大原雄介のエレ・組み込みプレイバック
AI半導体市場の「アキレス腱」 成長を脅かす電力不足(3/3 ページ)
発電所建設も簡単ではない
「んじゃ建てればいいじゃん」と言うのは簡単だが、実際には難しい。例えば最近だと米Vogtle原子力発電所が3号機を2023年7月に、4号機を2024年4月に運転開始したが、コスト(2機合計で340億米ドルに跳ね上がった)もさることながら、建設期間(どちらも2009年に建設開始された)が問題である。「金額を倍払えば半分の期間で建設できる」というわけには行かないのであって、今すぐ170億米ドル積んでも、完成するのは2030年代末~2040年代になりかねない。最近では閉鎖された原子力発電所を復活させる(スリーマイル島原子力発電所の再稼働が良い例である)という動きもあるが、チェルノブイリ原子力発電所とか日本の福島第1・第2原子力発電所のように復活がほぼ不可能なところも少なくないし、環境アセスメントとか周辺の工事などが不要というだけで燃料棒や原子炉そのものの交換が必要というケースもあるから、やはり再稼働には相応の時間がかかると思ってよい。
では火力発電は?というと、例えば液化天然ガス(LNG)ガスタービンだと3大メーカー(GE Vernova/Siemens Energy/三菱パワー)はいずれも受注残が大量にあり、現在は新規発注しても3年待ちとかいう話だそうだし、石油火力発電所で3年、石炭火力発電所で4年ほど建設期間が入る。ちなみにこれに環境アセスメントとか、それ以前に場所の選定や燃料の輸送方法の策定なども必要だから、一般には10年程度を要する。xAIが自社のColossusというデータセンターをテネシー州メンフィスに建設したが、この際に400MW相当のガスタービン(ピークで35台)を無許可で設置して稼働、深刻な環境汚染が問題になった。最終的に2025年7月、メンフィス州当局よりこのうち15台、247.2MW分に関して2027年1月1日まで稼働させる許可が下りたなんて話が出ていたりするが、この手の話は今後あちこちで出てくるかもしれない。ただこうした火力発電所、幸か不幸かトランプ政権が地球温暖化を認めていないから比較的設置や稼働が容易だが、今後米政権が変わった後もこの路線が継続できる保証はない。
では再生可能エネルギーは?というと、ご存じの通り24時間365日稼働のデータセンターと相性が悪いので、蓄電池などと組み合わせる必要がある。ということは、発電できない間の電力分もまとめて発電しておかないと帳尻が合わない。仮に1GWの供給を24時間賄うために3GW分発電すれば良いとして、1MW当たりおおむね2ha分の太陽光パネルがあれば良いので、2×1000×3=6000haとなる。ちなみに東京都が約22万ha弱で、つまり東京都の4分の1近い面積に太陽光パネルを敷き詰めれば、データセンター1個を賄える計算だ。砂漠などに土地が余りまくっているアメリカならあるいは……という所だが、太陽光パネルがハリケーンとか山火事に弱い事を考えるとどこでも設置できるものでもないし、それと組み合わせる蓄電池の量がすさまじいことになりそうだ。風力とか水力、地熱などの発電方式はさらに場所を選ぶだろう。結局米国でもミスマッチを解決するためのうまい方法は今のところ見つかっていない。
ちなみにこれは日本でも同じである。図4は電力中央研究所が2025年8月に公開した「データセンターの電力需要の特徴に関する考察と将来推計」というディスカッションペーパーからの抜粋であるが、Rapidusおよびソフトバンクデータセンターという電力需要に迅速に対応することは、電力会社としては難しい旨が示されている(泊3号原子力発電所の稼働状況次第ではあるのだが)。ちなみに泊3号が問題なく稼働したとしても、供給能力はギリギリなのであって、何かあると2018年の北海道胆振東部地震に伴う大規模停電の再来になりかねないから、もう少し策を講じる必要がある。
