宮田健の「セキュリティの道も一歩から」(6)
機器の寿命は作り手次第!? IoTで最も重要な機能は何か
「モノづくりに携わる人」だからこそ、もう無関心ではいられない情報セキュリティ対策の話。第6回のキーワードは「暗号」です。安全なやりとりを実現する暗号化の仕組みは、ネットワークに接続される機器が爆発的に増加するIoT時代に重要なトピックでもあります。
今や“インターネット経由で何かを買う”という行為は、当たり前になりました。PCや家電といったデジタル機器だけでなく、石けんやシャンプーといった生活用品から食料品に至るまで、何でもネット通販で買える時代。便利に活用している読者の皆さんも多いのではないでしょうか?
実は、そんな生活を支えてくれているのが今回お話する「暗号」なのです。
おそらく読者の皆さんも、Webブラウザのアドレスバーに表示される「鍵」(正確には「錠」の方ですが)マークをチェックしたことがあるでしょう。このマークが表示されているときは、サーバとの通信が“暗号化”されています。そのため、通信内容が盗聴されず、安全なやりとりが行えるというものです。
これは「SSL(Secure Sockets Layer)」という仕組みで通信が行われている証拠です。出どころの正しいことを証明する「SSLサーバ証明書」を利用することで、通信を暗号化すると同時に、通信相手が本当に正しいサーバなのかも証明するものです。
実際には、SSLサーバ証明書にもさまざまな種類があり、暗号化の種類/強度が設定されています。ちなみに、アイティメディアの会員制サービスで用いられている「アイティメディアID」のサーバ証明書は、「RSA暗号化を使用するSHA-256」が利用されています。暗号の仕組みを使うことで、インターネットの世界は「安全」を確保できているのです。
「モバイルSuica」が使えなくなった!?
暗号の世界を語り出すと、とてもこのコラムでは伝えきれないほど、深くて広大な内容になってしまいます。今回ここでお伝えしたいことは、
暗号にも「寿命」が存在すること
です。先日、JR東日本が提供するICカードを使ったサービス「モバイルSuica」で興味深いリリースが出ていました(以下、関連リンク参照)。
これは、まだスマートフォンが普及していない2009年ごろに主流だった、携帯電話の「おサイフケータイ」機能を使ったモバイルSuicaサービスにて、“2016年8月24日より一部の携帯電話でサービス利用ができなくなった”というお知らせです。実はこれ、“暗号の寿命が来てしまったことが原因”なのです。
2009年ごろの携帯電話は、証明に使うハッシュ関数として「SHA-1」を利用していたのですが、CPU処理能力の向上や、仕組みを攻撃する方法が発見されたことで、当初想定されていたよりも「弱い」ものだということが分かりました。そのため、より攻撃されにくい「SHA-2」への移行が進められ、多くの携帯電話端末が“アップデート”によりSHA-2対応を完了しました。しかし、一部の携帯電話端末ではアップデートが提供されず、結果として暗号化通信が行えなくなり、(モバイルSuicaで)非対応になってしまったのです。
IoT時代、アップデートできなければ長くは使えない
これは人ごとではありません。そもそも暗号化手法にはそれぞれに寿命があると考えられており、永遠に使えるわけではありません。これは、先のSHA-1と同じく、スーパーコンピュータの処理能力向上や、暗号化手法自体の“脆弱(ぜいじゃく)性”が存在する可能性があるためです。
そのため、“暗号化手法をアップデートする仕組み”が必要です。OSのアップデートや、Webブラウザのアップデートを行わなくてはならない理由は、こういうところにもあるのです。情報通信研究機構(以下、NICT)は、現時点で安全と考えられている暗号プロトコルの一覧を提供しているので、こちらを参考にするのもいいでしょう。
そして、今後製造業は「IoT(Internet of Things:モノのインターネット)」を無視できません。IoTとは、全ての機器がインターネットにつながるということです。つながるためには、正しい相手とつながり、その通信内容が盗聴されないようにしなくてはなりません。しかも、一度設置された機器が、長く利用される傾向があると考えられます。そうすると、安全を確保するための“暗号化の仕組みが陳腐化する”ことも想定しておかなければならないのです。
2016年7月に、まさにその点を含めた指針である「IoTセキュリティガイドラインver1.0」が総務省から発表されました。この中には、インターネットにつながるという前提で「不正なユーザーなどによるなりすましや盗聴などが行われないよう、認証や暗号化などの仕組みを導入すべし」との記載があります。今後、IoTに携わる方はぜひこれを参考にしていただきつつ、今回ご紹介した“暗号の寿命”に関しても頭の片隅に入れておいていただければと思います。(次回に続く)
著者紹介:
宮田健(みやた たけし)
元@ITの編集者としてセキュリティ分野を担当。現在はフリーライターとして、ITやエンターテインメント情報を追い掛けている。自分の生活を変える新しいデジタルガジェットを求め、趣味と仕事を公私混同しつつ日々試行錯誤中。現在、ITmediaエンタープライズにて、もはや誰もが人ごとではないITの課題や話題を紹介する「半径300メートルのIT」を連載中。また、それをまとめた書籍「デジタルの作法~1億総スマホ時代のセキュリティ講座」も発売中。
筆者より:TechFactoryでの本連載では、ITセキュリティの「あるべき論」「正論」だけでなく、モノづくりに携わる方たちに「気楽に」「楽しく」セキュリティを考えていただけるように、さまざまな話題を取り上げたいと思います。「セキュリティっていわれてもねえ……」と思わず考えてしまった皆さまに覚えていただけるようなコラムにしたいと思います。お楽しみに!
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宮田健の「セキュリティの道も一歩から」
「モノづくりに携わる人」だからこそ、もう無関心ではいられない情報セキュリティ対策の話。でも堅苦しい内容はちょっと苦手……という方に向けて、今日から使えるセキュリティ雑学・ネタをお届けします。
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