LiDARとOTAも準備「完全自動運転車は半導体総額が5倍に」:インフィニオン 車載半導体
インフィニオンが車載半導体の充実に積極的だ。レベル3以上の自動運転システム向けに幅広く用意し、センサーについては買収によってLiDARもラインアップに加えた。さらにはOver-The-Airも準備する。
インフィニオン テクノロジーズは、レベル3以上の自動運転システム向けに、センサーからセキュリティ対応の車載マイコンまで製品を幅広くそろえる。センサーに関しては、イノルースを買収したことによりライダー(LiDAR:Light Detection and Ranging)の技術が加わった。ミリ波レーダーやカメラとのセンサーフュージョンも手掛けていく。
セキュリティ対応では、セントラルゲートウェイを使った無線ネットワークによるアップデート(OTA:Over-The-Air)も提案する。こうした製品ラインアップにより、2025年以降にかけて自動車メーカーが段階的に自動運転システムを実用化していくことに対応する。
自動運転はビジネスチャンス
インフィニオン テクノロジーズ ジャパンは2016年11月22日に東京都内で会見を開き、自動車のセキュリティに対する取り組みを紹介した。
インフィニオン テクノロジーズのオートモーティブシステムグループでバイスプレジデントを務めるハンス・アドルコーファー氏が登壇、「自動車市場のトレンドとして事故防止と自動運転、コネクテッドカーの3つがある。われわれは、セキュアな情報処理、センシング技術、走る/曲がる/止まるの安全性向上にビジネスチャンスがあると見込んでいる」と説明した。
自動運転に必要なセンサーから得られるデータ量は膨大で、ここから出てくるデータを統合処理するのが課題となっている。センサー情報を基にアクチュエーターを動かしていくことになる。この全ての領域で開発を行っており、製品を提供していく。
具体的には、周辺監視用およびドライバー監視用の車載カメラ向けイメージセンサー、ミリ波レーダーといったセンサーの他、マイコンやアクチュエーター用パワーデバイスも持っている。また、2016年10月にはMEMS技術に強みを持つイノルースを買収することを発表。ライダーの低コスト化に向けて開発を進める。
これらのセンサーが検知した情報を統合するセンサーフュージョン向けの車載マイコンや、パワートレイン/ブレーキ/ステアリングの電子制御の安全性を高めるドメインコントローラーもカバーする。
クルマ1台に使われる半導体は、自動運転の高度化で100ドルから550ドルに
続いてアドルコーファー氏は、先進運転支援システム(ADAS)や自動運転の高度化によって搭載するセンサーが増え、これに伴って車両1台に占める半導体の総額も増加していくと説明した。中でもミリ波レーダーとカメラモジュールがけん引役になると見込んでいる。
まず、各国の自動車アセスメントへの対応した自動ブレーキや、死角の低減がテーマとなるレベル2の自動運転では、車両1台のセンサーは総額100米ドルで、カメラが40%、ミリ波レーダーが60%を占めるという。
次に、自動駐車や高速道路での自動運転が対象となるレベル3の段階では、車両1台に搭載するセンサーは400米ドルまで増える見込みだ。カメラが45%、ミリ波レーダーが35%、センサーフュージョンが12%、アクチュエーター向けが8%という内訳になる。ここまで、ライダーは含まれない。
レベル4以降の自動運転になって、ようやくライダーが車両に搭載され始める試算だ。レベル4の自動運転車に搭載する半導体の金額は550米ドルまで増え、カメラが35%、ミリ波レーダーが30%、ライダーが5%、センサーフュージョンに20%、アクチュエーター向けが10%という比率になる。
この試算では、ライダーをフロントに1台装着することを想定している。「どの方向に向けて、幾つのライダーを搭載するかは自動車メーカーが模索している段階だ。ある自動車メーカーと話したところ、レベル4の自動運転にはライダーが5個は必要だという。そうなれば、ライダーが車両1台に占める金額も増加する」(アドルコーファー氏)。
また、自動車メーカーからは、ライダーのコストを少なくとも500米ドルまで下げるよう求められているとし、イノルースの技術でコスト低減を急ぐ。
クルマを守るためのシステム構成
アドルコーファー氏は、「車内にスマートフォンを持ち込むこと、車車間/路車間通信への対応、クラウドサービスの利用、また、OTAといった外部との接点から、走る/曲がる/止まるの機能を守る必要がある。これまでIT業界がやってきたのと同じことがクルマにも求められている」とセキュリティの重要性を説明した。
クルマがIoTの一部となった場合のOTAにも対応したシステムレベルのベーシックなセキュリティとして、次のような構成を紹介。「セキュリティレベルを上げる時に、1つのソリューションで全て解決することはできない。それぞれのシステムに応じた解決策が必要だ」(アドルコーファー氏)と前置きした。
まず、外部からの情報は、テレマティクスユニットで認証し、セントラルゲートウェイでどのECUに情報を送るべきか決定する。走る/曲がる/止まるに関連するECUの上にはドライビングドメイン、ADASドメイン、ボディー系ドメイン、インフォテインメントドメインというゲートウェイを分けて配置し、1つ1つのECUに直接外部からアクセスできないようにする。車載情報機器に関連するECUは、インフォテインメントドメインの中でのみデータのやりとりできるようにする“サンドボックス”で囲む。通信は暗号化して行う。
どの程度のセキュリティが必須かは「何を守りたいかと、かけられるコストによって、ソフトウェアのレイヤーでのセキュリティか、組み込みハードウェアのセキュリティモジュールを使用するか、ディスクリートハードウェアのセキュリティを搭載するかが決まる」(アドルコーファー氏)とする。
セキュリティを担保するためのマイコンとチップ
こうした機能を実現するには、セキュリティを担保し、システム内のデータやキーを守る「トラストアンカー」が重要だという。製品のラインアップとして、2種類のトラストアンカーを持っている。1つはマイコンに組み込まれているもので、リアルタイムの認証や暗号化を行う。もう1つは、ディスクリートセキュリティコントローラーで、セキュリティ専用のICを使用してキーの生成や認証を行う。
組み込みセキュリティとしてはトラストアンカーを有する車載マイコンの「AURIX」があり、エンジンを始めさまざまなECUに向くとしている。モバイル通信専用のデバイス「SLI 76/97」もあり、通信機能のセキュリティをつかさどる。SLI 76/97は単独もしくは複数の通信キャリアのモバイル通信を車両に搭載するためのもので民生用での量産実績がある。車車間/路車間通信に特化した製品「SLI 97 V2V」も用意している。
IT業界のセキュリティの規格として広く使われている「OPTIGA TPM(Trusted Platform Module)」は、自動車のOTAに有効だとしている。「既にIT業界で実績があり、実装コストは低い」(アドルコーファー氏)という。
OTAのデモンストレーションも行った。モーターの回転数を変更するアップデートを例に、サーバから送られてきた更新内容を認証し、対象のECUにアクセスするまでの様子を紹介した。コネクティビティゲートウェイは、アップデートの情報を一時的に保存し、停車後すぐに更新作業を行えるようにする機能も持っているという。
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