大原雄介のエレ・組み込みプレイバック
ams OSRAMが繰り出す「攻めの一手」 マイクロLEDで狙う新天地(1/3 ページ)
ams OSRAMが突如、データセンター向けマイクロLED市場に参入するとの戦略を発表した。それはなぜなのか。2026年に入り、急速に盛り上がりつつある同市場の概況を説明しながら、ams OSRAMの狙いを読み解いてみたい。
マイクロLED事業が「宙に浮いていた」ams OSRAM
2026年8月というか7月の話題になるのだが、ams OSRAMが突如"microLEDs: from headlamps to the data center"というblogエントリを公開した(日本語でのリリースは8月19日に配信されたので、その辺りで辛うじて8月の話題という事にさせてほしい)。
ams OSRAMについては、2025年2月の記者説明会の際には半導体部門が好調という話ではあった。
だが、その後旧OSRAMのランプ事業は2025年7月にウシオ電機に売却、非光学式のAnalog&Mixed Signal Sensor事業はことし(2026年)2月にInfineon Technologiesに売却するなど、事業のスリム化が進んでいた。ただこれに先んじて2024年2月にはApple Watch向けMicroLEDの事業が丸ごと中止になり、MicroLED事業をどうするかに関して、しばらく宙に浮いていた格好だ。もちろん、自動車のLEDライト向けなどの用途はあったが、MicroLED事業を丸ごと支えるほどには大きなマーケットでは無かったから、何かしら新たなマーケットを見つける必要があった。それが、ここにきてAIデータセンター向けInterconnectに注力するという方針を表明した格好になる。
AIデータセンター向けでマイクロLEDが期待される理由
そもそも何でAIデータセンター向けにMicroLEDが?という話であるが、実は2026年に入って急速にこのマーケットが盛り上がりつつある。理由は現在の光Interconnect向けの要素技術とニーズのミスマッチにある。まず基本的な話として、現在電気信号と光信号の境目は大体2m程度とされている。これは厳密なものではなく、中には3mとか5mとかいうケースもあったりするが、オーダーで言えば1桁メートルの前半までは電気信号ベース、それを超えると光信号ベースという区分けになっている。理由は簡単で、電気信号でこれを超えてつなごうとすると、途中に、波形を整える回路であるRedriverなりRetimerなりを入れたActive Cableにしないと持たないからだ。信号速度が数百MBaud(メガボー)程度なら100m程度まで伸ばせるが、100GBaudを超える現在では数メートルを超えると波形の歪が補正不可なレベルまで大きくなるし、信号の減衰も著しい。これを防ぐには数メートルおきにReTimer/Redriverを入れるしかないが、その位なら光信号にした方が確実かつ安価である。つまり価格が境目を決めていた訳だ。
ところがここに来て、2m以下の範囲でも電気信号を光信号に切り替えたいというニーズが急速に高まってきた。理由は実装体積と電力である。まずそもそも信号速度が100GBaud程度ではもはや足りない。後述の理由で、実は光信号にしても200GBaudが限界なのだが、電気信号はその手前で限界に達しつつある。
ではどうするか? というと並列化である。100GBaudを8本並べれば800GBaud、16本なら1.6TBaudになるから、これで解決できるわけだ。ただ電気信号を8本とか16本並んで数メートルも引き回すと、そのケーブルの体積はシャレにならない。ケーブルをつなぐコネクターも相応に大型化するから、実装が困難になる。ところが光信号の場合、WDM(Wavelength Division Multiplexing:波長分割多重)という方式を使う事で、1本の光ファイバーで複数の光信号を通すことができる。現在でも8~16波を通すのはそれほど難しくないから、電気信号の場合よりも配線の体積を大幅に削減可能で、コネクターもシンプルになる。
光に置き換えれば大幅な省エネに
もう一つの理由が電力である。100Gbaudの信号の送受信を、しかも数メートルの距離で行おうとすると、その送受信の電力が、これまたバカにならない。大ざっぱに言えば、電気信号なら大体5pJ/bit(1bitを送受信するのに5pJ必要)となる。つまり1GBのデータを転送するのに0.4Wほど必要になる計算だ。NVIDIAの「GB200」を搭載した「NVL72」という製品(GPUサーバ)は1ラック当たり最大で130TB/secの帯域を持つ。つまりNVL72の場合、GPU同士の通信に必要な電力だけで52kWに達する計算である。これをもうちょい何とかしたい、というわけだ。ついでに言えば、これだけの電力を消費する訳だから、発熱もすごい訳で、この放熱対策も別途必要になる。これを光信号に置き換えて消費電力を減らしたいと考えた訳だ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
大原雄介のエレ・組み込みプレイバック
これを読めばここ1カ月のエレクトロニクス/組み込み業界の動きが分かる連載。注目すべき市場動向と注目すべき製品を取り上げます。
この記事の著者
新着ホワイトペーパー PR
-
製品資料
[株式会社 Green AI] 自動車業界の脱炭素はなぜ進まない? 実務で直面する“壁”の乗り越え方 -
製品資料
[株式会社 Green AI] 脱炭素投資をすぐ回収するには? エネルギー&CO2削減の成果を出す秘訣 -
市場調査・トレンド
[スマートジャパン編集部] 「ペロブスカイト太陽電池」の普及戦略が公表 政府が目指すコスト・導入量のロードマップを解説 -
市場調査・トレンド
[スマートジャパン編集部] 導入が加速する再エネ・系統向け蓄電システム コスト・収益性の現状分析 -
技術文書・技術解説
[スマートジャパン編集部] いまさら聞けない「ペロブスカイト太陽電池」の基礎知識と政策動向
こんなメディアも見られています
TechFactoryに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
特集
- マテリアルズ・インフォマティクスの動向調査
- 研究・開発職のデジタル活用調査
- 設計・解析業務におけるAI活用
- 3Dプリンタ利用動向調査
- CAD利用動向調査
- つながる工場の現状と課題
- 製造業におけるAI開発および活用の実態
- 設計・製造現場における品質管理
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
ものづくり白書2026を読み解く
-
2
EE Times Japan×EDN Japan 統合電子版:フィジカルAIが生み出す新たな「設計思想」――電子版2026年8月号
-
3
計測器アプリケーションにおいて7.5桁の精度を実現する方法
-
4
一時は時価総額トヨタ超え キオクシア2026年度の動向
-
5
IMUを活用してロボットの位置推定を強化、より高精度なナビゲーションが可能に
-
6
「サプライチェーン最適化」実践ガイド:効果的な意思決定を実現する秘訣とは?
-
7
EE Times Japan×EDN Japan 統合電子版:2026年上半期の半導体業界を振り返る――電子版2026年7月号
-
8
AI×DXで効率化する設備保全まとめ
-
9
動き出したファナックの「フィジカルAI」
-
10
機械・電気設計の連携はなぜうまくいかない? 手戻りを防ぐ協調設計の進め方
TechFactory SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechFactoryをフォロー