中華MIPS「龍芯」のアーキテクチャから推理する、MIPS買収の「理由」:大原雄介のエレ・組み込みプレイバック(2/2 ページ)
Imaginationは分割して売却されることになり、MIPS事業は中国系資本の投資会社に買収されることとなった。中国と言えばMIPSのCPU「龍芯」を既に所有しているが、なぜMIPSを買うのだろうか。アーキテクチャから推理する、MIPS買収の「理由」とは何か。
そして2011年にLoongsonはMIPS Technologiesから正式にMIPS32/MIPS64のアーキテクチャライセンスを取得しており、第3世代製品となるLoongson 3シリーズ(ICTでのコード名はGobson 3A)以降はMIPS64 Release 3に準拠した命令セットをきちんと実装している。
そのLoongson 3シリーズは、まずSTMicroelectronicsの65nmプロセスを利用した4コアで1GHz駆動のLoongson 3A、さらに32nmプロセス/8コア動作のLoongson 3B1500を開発された。2015年には28nmプロセスに移行し、コア数も最大16にして動作周波数も引き上げるなど、性能面での改善にも余念がない(Imagination:New MIPS64-based Loongson processors break performance barrier)。
Loongsonの説明を信じるならばそこそこの消費電力(同社は30Wとしている)で割と高い性能を持つMIPSコアを既に手にしているわけで、なので別にImaginationのMIPS部門を買収しなくても、MIPSコアそのものは既に手にしていることになる。
Loongsonのアーキテクチャから推理する、MIPS買収の「理由」
MIPSコアそのものは手にしているとして、Loongsonのアーキテクチャはどれほどのものなのだろうか。
9段のパイプラインを持つ4命令のスーパースカラーとなっており、さらに独自のLoongBT(Binary Translation:これを利用してARM/x86命令が実行できる)やLoongVM(独自VM向け命令)、LoongSIMD(128/256bit SIMD)が実装されるといった、なかなか機能的には盛りだくさんである。
その一方で最新のMIPS 32/64 Release 6やこれを実装したMIPS Warriorシリーズほどには洗練されてはいないようだ。またインターコネクトまわりは不明であり、現在は最大16コアの製品を構築しているとするが、どの程度のスケーラビリティがあるのかは分からない。
実のところ、もしまだ中国がMIPS Technologiesの資産を本気で買収したいと思っていたとすれば、その理由はこのあたりにあると思われる。
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