組み込みエンジニアの現場力養成ドリル(28)
私の仕事はAIに奪われるんですか!? って聞かれたら何と答える?(3/3 ページ)
問題2の解答
正解は、37万7900km2です。
概算した値が50%200%の誤差範囲、すなわち、18万8950km2から75万5800km2の間であれば正解です。実際のテレビ番組では、(1)3万7000km2、(2)37万km2、(3)370万km2からの三択でした。
日本の国土の総面積を概算する場合、いろいろな見積もり法があります。私が使った方法は以下の2通りです(クイズなので、30秒以内に答えを出さねばなりません)。
見積もり計算その1
図1のように、日本列島を「30度、60度、90度の直角三角形を2つ組み合わせた形とみなします。日本列島には凸凹がありますが、相殺すると2枚の直角三角形と仮定しても、桁が狂う、すなわち、正しい値の10分の1になったり、10倍に増えたりすることはありません。
問題は、直角三角形の辺の長さですね。ここで私が思い出したのが、新幹線の乗車時間です。東京大阪間が2時間半、東京博多間が5時間であることは、経験則として知っています。駅での停車時間を考慮して、新幹線の平均時速を200kmとすると、直角三角形の最長辺が1000km、最短辺はその半分で500kmです。以上から、日本の総面積は次のように計算できます。
日本の総面積は、(500km*√3)*500km=43万3000km2
43万3000km2となり、正しい値、37万7900km2の15%増と意外に正確な値となりました。当てずっぽうではなく、根拠のある数字をベースに見積もると、桁違いを避けられます。
見積もり計算その2
日本の人口が1億2000万人、1km2当たりの人口密度を333人とすると、
1億2000万人/333人=36万360km2
10年ほど前、「日本の人口密度は、1km2あたり333人」と聞いたことがあります。その時、私が思ったのは、「おぉ、3が3つで9になるとは、いわゆる『三のアラシ』で最強の手役だぁ」でした。
日本古来のギャンブルで「おいちょかぶ」というのがあります。1から9までの数字を書いた株札(かぶふだ)や、通常の花札(松は1月で1、梅が2月で2、桜が3月で3……とみなし、また、11月の柳と12月の桐は取り除きます)を使います。2枚、あるいは、3枚引き、合計点数の下一桁が9に近い手札が勝ちます。21に近い手札が勝つブラックジャックの日本版ですね。
通常は、合計の数の下一桁が9の人が勝つのですが、特殊な役として、9と1の「クッピン」、4と1の「シッピン」がそれより強く、さらに強い役が同じ数字が3枚そろう「アラシ」です。中でも3が3つそろう「3のアラシ」が最強の手札。ポーカーでのロイヤルストレートフラッシュに相当します。
「日本の人口密度が『3のアラシ』である」とビックリした翌日、何気なく「子供のキラキラネーム」のWebサイトを見ました。そのWebサイトでは、名前を「夜露死苦」のような「画数の多い系」など、カテゴリーに分類してあり、その中に、「知恵を使う系」がありました。
例として、
と書いて「ミント」君と読む理由は、シンニョウの点が2つとその下の横棒で「ミ」、シンニョウの残りが平仮名の「ん」、最後の「十」が「と」となるからだそうです。その次に出てきた名前が「三三三」でした。若手落語家の超正統派、柳家三三(やなぎやさんざ)みたいな名前だなぁと思っていたら、「あらし」君と読むとのこと。2日連続で「3のアラシ」に遭遇し、日本の人口密度がしっかり記憶に残りました。
日本の総人口は、ニュース番組でもよく取り上げるので、1億2000万人であることは覚えています。総人口を人口密度で割れば、総面積を概算できます。「1億2000万人÷333人=36万km2」の概算値は、正しい値の5%減で、かなり正確な見積もりと言えます。「オイチョカブの手役」のような無駄な知識が、意外なところで役に立ったと、少し感動しました。
人工知能の発達で新しい職業がどれだけ増えるか?
では、AIの発達により、新しい職業がどれだけ増えるか、推定しましょう。
見積もる手順ですが、「電気、内燃機関、コンピュータのなかった江戸時代の職業の数」と「現代の職業の数」を比べ、その増加率を「現代の職業の数」に乗算して、「AIが全盛になっている未来社会の職業の数」を推測します。
いろんな情報を検索して、江戸時代の職業の数を求めようとしたのですが、有力な情報がありません。そこで、以下の見積もり手順を取ることにしました。
①現代の職種を全て挙げる。
②「現代の職業」が、江戸時代に、どの程度、存在していたかを推定する。例えば、農業は100%、教育産業は50%、ソフトウェア開発は0%とみなす。
③上記の②で求めた「江戸時代の職業の数」と「現代の職業の数」の比率から、「将来の職業の数」を推定する。
平安時代の日本の人口は?
歴史学者、鬼頭宏氏の著書、『人口から読む日本の歴史(講談社学術文庫、2000年)』によりますと、いろいろな資料から昔の日本の総人口を計算しています。
縄文時代は10万人から26万人、弥生時代は60万人、奈良時代は450万人、平安時代は550万人となり、以降、600年ほどかけてじわじわ増え、江戸時代の初めには約1220万人になったそうです。そこから100年で人口が急増し、1700年代には3000万人台となったとのこと。明治時代までそのまま推移し、明治以降は、また順調に人口増加して1億2000万人になったそうです。
江戸時代以前は、人口は生産できる食べ物の量、すなわち、保存ができる稲作の普及の具合と、田畑の面積の拡大に依存*2)し、明治時代以降の近代は、工業化が進んで豊かになったことで人口増になったと思われます。
AIの発展をはじめ、全世界の全電化製品の一つ一つにIPアドレスを割り当てるような高度に技術が進んだ将来、職業の数は大きく増えるでしょう。
*2)ネス湖の恐竜、「ネッシー」を覚えている方も多いと思います。ピンボケの写真が妙にリアルで、一目、ネッシーを見ようと、世界中から観光客がイギリスの田舎を訪れました。後に、写真は捏造と判明したのですが、捏造が発覚する前の「ネッシー否定論者」の中には、「ネッシーのような大きな生物が住むには、ネス湖は小さすぎて、十分な食料がない」と、「食糧問題」から分析して「ネッシーは存在しない」と主張した研究者がいました。それを聞いて「いろいろな視点があるなぁ」と感心したのを覚えています。
現代の日本の職業の数
厚生労働省所管の独立行政法人、「労働政策研究・研修機構」が2012年に発表した『職務構造に関する研究 - 職業の数値解析と職業移動からの検討(労働政策研究報告書No.146)』に、601業種を調査し、職業の割合を示した表がありました。同報告書のp.33の「図表1-12 業種」がそれで、職業を33の大分類に分け、その業種の割合が載っています。
先ほど、『野村総研のレポートが日本の601の職業を分析した』と書きましたが、「職種は601」とした情報源は、この報告書です。
本コラムの巻末に載せた図2に、この報告書のp.33の「図表1-12 業種」の表の一部を引用しました。また、この図には、各職業が、江戸時代にどの程度、存在していたかを筆者の独断で記入しました。例えば、農業・水産業や、アパレル産業は同じ物が江戸時代に存在したとして100%、教育産業は50%、交通・運輸業は25%、ソフトウェアやインターネット系は0%としました。
将来の日本の職業の数
図2で、「現代の職業の数」と、「江戸時代に存在した割合」を掛け算した結果、江戸時代の職業の数は現代の36.28%となり、現代の3分の1程度と推測しました。「現代の職業」がさらに高度に工業化され、同じ比率で業種が増えると仮定すると、以下となります。
601業種*(1/0.3628)=1657業種
この数字は、桁は違っておらず、50%から200%の誤差範囲に入っていると思います。職種が少なくなることはありませんので、「人工知能や高性能のハードウェアなど、技術が高度に発達すると、職種は、今の3倍から6倍に増える」と見積もることができます。
おわりに
暴露話やスキャンダル記事をメインにした週刊誌でも、「AIで消える仕事」のようなテーマの記事を載せています。コンピュータ系以外の職種の人は、「自分の仕事がAIで駆逐、淘汰されるかもしれない」と、大きな不安や危機感を持っていることでしょう。
このコラムの読者は、「コンピュータ業界の代表者」です。友人から、「AIが発達すると、私の仕事は消えてしまうんでしょうか?」と不安な顔つきで聞かれた場合、エンジニアとして、以下のように、具体的に答えてあげてください。
①不安をあおる記事の方が読んでもらえる。
②AIでなくなる職種があるが、それよりも、増える職業が圧倒的に多い。どんな職業が増えるかは、予想できない(江戸時代の人に、Webデザイナーを想像できないのと同じ)。
③江戸時代に比べ、現代の業種は3倍になっていると推定できる。
④AIが高度に進歩すると、業種は3倍から6倍に増えると思われる。江戸時代の流通系の職種が現代では何倍にも増えたように、将来、AIで置き換わる業種は、逆に、職種が増える。
見積もりや推定は、ソフトウェア開発技術者の最高の能力です。特に、プロジェクト・マネージャには欠かせません。自分の知りうる情報やデータを駆使し、自分で考え、いろいろな見積もりや推定をする練習をするといいでしょう。
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このコラムでは、組み込みエンジニアが日々の開発で実際に遭遇する「小さなトラブルを」取り上げ、演習形式で解説します。
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