大原雄介のエレ・組み込みプレイバック
Intelに追い打ちをかける「Raptor Lake」クラッシュ問題 根本原因はいまだ不明(2/4 ページ)
「AMDの性能に負けないため」 許容値以上で設定されていたTDP
IntelのCPUの場合、TDP(Thermal Design Power)という名称で消費電力枠が決まっている。CPUの消費電力は最終的に熱になるので、TDPの数字は要するに「連続運転中はこのTDPに示す消費電力相当の冷却能力があれば問題なく稼働させられます」というガイドラインである。従来はこれをTDPと呼んでいたが、最近はPL1(Power Level 1)と称している。で、PL1があるからにはPL2もあり、こちらは「温度にゆとりがある際に、一時的に利用できる最大消費電力」である。
PL1とは別に、CPUには最大動作温度の範囲が決まっており、こちらはMaximum Operating Temperatureとして示される。例えば「Core i9-14900K」なら100℃であるが、この100℃に近い範囲であれば消費電力がPL1を超えないように制限される。ただCPUの温度が例えば50℃とか60℃であれば、100℃になるまでの間、一時的に消費電力をPL2の枠まで増やす事が許されている。これはTurbo Boostなどと呼ばれる、一時的に動作周波数を引き上げることで性能を向上させる仕組みと連動しており、動作周波数を引き上げると消費電力も増える訳で、このTurbo Boost稼働時にはPL2に近いところまで消費電力が増えるというわけだ。
さてCore i9-14900Kの場合で言うとPL1は125W、PL2は253Wと設定されており、これは、本来は変更ができない(出荷時にIntel側で固定される)のだが、倍率変更が許されるKモデルの場合、この数字をユーザーが変更できる。で、ここからがややこしいのだが、多くのマザーボードベンダーは、K SKUのCPUを利用する場合にデフォルトでこの標準値を上回る値に設定していた。なぜかといえば、競合であるAMDのCPUと性能競争で負けないためである。本来なら、Intelはマザーボードのデフォルト値が本来のガイドを守るようにマザーボードベンダーに指導すべきであった。ところがそれをするとAMDより性能が落ちてしまう可能性があるため、マザーボードベンダーのオーバードライブ状態を黙認した。当初は、これが故障の要因ではないのか? と疑った訳だ。
そこでIntelは後追いで"Intel Baseline Profile"なる新しいBIOSにおける消費電力設定のパラメータを定め、マザーボードベンダーもこれに対応したのだが、あいにくこれをやっても壊れるCPUが続出した。このBaseline Profileがマザーボードベンダーに提供されたのは5月に入ってからの事であるが、この時点でも原因はまだ不明のままであった。
6月18日にIntelのCommunityサイトに、やっと公式声明が発表され、ここでeTVB(Enhanced Thermal Velocity Boost)のアルゴリズムにバグがある事が公開された。ただこの文章の中にも"While this eTVB bug is potentially contributing to instability, it is not the root cause of the instability issue.(このeTVBバグは不安定性の原因となる可能性がありますが、不安定性の問題の根本的な原因ではありません)"とあるように、これ「だけ」が問題かどうかの切り分けは現時点でも行えていない。
TVBはIntelが2018年に導入したもので、Intelの説明によれば、「プロセッサが最高温度未満で動作し、ターボ機能に割り当てられる電力がある場合に、シングルコアとマルチコアのインテル ターボ・ブースト・テクノロジーの動作周波数以上に、プロセッサのクロック周波数を自動的に上昇させる機能です。周波数の上昇値とその持続時間は、ワークロード、プロセッサの性能、冷却ソリューションに応じて変動します」という機能である。
eTVBは、このTVBをRaptor Lake向けにさらに拡張したものであり、そのアルゴリズムにバグがあって本来温度あるいは電力のゆとりがなく、これ以上動作周波数を上げられない状況のはずなのに、そこで動作周波数向上を可能にしてしまった(結果として消費電力と温度が許容範囲を超えた)というのが今回発見された問題である。これに関しては、IntelはMicrocodeの修正を既にリリースしており、OEM/ODMメーカーやマザーボードメーカーを通じて、この修正Microcodeの配布が始まっている。例えば筆者が所有するASUSのPRIME Z690-Aの場合、7月17日にVersion 3701がリリースされているが、ここでeTVBの修正を行ったMicrocode 0x125に更新されるようになっている(図1)。
ただ、既に動作がおかしくなったCPUの場合、これをやっても問題は解決しない。というのは、回路の損傷は非可逆的な変化であって、もうMicrocodeを修正しようが何をしようが、これはどうしようもないからだ。そこでIntelは、損傷を受けたCPUに関してはRMA(Return Merchandise Authorization)プロセスを提供する事を発表した。OEM/ODMメーカー経由で販売された製品はそのOEM/ODMメーカー経由となるが、リテールマーケット経由のパッケージ版は直接交換が可能になるようだ。また、当初は対象に含まれていなかったトレイ版に関しても、RMAの対象とすることも報じている。実は4月頃には、今回のトラブルに関してリコール対象とはならない、と説明していたことをThe Vergeが報じており、ここからすると方針の大きな変更という事になる。
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