組み込みエンジニアの現場力養成ドリル(30)
CMMIレベル5の会社はバグゼロで開発できるか? ―― CMMIの落とし穴(その1)(3/3 ページ)
就活コンサルタントの場合
繰り返しになりますが、CMMIの基本思想は、「ちゃんとした開発組織なら、ちゃんとしたソフトウェアを作るだろう」です。企業が新入社員を採用する場合、学業の成績もよく、クラブ活動も真面目にやっていて、ボランティアとして地域に貢献している学生なら、入社して優れたエンジニアになるだろうと思いますね。
厳しい競争がある分野や、新しい資格が立ち上がると、必ず、「指南ビジネス」が自動的に誕生します。CMMIの場合も、「レベル5を取得できるように指南します」というコンサルタント会社が世界中にたくさんあります。特に多いのがインドと中国の会社で、レベル5を取得した会社が圧倒的に多いのがこの2つの国です。
社内の開発プロセスを改善したいと考え、そのモデルとしてCMMIを使い、レベル5を目指すのであればいいのですが、米国で政府系のソフトウェア開発に入札したいため、あるいは、世界に通用する「看板」として、形式的にレベル3がほしい企業も少なくありません。
そんな企業は、例えば、就職活動で学生が大手企業から内定をもらうため、就活コンサルタントから、「学校にある休眠状態のクラブに入部して1年間、形式的に部長を務め、また、ボランティア活動として、この団体で年に1回、2時間程度の勤労奉仕をすれば、社会に貢献していると思ってもらえますよ」とアドバイスを受けるようなものです。このアドバイスに従うと、就職先の会社が求める人間像とは正反対の学生になってしまいます。
子供将棋教室の場合
形式だけでなく、実際にきちんとした開発プロセスのある組織もありますが、開発プロセスがあって、真面目に愚直に実行することと、実際の開発物が高品質で、納期通りにリリースすることは一致しません。
例えば、小中学生を集めた子供将棋教室があるとします。毎回、教室に来るたびに体温脈拍、血圧を測り、また、長時間、同じ姿勢で将棋盤に向かうため、子供の健康状態を月に1回、きちんとチェックするなど、健康管理は万全。将棋教室での対局ではすべて棋譜を残し、コンピュータ上で検索できるし、指導者から、この局面では同飛車成りと強く指していたら優勢になっていたなどの講評を貰もらえる。プロ棋士から週に1回、戦法の講義があり、駒落ちで指導対局を受けられる。県大会や全国大会に出場する場合は、将棋教室の代表者が付き添い、宿泊や食事や精神的なケアをする。学業がおろそかにならないよう、学校の成績も常にチェックしている。負けが込んで自信をなくしている生徒には、カウンセリングを実施して、精神的にバックアップしている。月謝は基本が3500円で、毎月、収支報告をキチンと出している。先月は運営の効率を改善できて余剰金が出たので、来月の月謝は3483円にする見込み。こんな組織は、CMMIならピカピカのレベル5です。
一方、日本最高レベルのプロ棋士が所属する日本将棋連盟はどうでしょう? 棋譜はコンピュータに残しており、検索できますが、それ以外は所属棋士のために何もしません。健康管理は自己責任。強くなるための勉強も自分でやらねばなりません。対局場へも自分で勝手に行き、遅れると持ち時間から3倍の遅刻時間を引かれてしまいます。対局料だけで生活できない棋士は、町の将棋道場に出張アルバイトするなど、自力で食っていかねばなりません。確定申告も自分でやります。こんな組織はCMMIの基準では最低のレベル1でしょう。
で、CMMI最高のレベル5の子供将棋教室で最強の中学2年生の男子が、最低のレベル1の日本将棋連盟の強豪棋士、藤井聡太二冠と対局するとどうなるでしょう? 圧倒的な棋力の差があり、勝負になりません。
これが、CMMIの最大の勘違いポイントであり、落とし穴です。CMMIは、組織の枠組みやプロセスがキチンとしていることを示す指標であり、棋士個人の実力を表すものではありません。一種の「ベスト・エフォート」であり、「努力はしますが、結果は保証しません」方式です。
レベル5を取得し、開発プロセスはきちんと整備しているけれど、バグだらけで、機能の実装漏れのあるソフトウェアを平気な顔で納入する会社が少なくありません。これがその会社の実力なのです*2)。CMMIのレベル5の会社にオフショア開発してもらったところ、バグだらけのソフトウェアを納入してきたという悲劇は、「子供将棋教室の中学2年生」にソフトウェア開発を依頼したために起きたのです。
*2)CMMIレベル5認定を受けた某海外ソフトウェア開発会社にオフショア開発を依頼した時のこと。両国を仲介するブリッジエンジニアも置いていたのですが、納入物に、基本的なバグがたくさんあったため、相手側のプロジェクトマネージャにクレームを入れました。プロジェクトマネージャとその上司に対し、「御社は、CMMIのレベル5を取得している最高レベルのソフトウェア開発組織である。そうなら、レベル4の『開発プロセスを計測している』ができているはずだ。また、顧客からの不満に対し、『開発プロセスを最適化する能力』はレベル5の必須要件である。直ちに、プロセスを改善して、高品質のソフトウェアを開発する体制を整備してほしい」と申し入れ、以降、少しはマシになりました。筆者の経験上、レベル5の認定を受けた会社には、このように言うのが最も効くようです。
では、きちんとしたレベル5の会社をどのように見抜けばよいか、次回、具体的な方法を解説します。
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組み込みエンジニアの現場力養成ドリル
このコラムでは、組み込みエンジニアが日々の開発で実際に遭遇する「小さなトラブルを」取り上げ、演習形式で解説します。
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