組み込みエンジニアの現場力養成演習ドリル(20)
フォークランド島を爆撃せよ! ――大西洋を横断した壮大な「バケツ・リレー」(3/4 ページ)
解答その2:英空軍が採用した給油パターン
実際の爆撃作戦とパズルでは、飛行機の性能、目的地までの距離、作戦行動の違いはありますが、図8に示した「7機による爆撃」が正解に見えます。しかし、英国空軍はこの方式を取りませんでした。何が違うのか? 決定的に異なるのは、英空軍は、旧式の爆撃機や給油機が故障することを想定して、冗長性を持たせたことです。これが、「パズル」と「実際の兵站(へいたん:軍事における物資の補給や整備)」の違いです。
イギリス空軍は、爆撃機を1機ではなく2機、給油機11機の全13機の体勢で作戦を進めました。その様子を示したのが図10です。以下、補足説明です。
- 図10の下が、出発地のアセンション空港、上が、目的地のスタンレー空港。
- 図は、給油パターンを示すだけで、距離は線の長さに比例しません。
- 「Wave1」が爆撃群、「Wave2」が「行き」の給油群、「Wave3」が「帰り」の給油群。
- 一番下の「機影」で、ピンクの「三角形」が爆撃機のバルカンで、通常の飛行機の機影(青、オレンジ、緑)が給油機のヴィクターです。
- これは、1回目の爆撃の給油パターンです(全部で7回、爆撃しました。詳細は後述)。
- 実際に、どのように給油したか、バルカン爆撃機が途中で帰還した様子も含めて、以下のサイトで動画として見ることができます(この動画はよくできた労作です。これを見ると、英国空軍が「砂漠の横断パズル」を大西洋で実施したことに感動します)。
- 図で、灰色の線が「不具合のあった飛行機」を示しています。
「Wave1」の爆撃群にバルカン爆撃機(Vulcan)が2機いますが、右側のバルカンが不具合のため、途中で引き返しています(線が、「故障による帰還」を示す灰色になっています。この状況は、上にURLを記した参考動画で分かります)。冗長性を考慮して、爆撃機を2機にしたことが有効に作用しました。また、4機のヴィクター(Victor)も途中で帰還しました。
英空軍は全13機の体勢で作戦を進めました。「帰還時の給油」では、「出撃時の給油機」を4機、使い回しているので、「延べ17機」です(図10で、線は18本ですが、バルカンの帰還も含んでいるので、実際の出撃機の「延べ機数」は「17」です)。
採点
今回の「フォークランド島爆撃」の問題で、必要な総機数および、給油の考え方により、以下の点数とします。
- 6機(パズル式に考えた)【60点】
- 理解容易性の不足および、現実での状況の認識不足
- 9機(「1本の矢印に3本追加する」方式を使った)【70点】
- 理解容易性を優先させて計算している
- 7機(図式表示を駆使し、実践的に考えた)【80点】
- これが最も一般的で最大多数の解答?
- 冗長性を考慮して、「爆撃機2機」などを考慮した【+10点】
- これが現実的な解。
- 6000km以上の場合も考えた【+10点】
- 拡張性まで考慮している。
要求仕様に対する解決を模索する上で、パズルやモデルを使うのは、単なる「サンプル」、「参考意見」にすぎません。「サンプルやパズルによる解法」は「実践的に使える解決案」を探る上で有用な「ガイドライン」にはなりますが、現実の解決策とは微妙に異なる場合が少なくないので、注意が必要です。
今回のコラムで、「パズル」と「兵站」の違いを認識していただければ幸いです。ソフトウェア開発で発生した課題を解決する場合、「パズル式解法」と「兵站的(現実的な)解法」には大きな違いがあります。これが、「科学的解決策」と「工学的解決策」の違いかもしれません。ソフトウェアの開発は、「とても工学的」であることを再認識していただければ幸いです。
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このコラムでは、組み込みエンジニアが日々の開発で実際に遭遇する「小さなトラブルを」取り上げ、演習形式で解説します。
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