大原雄介のエレ・組み込みプレイバック
「AMDの組み込み」は今度こそ変わるか(2/2 ページ)
現CEOが刷新した、AMDの体質
「ある程度顧客がついたあたりで製品ディスコン、顧客が霧散」というパターンはこの後も繰り返されることになる。
理由はやはり、製品を発売してその四半期中に売り上げが立つPCのマーケットに慣れてしまうと、デザインウィンから売り上げが立つまで3~5年の時間がかかり、しかも、その売り上げがまず急伸しない組み込み向けのマーケットは、コストに見合わないという判断だったのだろうと思う(Intelも同じようなことを繰り返しているが)。
その後、AMDはK6/K7/K8とアーキテクチャを更新してゆき、組み込み向け製品も更新に応じて用意されるものの、目立ったシェアを取るには至らなかった。こうなると顧客の側としても、「AMDはPCと同じ扱いでしか組み込みを扱ってくれない」という見方となり、そうした扱いでも構わない製品でしか使わなくなる。これはこれで仕方ないところだ。
こうした流れが一変するのは、現在の最高経営責任者(CEO)であるLisa Su氏がAMDにやってきてからだ。IBM出身、という話は良く知られているが、実はIBMとAMDの間にFreescaleを挟んでいる。2007年にFreescaleへ入社した際は最高技術責任者(CTO)だったが、途中からNetworing and Multimedia Groupを率いることになり、AMDの入社までは組み込み市場を相手にビジネスをしていた。
Lisa Su氏の起こした変革
2012年に最高執行責任者(COO)としてAMDへ入社した最初の仕事は、セミカスタムのビジネスである。PlayStation4とXBox One向けカスタムプロセッサとGPUのビジネスを最終的にまとめ上げたのが彼女だといわれている。セミカスタムも広義には組み込みの一部だが、それ以上手を広げなかったのは、恐らく、当時の財務状況的にロングテールな組み込みビジネスを行うゆとりが無かったのだろう。
大口ビジネスをまとめて状況が少しづつ改善してゆく中で、AMDは再び組み込み向けのビジネスを進める。しかし、当時のAMDはまだ競合であるIntelに対してCPU性能で後れを取っており、これをGPUでなんとかカバーして次世代コア開発の時間を稼ぐ、という厳しい状況にあった。Su氏が組み込み向けに陣頭指揮しているゆとりはない。そんな理由もあってか、2013年末、IBM時代に一緒に働いていたSteve Longoria氏を引き入れる。
Longoria氏は、AMDの前はSOITEC(FD-SOI向けウェハを提供する会社)にいたが、その前はNetLogic、さらにその前がRMIに在籍した経歴を持つ。NetLogicはRMIを2009年に買収しており、Longoria氏はこの買収に伴ってNetLogicに移籍、NetLogicでも旧AlchemyのMIPSプロセッサのビジネスに携わっていたそうだ。その前のIBM時代には「Su氏と一緒にEmbedded PowerPCに携わっていた」とご本人から聞いたことがある。
要するに一貫して組み込み畑を歩んできた人物であり、AMDではそれもあってEmbedded ProcessorとPro Graphics(要するにどちらも組み込み市場向けの製品だ)のトップに就任している。Su氏に代わって組み込み向け製品の立て直しを任された、と考えるのが正確だろう。
AMDの組み込みは「生まれ変わる」か
実際、Longoria氏はここからAMDの組み込みビジネスを大きく方向転換している。
まずは本来あるべきロングテール収益モデルへの回帰だ。製品ベースはPC向けと大きく変えられないが、より組み込みに適した製品の充実や長期供給保障/長期サポートなどを提供するようにした。加えて、ダイレクトサポートも開始した。
日本国内で組み込みシステムを開発していて問題が発生した場合、下手をすると「開発者 → 代理店の技術部 → メーカー日本支社の技術 → 本国の技術部」という冗長な問い合わせになることがある。これでは時間もかかるし、質問が正確に伝わらなかったり、最悪、質問が放置されたりとロクなことにならない。
この問題の解決策として、Longoria氏は「開発者 → 本国の技術部」と直接コンタクト可能なシステムを導入したのだ。また、これに並行してFAE(Field Application Engineer)の充実も図っており、現時点では本国に数十名のスタッフが在籍しているという。
もちろん何でもかんでもダイレクトサポートとはいかないのも事実であり、現在は大ロット向け製品に限ってダイレクトサポートを提供し、小ロットは引き続き代理店経由という形になっているそうだ。顧客ではなくロットの大小で区別するあたりは非常に興味深い。
そのLongoria氏、今は非常に機嫌が良い。理由は簡単。Zenコアをベースにした製品にかなりの競争力があるからで、Ryzen Embedded V1000やEPYC Embedded 3000などは大幅にパフォーマンスや性能/消費電力比の改善がなされている。特にRyzen Embedded V1000ではCPU/GPUがともに新コアとなり、大きく競争力を取り戻したている。
加えて言えばそもそもZenコアは旧Bulldozer系のハイパフォーマンス向けと、旧Bobcat系のローパワー向けの両方をカバーするように設計されており、今後は10Wを切るマーケットにも製品投入の予定があるらしい。Longoria氏からすれば、この5年間は組み込み向けに売るための体制作りをやりながら良い製品を投入できるのを待っていた訳で、ついにこの2つがそろったのだから「後は売るだけ」だ。
日本AMDはこれまで春の「ESEC & IoT/M2M展」には出展せず、冬のET展(組込み総合技術展)に出展していたが、2018年からESEC & IoT/M2M展に出展を切り替えた。これは、いよいよ攻めに転じるという合図なのかもしれない。
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大原雄介のエレ・組み込みプレイバック
これを読めばここ1カ月のエレクトロニクス/組み込み業界の動きが分かる連載。注目すべき市場動向と注目すべき製品を取り上げます。
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