実は、データセンターが1GWを消費≒データセンターが1GW分を放熱でもあって、こちらが環境に及ぼす影響とか、データセンターもまた大量に水を必要とする(主に冷却用)ため、半導体工場並みに水の再利用を義務付けないとヤバイことになる(こちらの論文によれば、米国で2030年までに利用されるデータセンター向けの水の量が2024年の10倍近くになると予測されている)
電力がなければAI関連売上は激減することに
こんな感じで懸念事項はたくさんあるのだが、そういう話は措いておき、取りあえず電力供給を何とかしないと、この先半導体メーカーがAI向け半導体を出荷しても、それを稼働させられないことになりかねない。稼働させられないデータセンター向けに投資を行っても、その費用が回収できない or 回収期間が相当長期になるということであれば、当然投資を控えようという話にならざるを得ない。そうなると、半導体メーカーのAI関連売上はそのまま激減することになる。
AI向け半導体の増産を見込んで製造装置とかラインアップ増強に投資を行っているメーカーは国内外で多いが、この手のバブルは何がきっかけで弾けるか分からない。誰かがこの状況にしり込みしてブレーキを踏んだ瞬間に、それが連鎖反応的に広がる事は十分考えられる。投資のアクセルを踏むのも良いが、ブレーキをすぐ掛けられる用意だけはしておくべきだろう、と筆者は考える。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
大原雄介のエレ・組み込みプレイバック
これを読めばここ1カ月のエレクトロニクス/組み込み業界の動きが分かる連載。注目すべき市場動向と注目すべき製品を取り上げます。
この記事の著者
新着ホワイトペーパー PR
-
製品資料
[株式会社 Green AI] AIで脱炭素計画を最適化、初年度からエネルギーコストとCO2を削減する方法 -
市場調査・トレンド
[スマートジャパン編集部] 「ペロブスカイト太陽電池」の普及戦略が公表 政府が目指すコスト・導入量のロードマップを解説 -
市場調査・トレンド
[スマートジャパン編集部] 導入が加速する再エネ・系統向け蓄電システム コスト・収益性の現状分析 -
技術文書・技術解説
[スマートジャパン編集部] いまさら聞けない「ペロブスカイト太陽電池」の基礎知識と政策動向 -
技術文書・技術解説
[スマートジャパン編集部] 「ペロブスカイト太陽電池」の開発動向、日本の投資戦略やコスト目標の見通しは?
こんなメディアも見られています
TechFactoryに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
特集
- マテリアルズ・インフォマティクスの動向調査
- 研究・開発職のデジタル活用調査
- 設計・解析業務におけるAI活用
- 3Dプリンタ利用動向調査
- CAD利用動向調査
- つながる工場の現状と課題
- 製造業におけるAI開発および活用の実態
- 設計・製造現場における品質管理
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
EE Times Japan×EDN Japan 統合電子版:フィジカルAIが生み出す新たな「設計思想」――電子版2026年8月号
-
2
半導体装置メーカー 業績まとめ【2027年3月期第1四半期】
-
3
新入社員に読んで欲しい鉄鋼材料の基礎知識まとめ(Part4)
-
4
一時は時価総額トヨタ超え キオクシア2026年度の動向
-
5
微細配線間の絶縁劣化をどう捉える? 先端パッケージ評価の最前線
-
6
新入社員に読んで欲しい鉄鋼材料の基礎知識まとめ(Part1)
-
7
EE Times Japan×EDN Japan 統合電子版:2026年上半期の半導体業界を振り返る――電子版2026年7月号
-
8
新入社員に読んで欲しい鉄鋼材料の基礎知識まとめ(Part3)
-
9
CADツールの見直しは本当に必要? 切り替えの理由と効果を7つの質問で検証
-
10
新入社員に読んで欲しい鉄鋼材料の基礎知識まとめ(Part2)
TechFactory SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechFactoryをフォロー