宮田健の「セキュリティの道も一歩から」(21)
「IoT怖い」の真実と誤解――“正しく怖がること”から始めるセキュリティ対策
「モノづくりに携わる人」だからこそ、もう無関心ではいられない情報セキュリティ対策。しかし、堅苦しい内容はちょっと苦手……という方に向けて、今日から使えるセキュリティ雑学をお届け! 今回は、「IoT怖い」の真実と誤解について触れ、セキュリティの基本となる考えをご紹介します。
近年のブームの代表格は間違いなく「IoT(Internet of Things)」でしょう。ここで筆者があえて「ブーム」と表現したのは、決して“いい意味”だけではないからです。ブームになると、その言葉の示す範囲が広くなり過ぎてしまい、この言葉を聞いた人は、「一体、どのような意味と意図で○○という言葉を使っているのか?」と探り探り会話をすることになります。そして、ブームの後半は決まって「○○の恐怖」「○○は本当に大丈夫なのか?」と、“恐怖をあおるフェーズ”に突入していきます。そういう意味で、IoTもそろそろこのフェーズに入ってきたのではないかと思います。
恐怖をあおる意味でセキュリティは欠かせない存在です。ちょうどNHKでも「『IoTクライシス』が忍び寄る」と題した特集番組を放映したばかりです。
さて、IoTは本当に破滅的で、システムを脅かすものになってしまうのでしょうか。このコラムをお読みの皆さんには、ぜひ“真実”を知ってほしいと思います。
セキュリティのキホンは「正しく怖がること」
「IoT怖い」というと落語のようですが、これは真実であり、同時に誤解でもあります。IoTに限らず、セキュリティのキホンは「正しく怖がること」です。IoTの怖さを知った上で、その怖さを克服するシステムを組むことが重要です。
IoTというと示す範囲が広過ぎるので、まずは企業が活用するIoTをイメージします。それは「多くの小さなデバイスを大量に用意して、そこからデータを取得し、収集されたデータを利用する」というモデルです。ここでよくある「IoTの恐怖」とは、デバイスやデータの改ざん、デバイスの乗っ取り、データの窃取などでしょう。データが盗まれると情報漏えいになり得ますし、データが改ざんされると最終的に利用する段階で大きな影響を及ぼします。
例えば、電力量を検針するスマートメーターを考えてみましょう。スマートメーターは各家庭、企業の利用した電力量を記録し、無線通信を使ってそのデータを中央サーバに送信します。スマートメーターから出力される電力量が書き換えられてしまうと、電気代を正しく徴収できなくなりますし、工場などではその電力量から、今何を作っているのかを類推することもできるでしょう。その意味で「IoT怖い」は正しいといえます。
しかし、IoTがどのように「攻撃されているか」を知り、その対策を取ったとしたらどうでしょうか。通信の傍受に対しては、データの暗号化をしっかり行えば対策が打てるでしょう。IoT特有の「デバイス自体を盗まれ、解析される」というリスクも、そのリスク自体を知っておけば、デバイスが分解されても中身が分からないようにすることや、内部にある重要な情報を取られないような耐タンパ性を考えた作りにすることも可能でしょう。
その意味で、正しく怖がるために必要なのは「既にIoTが攻撃されている前提で考える」ことです。そこから初めて、対策が打てるようになります。このステップまで進んでいれば、漠然とした「IoT怖い」ではなく、「IoTは怖い、でも何とかできる」と考えられるはずです。
スマートホームとIoTを守る最強の防御策、それは
企業のIoTであれば、デバイスに対する防御策だけではなく、通信経路やセンター側を含めた対策が可能です。よく「IoTデバイスは、CPU性能もインタフェースも貧弱だからアップデートが行いにくいし、多機能にもできない」と言われがちですが、これは(現時点で)真実でもありますが、そういったデバイスで足りないセキュリティを、通信経路やセンター側でカバーすると発想を変えることも可能です。
例えば、IoTデバイスに何らかの脆弱(ぜいじゃく)性が発見され、アップデートができない場合でも、通信経路が最初から閉域網として作られていればインターネット経由での攻撃はできません。ただし、デバイスを直接攻撃できてしまうのがIoTです。その結果、「WannaCry」のように近くのデバイスへ感染行為が行われるようなことがあっても、ネットワーク上でその通信をシャットアウトすることも可能なはずです。そのためには、あらかじめそういう攻撃を想定する必要があり、「知る」ということが最も有効な一歩といえるでしょう。
ですが、自宅内に置かれるスマートカメラやスマートスピーカーなどのIoT機器に関しては、閉域網でつなぐことはできません。そのため、対抗策が限られてしまいます。それではどうしたらよいか? ここで最強の防御策となり得るのが“人”です。
スマートホームのIoTを守るのは、何もITだけではありません。“人”の知識をアップデートし、例えば、
- IoT/PCなどの機器に対して適切なアップデートを行う
- IoT機器に対して何らかの大規模な攻撃が行われていてかつアップデートが提供されなかったらポートを閉じる
- パスワードを変更する
といった回避策を施すことで、柔軟な対策が可能です。これらは人がほんの少しIoTに歩み寄って、面倒を見てあげるというアプローチです。
今後もIoTに対する攻撃事例が増え、その都度「ほら、やっぱりIoTは怖い!!」という論調の話も増えてくるでしょう。おそらく、今もてはやされているホットなワードも一緒で、「AIの恐怖」「機械学習のミスリードが私たちを襲う」「ブロックチェーンの落とし穴」などの特集が組まれるかもしれません。しかし、その背後には必ず「今できる最良のセキュリティ対策」があるはずです。どの分野においても、できる限り「正しく怖がる」ことを考えてみましょう。
著者紹介:
宮田健(みやた たけし)
元@ITの編集者としてセキュリティ分野を担当。現在はフリーライターとして、ITやエンターテインメント情報を追い掛けている。自分の生活を変える新しいデジタルガジェットを求め、趣味と仕事を公私混同しつつ日々試行錯誤中。現在、ITmediaエンタープライズにて、もはや誰もが人ごとではないITの課題や話題を紹介する「半径300メートルのIT」を連載中。また、それをまとめた書籍「デジタルの作法~1億総スマホ時代のセキュリティ講座」も発売中。
筆者より:TechFactoryでの本連載では、ITセキュリティの「あるべき論」「正論」だけでなく、モノづくりに携わる方たちに「気楽に」「楽しく」セキュリティを考えていただけるように、さまざまな話題を取り上げたいと思います。「セキュリティっていわれてもねえ……」と思わず考えてしまった皆さまに覚えていただけるようなコラムにしたいと思います。お楽しみに!
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