大原雄介のエレ・組み込みプレイバック
2021年8月のM&Aを振り返る(2/3 ページ)
ADIによるMaximの買収は、既に多くのニュースが上がっているし、永山準氏の分析が適切かと思う。一つ追加するとすれば、ADIとMaximはどちらもアナログ半導体が主要製品であり、デジタル半導体(MCUやMPU、DSPなど)の割合は非常に小さいと思われる。一方でTIは売り上げの75%がアナログ、18%がEmbedded(つまりデジタル半導体)である。ここから推定すると、TIはデジタル半導体をおよそ26億ドル近く売り上げているのに対し、ADI+Maxim連合の売り上げはおおよそ7億~8億ドル規模と推定される。このギャップを、両社の従来のポートフォリオで埋めるのは非常に難しく、それもあって今後は手ごろなデジタル半導体専業メーカーを買収する方向性を模索するものと考えられる。その意味でも、まだADIのM&A戦略は終わっていないと筆者は考えている。候補として挙げられるのはMCUおよびWirelessに強いSilicon LabsとかNordic Semiconductorなどや、MPUとしてはAmpereとか、大穴でMIPS Technology(旧Wave Computing)なども考えられる(MIPSの場合中国資本ががっちり入ってしまっているのでもう難しい気もするが……)。ポートフォリオとして魅力的な大本命はNXPとかRenesasあたりだろうが、金額的に折り合いがつくかを考えると、可能性は薄い気もする。
SynapticsのDSP Group買収は、次に触れるDialog Semiconductorに近いものがある。Synapticsは主にHMI(Human Machine Interface)向け製品が主体であり、特に液晶パネルのタッチコントローラなどを得意とする。2014年にはRenesasからディスプレイドライバ部門を買収したりしており、これは別に不思議ではない。2017年には音響向け製品を提供していたConnexantを買収しているが、これはHMIの一部として音声もカバーすると思えば理解できる。
ところが同社は2018年、突然にPay TV向けのSTBソリューションの提供を発表したりしている。一応理屈としては、このSTBソリューションに同社のAudioSmart Far-Field Voice solutionsが含まれている、ということであるが、ならばそのソリューションだけをSTBメーカーに提供すれば済む話で、何もSTB向けチップセットを自社で提供する理由はない。2019年にはSmart Edge向けソリューションを提供開始するなど、明らかに従来のSynapticsの提供する製品枠からはみ出したソリューションに向けて、市場の模索をしている感じがあった。そのSynaptics、2020年にETA Computeに投資を行い、同社のTENSAI Flowの独占的ライセンスを取得している。これも、HMIの中にAIを組み込んでゆくためだ、と言われればまあ分からない事もないのだが、いまひとつSynapticsの狙いが見えてこなかった。ところがここにきてDSP Groupの買収である。DSP GroupはConnected Device向けSolutionのベンダーであり、特に2020年6月にSoundChip SAを買収してWireless Active Noise Cancellation Headset向けソリューションを入手したことで、MPU/MCU IPとDSP IP、Wireless IP、Audio Codec IPなどを幅広く提供するベンダーである。このDSP Groupを買収する事で、短期的にはTENSAI FlowをDSP Group提供のIPに載せてEndpoint AI向けソリューションを強化するという形でラインアップを充実させることができるが、長期的には会社のラインアップそのものを別の方向に向けることを想定しており、DSP Groupの買収はそのための第一歩、という気もしなくはない。今後の同社の方向性が気になるところである。
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これを読めばここ1カ月のエレクトロニクス/組み込み業界の動きが分かる連載。注目すべき市場動向と注目すべき製品を取り上げます。
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