大原雄介のエレ・組み込みプレイバック
急転直下で破綻したeFabless 原因はオープンソース「ただ乗り」問題か(2/3 ページ)
Googleエンジニアの目にとまった「Ravenチップ」
ただこの頃には、既にKassem氏はTIから離職していた模様だ。そしてOpen SourceベースのEDAツールでチップを設計するという目標に向けて、そのための会社組織を立ち上げようとしたらしい。そこで出会ったのがMike Wishart氏である。SemiWikiのMike Wishart氏へのインタビューを読んでも、「どうやって」二人が出会ったのかの記述が一切ない。Wishart氏は、Lehman BrothersやGoldman SachsなどのDirectorを務めた後でベンチャーキャピタルのパートナーを務めつつ、BrooktreeやSpansion、Cypress、Knowlesといった半導体企業の社外取締役にもなっていたが、当時は半ばセミリタイヤ状態であった。ところがKassem氏と出会った事で2人でeFablessを立ち上げることになる。これが2014年の出来事であり、先に紹介したRavenチップの完成が2019年だった事を考えると、恐らくは2015年2016年かそのころにX-FABとのミーティングが行われたものと思われる。CEOはWishart氏が務め、Kassem氏はCTOに就く。問題になるのは資金であり、こうした事柄に強いWishart氏がCEO職に就いたのはごく当然の事だろう。
X-FABとの提携はあくまで最初のRavenチップの製造に関わる話だけであり、継続してビジネスを行うためのファウンドリーパートナー探しは必須であった。まず同社はSkyWater Technology(以下、SkyWater)と話し合いを開始するが、契約提携直前になって投資家が手を引いてしまった事で、SkyWaterとの最初の提携は不成立となる。ただKassem氏はこれにめげず、複数のワークショップに参加してRavenチップの紹介などを行っていたところ、これがGoogleのソフトウェアエンジニアだった(現在はArcでハードウェア担当バイスプレジデント)Tim Ansell氏の目にとまる。Ansell氏の仲介もあってか、eFablessはGoogleとミーティングを何度も繰り返し、最終的にGoogleはSkyWaterが製造したシャトルを購入する資金を提供する事で合意する。eFablessはそのシャトルのためのデザインを提供し、これをSkyWaterがGoogleの資金で製造する、という流れだ。このプロジェクトは「MPW Shuttle Program」として2020年11月に合意された。これにより、普通のユーザーがOpen SourceのEDAツールを利用し、自身の設計したASICを無償で入手することが可能になった。
1万ドル未満でASICが手に入る「chipIgnite」
これに先立ち、eFablessは「chipIgnite」と呼ばれるサービスの提供も開始している。こちらは有償ではあるが、1万米ドル未満(9750米ドル)で自身の設計したASICを手にすることができる。MPW Shuttle Programは、最終的にユーザーの手元に届くチップ数は数十個に過ぎない。試しに作ってみるとか、ホビー用途に数個だけ欲しいといった用途にはこれは十分であるが、もう少し数量が欲しいといったニーズには応えられない。また、そもそもGoogleがこのMPW Shuttle Programになぜ資金を提供したかと言えば、Open SoftwareだけでなくOpen Hardwareも広めたいという目的があったからだった。なのでMPW Shuttle Programに応募する場合は設計を全てOpenにする必要がある。だから自身の設計をOpen Hardwareとして公開したくないというユーザーには適さない。
chipIgniteの方はこうした縛りが無い代わりに、自身で製造コストを負担する必要がある訳だ。 このchipIgniteの場合、
- Prototype:9750米ドルで100個のQFNパッケージのチップを入手可能
- Production:1000~10万個以上までサポート。コストは製造コストによって変動
となっている。以前の数字(2022年)の場合、1000個製造だと1個20米ドルとなっていた。取りあえず1万ドルあればチップが試作可能で、そこで動作を確認し問題なければ量産というわけで、昨今のASICの製造が最低でも億円単位である事を考えると、猛烈にお安い価格と言えるだろう。
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