と呼びます。例えば、GPSは単体でもすさまじい数の構成要素を持ち合わせたシステムですが、一方でカーナビゲーションシステムといったSoSの構成要素として組み込まれています。
これまでの自動車開発はOEM(自動車メーカー)をトップとし、その下に部品メーカー、下請け会社と続くピラミッド構造が存在しており、その間の緊密なコミュニケーションを通じて、最終目的である「自動車」というSoIを作り上げてきました。
しかし、これから先の自動運転を実現する環境で考えると、自動車も「環境」の中における1つの構成要素となり、他のOEMの車両や交通インフラなどとともに1つの自動運転環境を作り上げていく、SoSの構成要素という側面が大きくなってきています。
これまで自動車業界内では、課題が発生するごとに「すり合わせ」を行うことで素晴らしい品質の製品を作り上げてきたわけですが、自動運転環境の枠組みの中では、それだけでは済まなくなってくるのです。つまり、自動運転という共通の目的を達成するための標準規格/プロトコルに従って会話をし、分業しながら作り上げていくという観点が重要になるのです。まさに、自動車は大きなSoSの1つの構成要素として組み込まれていくのです。
システムズエンジニアリングとはそもそも何なのか
では、システムズエンジニアリングとは何を指しているのでしょうか。INCOSE(The International Council on Systems Engineering)によると、システムズエンジニアリングとは、「システムを成功させるための複数の専門分野にまたがるアプローチと手段」であり、「お客さまとステークホルダーのニーズが、システムのライフサイクル全体にわたって満たされ、しかもそれが高品質、高信頼度で、コスト効率的でスケジュールを守れることを保証すること」に焦点を置いています。
システムズエンジニアリングには柱となる3つのキーワード、
- Inter Discipline(複数の領域をまたがった仕事)
- Iterative(反復的)
- Wholeness(全体性)
が存在します。
自動車の専門家だけでなく、信号システムや通信キャリアなどの専門家といった複数の違った領域の人たちが一緒に仕事をする上で、Inter Disciplineが必要になります。また例えば、交通システムと自動車開発など、違うライフサイクルで開発されるものを統合する上で、時間的に刻一刻と変化する目標を達成するためにIterativeな開発が必要です。そして、1つの企業や組織だけでは絶対に実現できない自動運転環境といった大きな目的を実現するためには、部分だけを見るのではなく全体を見るというWholenessが求められます。
このようにシステムズエンジニアリングとは、これまでの閉ざされた分野でしていた仕事を開かれた環境で、他領域と協業し、より良い大きなものを作っていくために必要な手段/考え方なのです。
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