大原雄介のエレ・組み込みプレイバック
Arm対Qualcomm 泥沼化した特許係争はどう着地するのか(2/3 ページ)
Qualcommの引け目
Qualcommの方にももちろん引け目はある。Armがライセンス契約解除を行った場合、Qualcommのチップセットを使っているセットメーカーにもその影響が及ぶからだ。法的に言えば、Qualcommの契約解除が成立した瞬間からセットメーカーはQualcommのチップを積んだ製品を出荷出来なくなるし、それを無視して出荷するとArmから訴えられる可能性がある。従ってセットメーカーはQualcommに対し、訴訟が提起された際の訴訟費用の肩代わりを当然求めることになるだろう。セットメーカーの数は多いから、この肩代わり費用はQualcommにとってもシャレにならない金額になるだろう。
また、ハイエンド製品はNuvia由来のコアを利用するが、メインストリーム向けはArmのCortexを利用している現状では、これらをライセンス違反を覚悟の上で出荷した場合のペナルティは相当な金額になる。だからといって急にRISC-Vにコアを変えるというわけにも行かない。ソフトウェアエコシステムの対応まで考えるとCPUの切り替えには4~5年を要する。多分もう水面下ではPlan BとしてRISC-Vへの対応は進めているだろうが、最初はそれこそモデムとか周辺回路用のCPUコアをArmから置き換えるのが目的で、メインのアプリケーションプロセッサの刷新には相当時間がかかるだろう。幸いなのは、既にAndroidがRISC-Vに対応していることで、「理屈上は」仮想マシンで動くAndroidのアプリケーションはRISC-V上で稼働することになる。とはいえ、実際には結構動かないとか性能が出ないという事が多いので、すぐに全面切り替えというわけにもいかない。要するにQualcommもまたArmをまだ必要としているわけだ。
ちなみにArmのアーキテクチャライセンスは事実上個別ライセンスに近いため、今回のArmの主張(つまりNuviaへのライセンス契約が切れた時点で、QualcommはNuviaのデザインを破棄すべきであるというもの)が正しいかどうかは何とも言えない。過去で言えば、例えばARMとDEC(Digital Equipment)が共同開発した「StrongARM」はIntelに買収されたが、そのDECがCOMPAQに買収された後もIntelはStrongARMのデザインを利用できた。あるいはBroadcomはかつて「Vulkan」という名称で独自のArmv8コアを開発していたが、これを自社で製品化するのを放棄し、その代わりにCavium Networkに売却。Caviumはこれを利用して「Thunder X2」を開発している。Intel、Cavium共にアーキテクチャライセンスは保有していたから、外から見てる限りで言えばQualcommとNuviaのケースが引っかかる理由が分からない。この辺は、QualcommおよびNuviaがArmとの間に、それぞれどういう契約でアーキテクチャライセンスを受けていたかに絡んでくるのだろう。今後裁判になって、そこで詳細な契約資料が出てくることになれば、その辺が明らかになるかもしれない(が、これはArmにとって好ましい事ではないので、その前に幕引きを図るかもしれない)
この後どうなるか?と言えば、多分QualcommはArmのライセンス契約が切れる前に、「一方的な契約破棄であり、優越的地位の乱用にあたる」としてライセンス破棄を無効とする命令を裁判所に出すように訴え、そこから本格的に法廷闘争が始まる事になると思われる。まだ当分決着はつかないだろうし、最終的にどういう形に収束するのかも見えてこない。
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