『つながる世界の開発指針』の実践に向けた手引き
安全安心なIoT機器の開発に必要な技術とは?IPA/SECの手引書を読み解く(2/2 ページ)
具体的に「つながる世界の開発指針の実践に向けた手引き」は、異なる分野から選ばれた専門委員で構成されるワーキンググループ(IoT高信頼化検討WG)で、分野間連携の利用シーン(ユースケース)を具体的に挙げ、必要となる機能やその機能要件、機能配置の議論を踏まえた内容となっています。
手引きの内容は以下から構成されます。
安全安心のための機能要件
利用開始後の利用状況や環境の変化を見据えた設計に向け、考え方を示しています。具体的には、利用「開始」から「終了」までのライフサイクルの中に、「予防」「検知」「回復」のフェーズを設け、下の5つのフェーズごとに検討すべき観点や安全安心を実現するための機能に求められる要件を紹介しています。5つのフェーズに対応づけて必要な機能を検討してもらうことを想定しています。
- 1 「開始」 導入時や利用開始時に安全安心が確認できる
- 2 「予防」 異常発生を未然に予防できる
- 3 「検知」 稼働中の異常発生を早期に検知できる
- 4 「回復」 異常が発生してもシステム稼働の維持や早期の復旧ができる
- 5 「終了」 利用の終了やシステム・サービス終了後も安全安心が確保できる
機器やシステムの利用開始後、複数の利用者で共用するような場合には、5フェーズが複数階層にわたり、それぞれの階層においてライフサイクルに沿った検討をしなければならないことがあります。例を挙げるならば、シェアリングサービス向けに事業者がIoT機器を購入し、初期設定するときの「開始」の後、シェアリングサービスの利用者が機器を一時的に利用するときの「開始」と「終了」があるといった具合です。
安全安心のための機能
ここでは、安全安心の実現のために必要となる具体的な23の機能を挙げています。機能要件と同様、ワーキンググループでの議論をもとに検討したものです。
アクセス制御機能、認証機能、暗号化機能といった基本的な機能をはじめ、問題が起こった際に追跡できるようログ収集機能やログが複数の機器やシステムに分散する場合でも突き合わせて事後分析できるよう時刻同期機能といった機能を含めて紹介しています。
また、利用者の管理下になくなってしまった機器やシステムを保護するための操作保護機能、稼働中にネットワークや機器の構成の変化に対応するための構成情報管理機能といった機能を挙げ、それぞれの機能の説明や留意すべき点を紹介しています。その一例として操作保護機能の説明を以下に抜粋します。
「つながる世界の開発指針の実践に向けた手引き」に記載している操作保護機能
- 目的 機器・システムの放置や盗難により、不正な操作をされる可能性があるときに操作を受け付けない。
- 説明 操作保護機能には以下のような機能がある。
- 操作のロックと解除
- 機器・システムの自律的なロックや、人または監視装置などからのロック
- 機器・システムの直接操作によるロックと遠隔ロック
- 上記のロックの解除
- 難読化 - 画面情報などを利用者以外からは読み難くする機能
- 操作のロックと解除
- 参考 IoT 開発におけるセキュリティ設計の手引き(IPA/リンク先PDF)
機能配置
安全安心を実現する機能をどこに実装するかを決めるための基本モデル(*)を紹介しています。エッジ、フォグ、クラウドの3層を前提にし、利用できる計算リソース、実現コスト、求められる性能といった要素とともに決めます。
利用者にとって素早い反応が求められ、IoT機器での実装が経済合理性にかなう場合にはエッジ(IoT機器)で実現する、比較的大きめの記憶領域が必要となり、分析に計算リソースや人手が必要になるが、リアルタイム処理は必要ないといった場合には、クラウドで実現するといった要件を加味して機能配置を決めます。
(*)経済産業省 産業構造審議会 商務流通情報分科会 情報経済小委員会 分散 戦略 WG, “中間とりまとめ,”(PDF)
分野間連携ユースケース
上述の機能要件と機能を得るためにワーキンググループの議論で想定した利用シーン(ユースケース)を紹介しています。ユースケースは将来予想される異なる分野での連携とし、本手引きがどのようなユースケースを想定しているかを理解してもらえることを目的としています。ワーキンググループにおいて議論したユースケースは以下の5件です。
分野間連携の例として議論されたユースケース
- 1 車両と住宅の連携
- 2 仮想大型発電設備と分散型電源監視サービスとの連携
- 3 宅内機器連携
- 4 戸締まり競合制御
- 5 産業ロボットと電力管理の連携
それぞれのユースケースにおける脅威やリスクの分析の結果、機能定義と機能配置の具体例を示しています。
『つながる世界の開発指針』の実践に向けた手引き[IoT高信頼化機能編]では、ここまで紹介した内容に加えて、巻末に脅威とハザードへの技術的な対応を「脅威と対策のまとめ」として記した他、高信頼化の抽出に際して参考とした、IICやCSA、日本ネットワークセキュリティ協会らによる標準やガイド類なども掲載しています。
これらがIoT製品やサービスの開発にあたり、利用者の安全安心を実現する機能を実装する際の一助になれば幸いです。
おしらせ
本稿で紹介した、「『つながる世界の開発指針』の実践に向けた手引き[IoT高信頼化機能編]」の紹介を始め、安全安心なIoTに必要な機能について紹介するIPA主催のセミナーが2017年6月16日に開催されます。
このセミナーでは、「実践に向けた手引き」をはじめ、IoTの実証実験やIoT高信頼化に向けての取組み事例を紹介します。ご興味ある方はこちら(安全安心なIoTに必要な機能とは~「『つながる世界の開発指針』の実践に向けた手引き」を解説~)より詳細をご確認ください。
著者紹介
森崎 修司(名古屋大学 大学院情報学研究科 情報システム学専攻 准教授)
2001年より情報通信企業においてソフトウェア技術者としてサービス開発に従事する。2013年より現職。ソフトウェア開発の効率化やソフトウェアの品質向上を目指すソフトウェア工学を研究の軸とする。IPA(独立行政法人情報処理推進機構) 2016年度 IoT高信頼化検討ワーキンググループで主査を務める。
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