大原雄介のエレ・組み込みプレイバック
ソフトバンクが買収したAmpereの「流転の生涯」をたどる(3/3 ページ)
実は「茨の道」、Armの汎用サーバ向けプロセッサ
実はArmの汎用サーバ向けプロセッサというのは茨の道である。2018年にも「「鶏と卵」を抜け出しそうな、Armサーバの現在地」で書いた話だが、有名なところでは
- Calxeda:Cortex-A9ベースの汎用サーバ向けプロセッサを2011年に開発し、HPのMoonshot向けの受注を取り付けるものの、2014年末に破綻
- AMD:2016年にOpteron A1100というCortex-A57ベースのサーバチップを発表。またK12と呼ばれる独自コアの開発も行っていたものの、市場が無いという事でOpteron A1100は2021年まで製品ページが存在していたものの、いつの間にかラインアップから消失。一方K12は「キャンセルではないが、無期限Hold中」という状態になっている
- Qualcomm:2017年にCentriqという、独自アーキテクチャのクラウドサーバ向け64bitプロセッサを開発するものの、ビジネスとして成立しないとして撤退
- Broadcom:「Vulkan」。2013年頃に開発をアナウンスしていた独自アーキテクチャのサーバ向けArm v8Aベースプロセッサであるが、2015年頃に製品化を中止。以後はIPとしての提供に切り替わり、その後Cavium NetworksがそのIPを購入してOcteonシリーズを製造するものの、同社もMarvell Technologyに買収され、現在は汎用ではなくネットワークプロセッサ向けのみの提供となっている
といった具合に成功例が無い。サーバ向けの成功例そのものは、それこそAmazonの「Graviton」を始めとして多数あるのだが、いずれもHyper Scalerが自社のサービス向けに製造する専用プロセッサという格好であって、汎用サーバ向けではない。ただHyper Scalerはそれでいいのだろうが、中小のCloud Providerが自社のサービス向けにArmベースのサーバを用意しようと思っても、使えるチップが無いという状況になっており、Ampere Computingはまさにこうしたマーケットを狙おうとしていた。
ArmとOracleが出資
この動きを助けたのはArmとOracleである。両社はAmpere Computingが2019年に行った2回目の資金調達に応募しており、Oracleは4000万ドルほど出資。Oracleはその後も出資を増やしており、2024年5月の時点で総額15億米ドルに達している。なぜ両者はAmpere Computingに出資したか?
Armの方は明確である。Neoverseをベースにした汎用プロセッサを提供しようとするベンダーが他に存在しないからだ。顧客がHyper Scalerのみ、というのは売り上げとしてはともかく、アーキテクチャとして市場に広がっているとは言いにくい。x86 Serverのサーバマーケットを侵食するためには、Ampere Computingのような会社を増やしてやる必要があるからだ。一方Oracleは?というと、「SPARC」の代わりに使う事を考えていたようだ。2010年にSun Microsystemsを買収したあと、Oracleは自社サーバ向けにSPARCベースのシステムを提供してきたが、同社のプラットフォームもオンプレミスからクラウドに変わって行く過程で、アーキテクチャ的にもそろそろArmへの移行が必要と考えたらしい。ただし、だからといってまたArchitecture Licenseを取得してスクラッチからチップを設計・製造するのにはコストが掛かる。Ampere ComputingのプロセッサをそのままOracle Cloudで利用する事で、相対的に低コストでArmへ移行できるといったあたりを想定したのではないかと思う。ちなみにOracleによる増資の一方で、James氏がOracleの取締役会に名前を連ねることになったあたり、将来的にOracleはAmpere Computingを買収する気満々だったと思われる。少なくとも2024年5月末の時点ではAmpere Computingの29%の株式を同社が保有しており、状況次第では子会社化する事を想定していた事が、Oracleが2024年9月にSECに提出していたSCHEDULE 14A(TOBに関する報告書)に明記されている。
ただその後、状況は変わって来たらしい。James氏は2024年にOracleの取締役から退任。ソフトバンクによる買収に際して、Oracleはその持ち株を全てソフトバンクに売却する事が発表されているあたり、何かしら方向転換がOracle社内であったものと思われる。
ソフトバンクの思惑は
ソフトバンクはAmpere Computingをどうしたいか?と言えば、もちろんArmの時と同様に高く売却する以外の目的は無いだろう。半導体設計サービスを行うには、Ampere Computingの規模は小さすぎるし、物理設計の能力がBroadcom/Marvellに比肩するほど高いというわけでもない。Ampere Computingの損益は非上場企業ということで公開されていないが、OracleのForm 10-Kとか10-Qを読むと「現在、Ampereが将来も引き続き純損失を計上するものと予想しているが、AmpereのServer Chipの長期的な潜在能力には依然として自信を持っている(We currently expect Ampere to continue to generate net losses in future periods, but we remain confident in the longterm potential of Ampere’s server chips.)」なんて記述があるあたり、売り上げは引き続き赤字のままと思われる。少なくとも短期的にAmpere AlterやらAmpereOneやらが爆売れして黒字化が達成、なんてことは考えにくい。既に買収しているGraphcoreと併せて何か相乗効果を、というのも考えにくい。考えられるのが、AmpereOneやその後継製品がうまく汎用Armサーバの座をつかんで、売り上げが大幅に伸びる事だろう。そこまでの間の資金援助を行う事で、「小さく買って大きく売る」を実現したいのだろう、と筆者は考えている。
まぁソフトバンクの思惑はともかくとして、旧APMのプロセッサ部門の“中の人”からすると、流転の人生という感が無くもない。行きつく先はどこになるのだろう?
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大原雄介のエレ・組み込みプレイバック
これを読めばここ1カ月のエレクトロニクス/組み込み業界の動きが分かる連載。注目すべき市場動向と注目すべき製品を取り上げます。
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