組み込みエンジニアの現場力養成ドリル(30)
CMMIレベル5の会社はバグゼロで開発できるか? ―― CMMIの落とし穴(その1)(2/3 ページ)
CMMIの5つのレベル:天ぷら屋さんを例にして
CMMIでは、開発プロセスを1から5までの5段階評価をしています。個人の技ではなく、工業化のレベルが高いほど、CMMIの評価が上がります。
例えば、天ぷらのチェーン店があって、決まった調理法を定めておらず、各店舗の調理人個人のやりやすい方法で天ぷら定食を作っているなら、個人技の世界。工業ではなく芸術なので、CMMIの判定はレベル1。通信簿の5段階表示の1と同じで、最低点です。CMMIの認証を受けたことになりません。
天ぷらのチェーン店で、毎回、同じ順番で、同じ調理時間で、同じコストで、同じ味で、同じ量で、同じ盛り付けで、天ぷら定食を作るマニュアルが存在し、そのマニュアル通りに調理する店が1店でもあれば、CMMIではレベル2になります。全店で、マニュアルを定め、同じ調理法をしていれば、レベル3認定です。
レベル3は、ある意味、「天ぷら定食の工業化」であり、誰が作っても、同じ品質で、同じ時間で、同じコストでできる状態です。日本全国で展開しているハンバーガーチェーン店やファミリーレストランはこれに該当するでしょう。美食家の中には、「マニュアル通りに作ったハンバーガーなんて……」と文句を言う人もいますが、CMMIの視点では、理想の生産方法なのです。
国防総省が、最低限として求めているのがこのレベルです。柔道、剣道、囲碁、将棋の初段に相当し、周囲から一目置いてもらえます。
レベル4は、プロセスを計測しているかがカギになります。天ぷらのチェーン店で、時間帯ごとに注文を受けてから定食を出す時間を各店舗で計測/記録していれば、レベル4です。
計測値を元に、開発プロセスを改善し、最適化していればレベル5です。例えば、昼休み時間の11時50分から13時15分まで来客が多いので、客の待ち時間を短くするため、その時間帯は天ぷら鍋を2つ使うように調理方法を改善すれば、レベル5の最高評価となります。
レベル1とレベル2の間には、非常に広くて深い溝があります。レベル1からレベル2(以上)へ行くのがとても大変で、筆者の個人的な感覚だと、自信満々で受査した会社の80%は「残念ながらレベル1でした」だと思います。一方、レベル2以上が達成できれば、簡単にレベル5へいけると考えています(実際は大変ですが)
CMMIの落とし穴:形から入って、形のまま……
CMMIの最大の落とし穴は、「きちんとした開発プロセスがあるかどうかを形式的にしかチェックしない」です。形から入ることは全ての基本ですが、形のままであることが少なくありません。
ソフトウェア開発会社全体で、開発プロセスをキチンと決めていて、プロジェクト管理もしっかりしていれば、高品質のプログラムを納期通り納入するだろうと思いますが、そうはいきません。
CMMIでは、開発方法が存在し文書化してあれば、内容は問いません(逆に、何でも文書化することを求めるため、膨大なドキュメント量になります)。例えば、ソフトウェアの開発規模を推定するプロセスで、ステップ数による見積もりや、過去の類似プロジェクトからの推測や、ファンクションポイントによる見積もりでなく、「要求仕様書の重量のグラム数×20KLOC」で計っていても構いません。
CMMIでは、開発組織の実践的な開発力よりも、形式的に開発プロセスが整備されていることが重要なのです。毎回、バグを大量に作りこんだり、未実装の機能があるソフトウェアを作ったりしていても、CMMIのレベル認定とは全く関係ありません。
法律がキチンと整備されていれば、国民もキチンとしていて治安がよいと考えるのがCMMIの基本です。世界史の教科書にもでてくる『法の精神』を著したモンテスキューの祖国、フランスはキチンと法整備をしている先進国なのに、「スリはパリ名物」と言われるのに近い感覚があります。
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